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コーラを自作し、炭酸飲料の可能性を探る

はじめに


 コーラが高い。
 先日、俺は道を歩いていて思わず目を見開いた。自販機にあるコカコーラの500mlのボトルが一本でなんと180円もする。はっきり言って、驚きを禁じ得ない価格設定である。俺はとっさにあたりを見渡した。ここは富士山の頂か、もしくはディズニーランドのただ中か。そうでなければこんなにコーラの値段が吊り上がっているなんてにわかには信じかねる。しかしいくら目を凝らしても視界に入るのは奈良県橿原市ののどかな街中の風景である……いや、橿原市も最近はおしゃれなカフェができたりおしゃれな飲み屋ができたりおしゃれな焼き肉屋ができたりしているのだ。近鉄大和八木駅が京都方面と接続されてからもう半世紀以上も経つ。関西地方最大とされるイオンモールは毎日家族連れからカップルまでが来店し毎日賑わっている。いくら橿原市といえど田舎扱いするのは失礼だ。それにしても、コーラが500mlで180円とは──

イオンモール橿原店(Wikipediaより)。自転車をどこに置いたか忘れると悲惨

 売られている値段に文句があるのならやるべき行動は二つのうちどちらかだ。我慢するか、自分で作るかである。俺は我慢ができない人間だ。気が付いた時にはすでに体は近鉄大阪線の座席に載っていた。なんのために? 材料のライムジュースを買いに行くためである。amazonで注文するという選択肢はハナからない。待てないからだ。少年の心を胸に電車を乗り換え、梅田の成城石井で俺は100%ライムジュースを手に入れた。

100%ライムジュース。小瓶一本で400円した

 コーラという飲み物、その独特の風味が何でできているのかご存じでない方も多いことと思う。コカコーラにしろペプシコーラにしろ、原材料名の欄には「酸味料」だとかわかったようなわからないようなことしか書いていないし、これらのレシピは秘伝のものとされている。一説には、コカコーラのレシピは金庫の中で厳重に保管されているとの噂すらある。
 だが調べてみると意外にも、その秘伝とは決して誰の手にも届かないものではないことがわかる。俺が今回コーラを作るにあたって参照したのは以下のお三方のレシピである。

 こうして見てみると、レシピさえわかってしまえば案外コーラとは簡単に自作可能であるとのことがわかる。要するに、「柑橘系のジュースと」「スパイスやハーブを煮詰め」「砂糖とバニラエッセンスを加えて」「炭酸水で割る」の4ステップを踏めばコーラのような何かは出来上がってしまうというわけだ。
 できる限りいつも飲んでいる既製品に近づけるのなら材料の分量などは厳密に測るべきだろうが、決して売られているものを正確に再現する必要はない。むしろ、既存のものを目標地点とせず自分の好きな味にチューニングできることこそ自作の強みでもある。コーラと言えばあのガツンとくる甘さが特徴の一つでもあるが、俺は父方から糖尿病の遺伝子を受け継いでいるせいか甘いものを一気に摂取すると猛烈に気分が悪くなる。だから砂糖を控えめにしたブレンドを作ることで、わざわざ二日に分けて気の抜けたコーラをちびちび飲むなんてこともしなくてよくなるわけだ。以下は、上に挙げた先達から得た知識を実践した記録である。

第一作(コーラ)のレシピ

 さて記念すべき第一作としては、以下のようなレシピである。分量は適当だが、一応写真を添付してあるのでだいたいわかるだろう。写真の右下端にある茶色い粉末から反時計回りに、
・シナモン
・クローブ
・コリアンダー
・ジンジャー
・カルダモン
・ナツメグ
・パクチー(ペースト)

