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ゲームで遊んでいたら読みたいマンガが増えていく 「マンガ読書会ゲーム」、楽しすぎなので商品化求む

カードをめくると「コマ割りがかっこいいシーン」というお題が表示された。好きなマンガを1冊ずつ持参した11人。それぞれ必死にページをめくって、かっこいいコマ割りを探す。
一番いいプレゼンをして、このマンガ読書会ゲームに勝つために――。

2月28日(木)、マンガ専門書店&カフェバーのマンガナイトBOOKSで「マンガ読書会ゲーム」を開催した。
考案したのは、「ぷよぷよ」「はぁっていうゲーム」など数々のゲームをつくってきたゲーム作家/ライターの米光一成さん。
ぼくがマンガナイトBOOKSのカウンターにたつ日に、1日店長として何かマンガの企画をやっていただきたいとお願いしたところ、わずか2週間ほどで“好きなマンガをゲーム形式で語り合えるカードゲーム”をつくってくださった。

マンガ読書会ゲーム」のルールはざっくりいうとこんな感じ。

・参加者は好きなマンガを1冊持参する
・「設定がわかる1ページ」「作品の1ページ目」など、お題が書かれたカードをランダムに1枚、場に出す
・みんなでそれぞれお題にそったコマやページを探す。制限時間は、最初に決めた人が砂時計を逆さにしてから1分間
・砂時計を逆さにした人から時計回りに、お題にそってマンガの魅力をプレゼンしていく
・一番魅力を感じた作品に、せーので指をさして、もっとも多かった人が1ポイント獲得
・4、5周して、もっとも票が多い人が優勝! 最後、持参したマンガを数分自由にプレゼンできる

当日集まった9人+米光&黒木で、こんな流れで1時間ほどプレイした。
これがゲームを遊んでいるだけなのに、他のマンガを1作品ずつ多角的に見つめてどんどん気になるわ、自分が持ってきたマンガも思わぬ魅力を再発見できるわ、とにかく「ゲームしていたら勝手にマンガが好きになり、読みたい作品も増えていく」状態で、実に画期的だった。

11人が持参したマンガは次の作品。

・『球詠』マウンテンプクイチ https://www.amazon.co.jp/dp/4832247670
・『pink』岡崎京子 https://www.amazon.co.jp/dp/4838721412
・『3秒』マルク=アントワーヌ・マチュー https://www.amazon.co.jp/dp/4309273084
・『ウツボラ』中村明日美子 https://www.amazon.co.jp/dp/B00G266ZJQ
・『究極超人あ~る』ゆうきまさみ https://www.amazon.co.jp/dp/B07FTBP7Y9
・『空の食欲魔人』川原泉 https://www.amazon.co.jp/dp/B00DMU5XAC
・『ダスト18』手塚治虫 https://www.amazon.co.jp/dp/4845632497
・『違国日記』ヤマシタトモコ https://www.amazon.co.jp/dp/B077GQL19W
・『珈琲時間』豊田徹也 https://www.amazon.co.jp/dp/B00AF5PK14
・『おもたせしました。』うめ https://www.amazon.co.jp/dp/B06XYG713P
・『音楽と漫画』大橋裕之 https://www.amazon.co.jp/dp/4778320859

●カードのお題にそって好きなマンガをプレゼン


たとえばお題「コマ割りがかっこいいシーン」のとき、一番票が集まったのは『球詠』だった。
マンガ誌『まんがタイムきらら』(芳文社)で連載されている女子高校野球のマンガ。『けいおん!』『咲』のような萌系タッチの少女らがガチの野球勝負を繰り広げる、『きらら』らしい一作だ。

ただかわいい子たちの野球姿を眺める眼福マンガかと思いきや――
野球のマンガ表現もかなり凝られている作品なんですよ!」と推薦者がページを開いたのは、ピッチャーの投球の軌道が1つのコマを縦に割り、2つのコマを作り出しているシーン。右にはバッターの驚く顔、左にはキャッチャーの捕球している姿が描かれている。
球筋を枠線にしてしまうことで、今の投球の鋭さや速さをバッター&キャッチャーのリアクションと一体化して見せるという、マンガ表現の自由さを感じられるコマ割りだ。
おおーっとうなる参加者たち。9人から支持を得て、このお題ではぶっちぎりの1位となった。

別のお題「マンガの1ページ目」では、それぞれが問答無用でコミックスの1ページ目でプレゼンし合う。

人気だったのは、岡崎京子『pink』。
表紙ではカンカン帽にワンピースと、主人公の女の子がファンシーな格好で描かれている。

しかし1ページ目の扉絵では、その子がTシャツを持ち上げ胸をポロンと丸出しにしている。表情も挑発的だ。
普通のOLをしながら家ではワニを飼い、デリヘル嬢をしている主人公。その二面性を表した秀逸な1ページ目として評判だった。

●1つのお題から読み比べる


最後のお題『作品の設定がわかる1ページ』も白熱。
「この作品はどんな内容なのか」をパッとつかめるページを、それぞれ必死に探し、紹介し合う。

個人的に記憶に残ったのは『珈琲時間』のプレゼン。コーヒーを題材にした10ページほどの短編を17編、ぎっしりつめこんだ1冊だ。

「どうして作者がコーヒーをテーマにしたのか、コーヒーというのはどんな魅力があるのか、このセリフに詰まっていると思うんです」
推薦者があるコマのセリフを読み上げる。

