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他人にアイデアを口頭で伝えるときに意識していること(関西大学の学術講演会で感じたこと)

先日、関西大学で学術講演会をやってきました。500人収容のホールがほとんど上から下までいっぱいに近い感じだったので、300人から400人程度は入ってくれてたように思います。おそらく主催の関西大学の社会学部の教員のみなさんが学生をしっかり動員してくださったのだろうなあと恐縮しっぱなしでした。また、日本各地、1人は北海道から、1人は沖縄から、仕事の合間にわざわざ講演に立ち寄ってくださったかたもいました。本当にありがたいことです、写真って改めてすごいなーと思います。いろんなものをつなげてくれる。

僕個人の感想としては、講演は半分は成功、半分は課題を残す内容でした。というのは、事前にしっかり準備したのですが、準備が行き過ぎて最後の方は駆け足になっちゃったことです。こういうのは僕は結構つらい。成果に対してわりと神経質なところがあるので、できるだけ丁寧に伝えたいと考えるのですが、今回はその気質が行き過ぎました。多分気負いでしょうね。関西の大きな私立大学の単独学術講演なんて、普通は僕みたいな駆け出しに近い人間には回ってこない話なので、珍しく気負ってたんだと思います。できるだけしっかり伝えようって。まあ、早い話しが「ええかっこ」したかったんだろうなと。反省。

その中で一つ嬉しかったのは、講演後、ひとりの学生から「目線を学生に合わせようとしてる」というようなことを言われたことでした。わりと柔らかめのべらべら喋る関西人キャラなので、そこが「学生目線」っぽい感じで受け取ってもらえたのかもしれないんですが、それに加えて、人前で話すときに僕が一番肝に銘じていることが、一応役に立ったのかなと。それがこれです。

「他人に口頭でアイデアを伝えるときには、相手の「理解」や「共感」を当てにするべきではない」

もちろんこれ、「他人は理解してくれない」ということを言いたいわけではないし、いわんや「他人は愚かである」などと言いたいわけでもないです。そうじゃなくて、書き言葉と話し言葉の間の「密度」の違いを意識しなきゃいけないということなんですね。

言語というのは基本的にその話の「内容」で成り立っているように見えますが、言語学者たちが口をそろえて言うのは、我々が口で物事を話すとき、相手がその行為のどの部分に着目しているかというと、大体は「声のトーン」と「身振り手振り」なんです。話し言葉って、その大半が相手に伝わらない。学者によって言うことはちょっと変わりますが、だいたい共通しているのは、話し言葉のうち「内容」が占める部分は、せいぜい10%なんですね。それ以外はだいたい言語外の情報が担っている。それに対して書き言葉は何度も読むことができるので、基本内容やロジックを重視した構造になります。この落差を意識しないと、人前で話すときに大惨敗する。人は、他者の話し言葉を、そんなに完璧に理解できないんです。書き言葉で考えたロジックは、密度がこすぎるんです。学生さんたちに授業内でプレゼンさせるときに僕が何度も言うのは「台本を覚えるな、台本を読むな」なんですが、それは「書き言葉」の密度を話し言葉にそのまま持ってきても、あまりに密度がこすぎて眠くなるからなんですね。処理能力が追いつかないとき、人間は眠くなっちゃうもんなんです。

だから、講演会のような話し言葉メインの場において、「自分の考えを正しく述べれば正しく伝わる」というような前提だと、実は全然話が通じなくなります。だって書き言葉で100の内容を100の密度のままで話しても、せいぜい人が受け取ってくれるのはそのうち10%くらいなんですから。繰り返しますが、それは他者の能力のせいではないです。話す側の方が、言語や人間の性質に対する配慮が足りてない。「話し言葉の密度は薄いものだ」という前提を意識しないで、濃密な自分のロジックをダラダラ述べたところで、伝わるわけがないんですね。

人前で話すときには、できるだけ具体的な例を上げたり、別角度からの視点を提供したり、言い換えたり言い直したりまとめたり、時にはユーモアで緊張をほぐしたりして、一つのアイデアを伝えるために、過剰に思えるくらいの「回り道」が必要になってきます。今回僕はその「回り道」を準備しすぎて時間が足りなくなっちゃったんですが、でも、少なくとも何人かの人には「目線が同じ場所にある」ように感じてもらえた。半ば成功したというのは、そういう意味ですね。

そしてこのことは最終的には写真や、あるいは当の「書き言葉」にさえ当てはまることではあるんですが、それはまあまた別の機会にでも。とりあえず関西大学の講演会は本当にいい経験になりました。関大の学生や事務や教員の皆さん、ありがとうございました。

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