卵焼き器がちょうどいいサイズだった

 である(コリアンダーとジンジャーの境目がわかりにくいので点線を補っている)。溜まっている黄色がかった半透明の液体は先述したライムジュースであり、決して石油ではない。ここに写真のようにスプーン山盛りのザラメ糖を三杯加え、さらに100%のオレンジジュース(トロピカーナの濃縮還元)を250mlほどとバニラエッセンスを15滴ほど加えて煮詰める。だいぶ糖分が多いようだが、おそらく本物のコーラはもっと多い気がする。皆様方は炭酸抜きコーラというやつを飲んだことがあるだろうか? はっきり言って飲めたものではないくらい甘ったるく、それが炭酸で隠蔽されていたにすぎないのだと踏まえると、既製品のコーラとはなかなか恐ろしいものだとよくわかるはずだ。だからこそ最近は糖分の吸収を抑える食物繊維を加えた、トクホのコーラが売っていたりするのだろう。実際俺も、以下で紹介するほかのレシピも含め、すべて食物繊維の一種であるマルチデキストリン入りの炭酸水で割って飲んでいる。これ以上内臓を悪くしたくないのだ。あまり無遠慮にコーラを消費することはすなわち砂糖の山へとダイブすることに他ならない。そんなことを繰り返していては「オイオイオイ 死ぬわアイツ」と言われてしまうこと間違いなしである。こうして作った原液を、茶こしを通しながら急須に入れ替え、冷えたところで炭酸水で割って飲むことにした。

煮詰めたあとの液。濃度が高く、ドロドロしている

第一作の結果


 この自作コーラ第1号だが、結論から言うと、うまかった。コーラなのかというと正直微妙だが、オレンジの果汁がもともと持つ悪ガキのような弾ける甘酸っぱさを、スパイスの鋭い風味が舌の上で泡立てている、愉しみのあるおいしさだ。言うならば、オレンジの味がスパイスの振る指揮棒に従って跳ね回っているかのようだ。つまりオレンジの味が主体になっているということだが、よくよく神経を口の中に集中してみるとその向こうにスパイスのスッとする感じがわずかに認識できる。
 こうしてみるとスパイスの組み合わさってできる結果の味というのは不思議なものである。ナツメグなんて単体では鉛筆の芯みたいな味だし、カルダモンも舐めてみるとしょっぱいんだか痛いんだかようわからんけど少なくともおいしいという感じではない。それをいくつも組み合わせて作った足場にオレンジを乗せてみれば、ここまで見事に立体的な味になるのだ。
 砂糖もただ甘さを強くするだけでなく重要な役割を持っている。要するに焦げ、カラメルの苦い風味だ。これもコーラに欠かせない、いち成分である。昔の子供は砂糖を焦がして膨らませただけのものをカルメラと称して食べたくらいだし、砂糖の焦げは馬鹿にならない。この第1号を最初作った際はあまりその点を強く意識しなかったが、もう一度同じレシピで作る際には砂糖をより焦がすように、オレンジを加える前にしっかり加熱し、それからカフェインの成分を足すためにネスカフェのインスタントコーヒーのもとを三粒ほど加えた。結果、よりコーラらしい味わいになった。
 茶こしに残ったスパイスの搾りかすみたいなやつは冷蔵庫で冷やしておいて固まったころに食べると大変おいしい。昔子供の時に食べたコーラ味の飴みたいな感じだ。これもこれで自作コーラのもう一つの楽しみであり、いわばザルそばを食べた後に飲むそば湯みたいなものだろう(違うか?)。

少ない液量で焦がしてから、伸ばすようにオレンジジュースを加えた

第二作のレシピ:


 さて、おおよそコーラのようなものを無事作れたとしても、これだけでは物足りない。自分で選んだ材料を調合して好みの炭酸飲料を作れるのだとわかった以上、何も一般的なコーラを目標として固定する必然はどこにもないはずだ。ここからは、俺の勘で適当に思い付いたレシピを順次試していくことにした。
 まず最初に思い立ったのは、りんごの味を主体としたレシピである。りんご味の炭酸飲料はスーパーなんかで探しても、案外なかなか見かけない。ごくたまにちょっとリッチな喫茶店のメニューにあったりするのを頼んでみると大変おいしいが、いかんせんそういうお洒落な店に行く頻度が俺は少ない(理由は本に金を使いすぎるためである。この前本棚の積読を数えたらあまりに多く、348冊目で数えるのをやめた)。だが家で自作できれば容易にこの問題は解決できる。ということで、試してみたレシピが以下の通りだ。写真の右下端の茶色い粉末から反時計回りに、
・シナモン
・ジンジャー
・クローブ
・カルダモン
・パクチー(ペースト)

りんごに合いそうということでシナモンが多め

 である。前回とは違い、写真の黄色い液体は100%のりんごジュースである。スーパーで1L200円くらいのやつがあったからそれを買った(今度こそ石油ではないかと期待した方、残念でした)。この少量の液にスパイスと、先ほどのスプーン1杯のザラメとスプーン1杯のハチミツを混ぜながら加熱し、焦げたカラメルの色が出てきたら少しずつさらにリンゴジュースを加えていく。また、前回はバニラエッセンスを加えたのに対し、今回はアーモンドエッセンスを加えた。しばらく煮詰めて体積が減ったら、冷蔵庫にインだ。十分冷やしたところで、炭酸で割る。果たしてどうだったか。