「人生に必要なのは何か? 生きる糧となるものは? 酒か? 恋愛か? 金か? それらは強すぎる 私は一杯のコーヒーだと思う」

酒も恋もコーヒーも嗜む身として、強く刺さった。そう、コーヒーって生きる力を与えるいろんなモノのなかでも、身を滅ばさない優しさがいいんだよね。
このセリフってどんなシーンで登場しているのだろう、この「コーヒー論」に基づいて17編もどんな話が描かれているのだろう。
気になったのでゲームのあと、Kindle版を買ってしまった

3秒』の推薦者が見せた1ページは、なんと裏表紙。

3秒間に起こったある出来事を、光の進行とともに正方形602コマの連続で見せ、次第にとあるサッカー界のスキャンダルが明らかになる――という斬新なバンド・デシネ。

その設定を示しているのは、裏表紙に書かれた3つの「3秒の定義」だとみんなに見せる。

・3秒ーーそれは光が90万kmを走破する時間であり、銃弾が1kmを駆け抜ける時間。呼吸をするのに必要な時間。涙が零れ落ち、爆発物が爆破し、SMSが送受信される時間。
・3秒ーーそれは登場人物と手がかりが奇妙にも錯綜する沈黙の謎。飛行機と銃を構えた人物たちとスタジアムの間にどのような関係があるのだろうか? このパズルを解くのは読者である。
・3秒ーーこれは本の形式だけでなくデジタル・ヴァージョンでも読むことができる物語だ。ズームを多用しためくるめくグラフィックで、時空をめぐるさまざまな実験を行った野心作。

3秒ってなんだ、この作品ってなんなんだ
この1冊のミステリアスな印象がますます濃くなり、参加者たちは好奇心を煽られる。
一方でぼくはというと『3秒』をすでに持っており、「そのページを選ぶんだ」と感嘆していた。
「自分だったらコマの連続を見せていただろうけど、それだと説明難しかっただろうな」「裏表紙、定義書かれていたの忘れてたなー、あらためてみるといいデザイン」と、いろんな気づきを得ていた。
読んだことのあるマンガでも、お題や参加者によって思いもよらぬ切り口、視点でその作品を見つめ、新たな魅力を発見できるのはこのゲームの醍醐味だ。

このお題でも一番人気だったのは、『球詠』。
紹介したのは、女子野球部の試合の一場面を切り取った見開き。バッターボックス、ピッチャー、キャッチャーどころか、審判、観客も、2ページに描かれた人物は、みーーんな女の子
こんなシーンが描かれた野球マンガ、どこを探してもほかにないだろう。
「この野球マンガには女の子しか出ません、かわいい子たちが野球する姿をずっと楽しめるマンガです、っていうのを一番よく表したシーンだと思うんですよ!」と推薦者が熱弁すると、一同笑いながら大納得。


もっとも支持を集め、最終的に今回のマンガ読書会ゲーム総合でも得票1位となり、『球詠』が優勝となった。
ぼくもつい1巻を買ってしまった……かわいかったし、ちゃんと野球やっていました。

  *  *

初めて会う人にマンガを紹介するのって、なかなか緊張するし、どのポイントから話せばいいのか悩む。これがゲーム形式、しかも設定されたお題に沿って話すとなると、だいぶ気持ちは楽だ。

1つのお題で複数の作品を見比べるのもこれまた楽しい。
「コマ割りがすごいシーン」だと、『球詠』のように枠線を工夫する作品、『3秒』のように1ページ9コマの正方形で統一してしまう作品、『pink』のように枠線も無くして真っ白にしてしまうことでキャラの放心ぶりを表現してしまう作品――。

1つの作品を複数のお題で見つめるのも楽しい。
初めて出会う作品でも、4つほどのお題でその作品を見つめるとやっぱり好きになってくるし、「あれ、さっきの『1ページ目』のお題だとパッとしなかったけど、『コマ割り』だとすごく魅力的だな」と個性にも気づく。
持参した作品でもそう。
ぼくは大橋裕之の『音楽と漫画』だったのだけど、絵に関しては脱力感が持ち味のマンガ家なので、「コマ割りがすごい」カードが出たときは頭を抱えてしまった。だけどがんばって探してみたら意外とこだわりが見られる箇所もあって、些細ながんばりようがこれまた大橋裕之らしい。ますますこの人が好きになった。

互いに持ち寄った作品、そしてマンガという表現にある魅力をいつの間にか能動的に探し、紹介しあっている「マンガ読書会ゲーム」。
米光さんとしては作成後の初プレイ、まだまだ改善の余地ありということで持ち帰っていたが、お店としてはカードをそのまま店に置いていってほしいほど楽しいゲームだった。
マンガ愛の増強マシーンすぎるので、早く商品化して、何度も遊ばせてくださーい。

とりあえず、またどこかでプレイすると言っていたので、そのときはまた案内します!

写真撮影:小村トリコ

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