小説『無題』~2018年文学フリマ発表作品④~

昨日と今日と,今年の文フリについて告知をさせていただきました。

新作『明けない夜――犯罪行動心理等分析室捜査ファイル――』よろしくお願いいたします!

本作の執筆,校了作業が大詰めだったため昨年の作品を投稿できずにいましたが,再開いたします。

今週末が今年の文フリなので,それまでに去年の作品を公開できればと思ってがんばります。

読みやすくなるように加筆修正しました。よろしくお願いいたします!


4.  反撃

北朝鮮に入った。この国の利点は各国が介入しにくいことと国内政治くらいだった。その他はそれほどよくない。
東雲を連れて歩く男は日本人だった。彼のライバル会社に雇われた傭兵のようなものだ。
与えられた任務は東雲を拉致し,尋問し必要な情報を聞き出すこと。次世代型の多国間防衛データベースについてだったが,そんなのはどうだっていい。
金があって任務がある。この仕事が終わればロシアか中東でのんびり余生を楽しもうかと思っていたのだ。
さっさと終わらせよう。ロシア美女が待ってる。

東雲はまた目を覚ました。
まず目を覚まして感じたのは,地面の感触が無いことと手首の痛みだった。
自分は今,宙づりにされている。そう認識するまでには10秒ほど必要だった。
そして,今まで自分の身に起きた事を思い出すと,これから何が起こるのかをぼんやりと察した。
拷問だ。
今の今まで拷問なんてものは,ドラマの中だけの話だと思っていた。CIAやらどこかの地下組織がやる物だと。それが今目の前で,よりによって日本人にやられるとは,神も仏もないのだろうか。
半ば諦めたところで目の前の男は,お決まりの台詞を放った。
「分かってること全部話せ」
「知らない」
答えもお決まりだ。さて,次は何が来る? 殴られるのかと身構えていたら宙づりから下ろされた。
「そうか。知らないのか。じゃあこうしたら思い出すかな?」
無感動な声。言い終わったと同時に左脇腹に重たい蹴りが入った。思わず声を上げそうになるが,ぐっとこらえた。なぜかは分からないが,本能からくるせめてもの抵抗だろう。
2発3発。人間の体の限界を知らない彼は,死ぬんだなと思った。
「思い出せ。お前は何をしている?」
「知らない……」
「じゃあヒントをやろう。AMD。この意味が分かるか?俺の雇い主によれば先進的軍事データベースってやつらしい。防衛省の25大綱で方針が決まった欧米各国との安全保障連携で……まあそんなやつだ。で,それについてのお前さんの知ってることを知りたいそうだ」
やはりそれか,と東雲は思った。
だが知らないのだ。あくまで彼が行っているのは下請けのプログラミングだけで,フレームは各国の大手ITと新興ITが携わっている。官邸に行ったのもほんの顔合わせ程度だ。ウチの会社はあくまで下請の1つなのだ。
家に例えれば大林組が設計した図面の通りにウチの会社――もちろん他にも多くの会社それぞれに仕事がある――が骨組みを建て,コンクリートを流し込み断熱材を入れ壁を張りキッチンを作ったようなものだ。勘違いも甚だしい。

男は少し感心していた。ひ弱なSEだと思っていたコイツが意外としぶといのだ。どうやって口を割らせるか。久しく封印していた獣がうなりを上げている。目の前のコイツを痛めつけろ。吐かせろ。死ななければ問題ない。やれ。そう言っているように聞こえる。男は心の中で舌なめずりを次の拷問の準備を始めた。


作戦に必要な情報は少しずつ集まっていた。中国にいるCIA職員,MI6など各国諜報機関のエージェントからの情報で東雲伸一郎はアジア人に連れ去られたことが分かった。
現場周辺には防犯カメラはなく,目撃証言もあやふやで現地警察もお手上げだった。東雲のカードも使われた形跡もなく,半分お手上げかと思われた。
ただその手口からプロの犯行と見たMI6は「アジア人,最近中国へ渡航歴あり,軍隊経験あり」で検索したところ数名が引っかかった。それが突破口だった。目撃証言と照らし合わせ,現地での行動を洗い,銀行口座,政治的思想のリサーチを経て容疑者が明らかになった。
同時に陸自では特殊作戦群が招集された。特殊作戦群はデルタフォースやSASなど各国の精鋭部隊と同程度の実行力を持つ日本最高峰の特殊部隊である。
幸運にも設立から10年以上出動の機会が無かったのだが,初出動がいろんな意味で神経質な作戦になるとは考えてもいなかった。何しろ初の対外作戦であり,実践が初めてであることから在日海兵隊からコンサルタントが招かれ人質救出についてのレクチャーが行われていた。
反撃の準備は少しずつ,だが確実に始められていた。



拙い小説を読んでいただき誠にありがとうございました。

今年の文学フリマ@東京についてです!

『明けない夜――犯罪行動心理等分析室捜査ファイル――』(『メゾンの物置』という本に掲載されています。詳細はWebカタログをご覧下さい。)

あらすじ

三崎創と村田綾は大学で知り合った。

2人はSamwayのセミナーで再会したが、創は彼女の目に大学時代にはあった「かがやき」が無くなったことを悟る。

あの頃の綾を奪った全ての人間に対して創が始めた聖戦に、発足したばかりの犯罪行動心理等分析室(CBMAT)がプロファイリングを武器に立ち向かう!


Webカタログが更新されました!

頒布本などは以下のリンクから確認して頂ければ幸いです。

サークル名,展示場所↓

Webカタログ『メゾンの物置』(小説集の他に短歌集も頒布します。詳細はカタログをご覧下さい。)↓


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