第二作(りんご)の結果


 これも非常にうまかった。というか、一作目のコーラを十分に上回っていると言えるだろう。自画自賛するのは気が引けるが、喫茶店でちょっとした名物として出されても全然納得のいく味だ。おそらく誰に飲ませてもうまいという感想をもらえると自信をもって断言できる。
 個人的にはアーモンドが想像以上にいい仕事をしてくれた。なんとなく頭の中で味のシミュレートをしておそらく合うだろうとの算段のもと使ってみたのだが、目論見は大成功である。以前、近所の成城石井にバニラのほうを買いに行った際、横に置いてあったのをなんとなく気まぐれで買って、以来半年ほど使い道もなく持て余していたのがここで役に立った形だ。
 が、こうして作っていて気づいたことがある。コーラが高いのに反発して自作を試みているのに、どう考えても普通にコーラを買うより金がかかっている。原液を煮詰めたりする手間も考えれば赤字もいいところだ。作る楽しさというのはもちろんあるし、それに今回のりんごのやつはある程度金を払って飲んでも満足できるものではあるが、やはりもう少し経済的な手軽さが欲しい。今回は使わなかったが、ライムジュースなんて毎回使っていたら破産してしまう(あまり大きな声では言えないが、最近あまりにも本を買いすぎたせいでリボの残高がえらいことになっているのだ)。そこで次は、幾分省エネでやってみることにした。

第三作のレシピ


 次のレシピはグリーンティー風味である。グリーンティーという名前は実は商標登録されているらしい。日本の喫茶店だとグリーンティーとは抹茶を指すが、そんな上等なものを調達できるほど俺の台所事情は裕福ではない(実際、こうして安普請の台所で作業している)。ので、緑茶のパックを煮詰めて無理やり濃く抽出することにした。1パックで500mlぶんのパックを、300mlのお湯で煮詰めるのだが、省エネであるゆえに足すスパイスもシナモンとカルダモンの2つだけにした。

スパイスは少なめ。緑茶味の炭酸って聞かないよね

 ザラメは二杯にして、バニラエッセンスも足し、さてどうなるか。

第三作(グローンティー風味)の結果


 これは微妙な出来だった。いや、これはこれで悪くはないし、甘いお茶の風味をシナモンとバニラが強化しつつ、そのお菓子みたいなベクトルと炭酸の爽快なベクトルが、本来だいぶ離れているのをカルダモンが橋渡ししてくれていて、バランスが取れている。だからこれはこれでアリなのだが、わざわざ煮詰めて冷やして炭酸で割ってという手間をかけてまで作るかというとやや釣り合っていない感じだ。まあ、材料が貧相だから仕方がないのかもしれない。だから次は潔く、再びリッチなレシピで挑んでみた。

第四作のレシピ

 さあ、いよいよネタが尽きてきた。しかし俺はかれこれ一人暮らし歴8年、スパイスの使用歴はそれに同じである。まあ何かちゃんと料理本を読んだ過去があるわけでもなく、ましてや料理教室に通って習ったわけでもないのだから手探りの我流でやっているにすぎないのだが、こういういい加減な勘で好き放題できるのがDIYのいいところである。
 今回はとりあえず、冷蔵庫にあったレモン汁を使うことにして、それに合うもので考えてみた。レモン汁の刺すような酸っぱさをそのまま活かしてもいいのだが、俺はレモンのそういうところが好きではない。唐揚げにかかってくれる分には別に構わないが、それは鶏肉からしみ出してくれる脂分がレモン特有のあのイガイガした酸味を中和してくれるからいいのであって、レモンそのままむき出しというのははっきり言って好きではない。だからレモンスカッシュみたいなものも好みではないのだ。
 となると、ある程度の雑味が必要になる。冷蔵庫に手を突っ込んであれこれと探した結果、しょうがのチューブが見つかった。第一、二作目で使ったジンジャーは乾燥粉末だが、こちらは生のものなのでだいぶ風味が違う。俺の経験ではチューブのしょうがを使った場合、なんというか、ぼんやりしたあいまいな味になるのだ。使いどころを間違うと味を殺すことになるが、レモンの尖ったところを上手く打ち消してくれるだろう。そのほか、まあ無難にシナモンとカルダモン、パクチーペーストも追加した。しょうがはこの際だから多めに使ってみる。さてどうなったか。察しのいい方はわかるだろう。

四作目。なぜ調理前にどうなるかわからなかったのか

第四作(しょうが)の結果


 ジンジャエールができてしまった。

第五作のレシピ


 ジンジャエールはうまかったのだが、正直これは既製品に勝る点があまりなかった。これなら別に手間をかけてまで作る必要はない。第二作のりんごが自分としては大ヒットだった分、以降のふたつはどうも物足りず、悔しいところである。
 が、ここであるものが限界を迎えてしまった。歯である。俺は元々虫歯になりやすい体質で、気のせいなのかもしれないがコーラを飲んでしばらくうがいをせずにいると歯がシンシンと痛んでくるような気がする。それが、こうも立て続けに甘い炭酸を飲み続けた結果、なんだか心なしか歯の表面が柔らかくなってきた気がした。ここであえなく敗退……と言いたいところだが、一つだけ試していないレシピがあったことを思い出した。お茶のもう一つの可能性、爽やかさである。
 グリーンティー路線ではまったりとした甘さを作り出すためにシナモンを多めにしたが、そうではなくペットボトルの冷たいお茶のようなスッとする路線を目指してもいいだろうという目論見である。しかしそのためには何を加えればいいか?
 人間の精神は存在ではない。しかし言語は公共性と時間的連続性を不可避的に持ち、主に言語によって人間が自覚を行い自由意志を行使するために、自分の精神は存在であるとの錯覚が生じ、さらにはより存在的であるべきだという存在論的妄執へ至る。その妄執の行く先は強迫の苦しみである。すなわち、コーラという言葉が大体誰の口から出てきても、それが「あの茶色いシュワシュワした甘いジュース」であることが誰にでもわかる、という状況、そしてそれがこの先の未来でしばらく続くだろうという確信は、われわれ人間に与えられている存在論的妄執の苦しみの片鱗をいくらか作り上げているということになる。それがどのくらいの程度のものかはわからないが、「コーラ」という語が「あのジュース」でなくなれば、存在論的妄執の苦しみのうち0.000000001% くらいは軽減されるのかもしれない。

オイオイオイ

 とすると、この世に生きる人々の苦しみを取り去るという大乗仏教的、観音的立場に立つのなら、俺はいまこの記事で「コーラ」という語が指す先を少しでも別のほうへと向けてみるべきではないか。それならば、コーラの材料として標準的な枠組みを超え、もっと自由なレシピを目指してみてもよいのではないか。
 考えに考えた結果、スパイスでは爽やか路線は無理だという結論に達した。代わりのものとしてここはひとつ、「和」のテイストでまとめるということで、ワサビなんかいいんじゃないか。飲み物にワサビが入っているというのはなんだか奇妙だが、取り合わせ次第でそれは何とかなるだろう。昔にテレビで目にした「アメリカで人気の日本食」みたいな番組で確か、朝食時に食パンの表面へ緑色のペーストを山ほど塗り付けた家族が「わさびクリームの味はどう?」「素晴らしいよ」みたいに談笑していた記憶がある(それにしても、外国人が日本文化に感心するという体のテレビ番組は本当に昔からあるものだ。いい加減やめればいいのに)。しかしお茶とワサビでは距離があまりに遠い。第三作のカルダモンのところでも述べたが、全く異なるタイプの味をただ混ぜるだけでは、口に入れたときに二つの味が別々にやって来て調和しないのだ。それは俺の好みではない。では、この二つを橋渡しするものとは一体何か。
 答えを探し求めて俺は、スーパーの調味料売り場を三日三晩練り歩いた(ウソ。そもそも俺の行くスーパーは夜の9時で閉まる)。その果てにたどり着いた答えは、ローズマリーだった。

ローズマリーの葉っぱってマリーゴールドの種に似てる

 我ながらなかなかいいものを見つけたものである。ローズマリーの清涼感と苦みは、お茶とワサビのちょうど中間に位置している。痛めつけられた歯を回復させるためにフッ素を最大量配合したジェルを塗り付け、およそ2週間の間俺はローズマリーのことを考えながらこの第五作目に挑むタイミングを待ち続けた(ウソ。本当は単に忘れていただけ)。そして満を持して挑んだ時の写真がこちらである。

卵焼き器はお休みし、ふくふくにゃんこのコップで漬けた

 まずお茶を淹れる。本来なら500mlぶんのお茶を抽出できるのを、200mlほどのお湯にパックを漬けて1時間ほど放置した。しかる後に写真の量のローズマリーとワサビを加えてさらに1時間待ち、今まで同様茶こしを通してから冷やして、炭酸水で割る。今回煮詰める工程を経ていないが、それは材料の繊細な風味が飛んで清涼感が薄れることを防ぐためだ。なので、ザラメを溶かすことはできないため、ガムシロップで甘みをつけた。さあ味のほどは、はたして。

第五作(わさび)の結果


 なんか謎の飲み物ができた。しっかりと苦みがあり、しかしそれがお茶やワサビ由来の豊かな風味と合わさって奥行きのある味わいとなっている。ローズマリーはというと、なんだか「草っぽい」感じを作っていて、それが悪く働いている気もするがこれはこれでいいようにも思う。ちょっと例えようのない味だが、しかしよくよく思い出してみると比較的近い何かが思い当たる。カクテルのモヒートだ。なるほど、ミントとワサビは風味の上では近縁なのかもしれない。しかしワサビのほうがなんというかボディ感があって、それがこの第五作に独特のふくらみをもたらしているようにも思う。
 モヒートに似ているのなら、いっそのことアルコールカクテルにしてしまえばいい。ちょうど家には、ちびちび飲み続けているブランデーのⅤ.S.O.Pが残っている。

ブランデー。高いのでちびちび飲んでいる

 これをわずかに加えてみれば、案外いいかもしれない。このままパッとしない結果に終わらないよう、一縷の望みを俺はブランデーに託した。百均で買った箸で、泡を立てないようにそっと混ぜ、口に含んだ。

!!!!!!?????

 なんだこれは。異様にうまい。口の中で、何やらブドウの香りらしきものが漂っている。そういえば、ブランデーとはワインから作った蒸留酒なのだった。蒸留過程で失われたものを結果的に補った形になったのか、原理は不明だがとにかくフルーティーな味わいが発生している。一体どういうことだ。飲み物の色自体はブランデーを加える前後でほぼ変わらないのに、さっき普通の炭酸飲料として飲んだときとはまるで異なる表情である。これはブランデーというのがそもそもそういうものなのか? 確認のため、ブランデーを炭酸水で割ったものへガムシロップを加え、飲んでみた。全然違う。先ほどの、ブドウがもともと持つみずみずしい甘さではなく、ガムシロップの単純な甘さだ。そういえばフルーツティーの類なんか、砂糖をドカドカ加えて飲むと果汁から雑味をそぎ落としたシャープな感じになるのだが、もしかするとお茶がキーになっているのかもしれない。
 いずれにせよ、新しいカクテルのレシピを一つ見つけられたことは大きな発見である。あまりにうまいので、これは何かの間違いかと疑って次の日同じレシピで再現してみたが、やはりうまい。この収穫をもって、今回の記事の結びとしたい。

おわりに


 冒頭でも述べたが、筆者は糖尿病の家系である。それと関係があるのかは不明だが、糖分を一挙に摂ると膵臓のあたりがギリギリと痛くなってくる。よって、いかにマルチデキストリン入りの炭酸水で割っているとはいえ、一連の実験はすべて決死の覚悟で行っているし、実際第五作のレシピを試しているときは続けざまに完成品を飲んだためガムシロップ3つ分を一気に摂取してしまい、大変焦った。一応、吸収を遅らせるため繊維質を追加しようと海苔を10枚ほど食べたが、それでもやや気分が悪くなった。医食同源、what you are is what you eat(貴様の体は貴様が食ったものでできている)、である。カップラーメンばかり食べているそこのあなた、食事は命がけの行為であるのだと気を付けたほうがいいですよ。

 俺のTwitterアカウントはこちらである。また、来月末(6/26)に筑摩書房から発売の『太宰治賞2023』に、俺の書いた小説『魚の名前は0120』が全文掲載されるので、興味のある方はぜひお読みいただければ幸いである。

次回:
5/22(月)を予定
テーマは『新世紀エヴァンゲリオン』
人ならざるモノの意志:『新世紀エヴァンゲリオン』について

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