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勉強コラム 熱力学編 3.エネルギーの式

※このノートは私が分かりやすい表現で記載してます。厳密な定義は教科書を参照してください。

 前回の熱力学では、状態量と熱力学第1法則について勉強しました。熱力学におけるエネルギー保存則とはどういうものかという概念についてまとめており、一般的な表現まではカバーしきれていませんでした。

 今回の熱力学の第3弾では、前回学んだ熱力学第1法則を定量的に一般化した数式について勉強します。

1.内部エネルギー

 内部エネルギーとは、物体が内部に持っているエネルギーの全体のことである。しかし、力学系での運動エネルギーや位置エネルギーを別として考え、特に熱力学では、電磁気によるエネルギーなどを考慮しない。物体の内部エネルギーは現在の状態によって決まる状態量であり、圧力P、体積v、温度Tのどれか2つの変数で決定される。
 内部エネルギーを微視的な見方から考察すると、分子個々の運動エネルギーと分子間力によるポテンシャルエネルギーの総和で、一般には温度が高いと分子運動が盛んになり内部エネルギーも大きく、逆に温度が低いと小さくなる。
 内部エネルギーは一般にUと表され、エネルギーの一種であるため単位は[kJ]で表される。なお比内部エネルギーは、

U:内部エネルギー[kJ]
m:物体の質量[kg]
u:比内部エネルギー[kJ/kg]

と表される。

※熱力学でよく出てくる比○○について
 熱力学ではよく比〇〇という表現が登場する。例えば、比容積、比エンタルピなど。比○○と名の付く物理量はすべて「単位質量(1kg)あたりの○○」という意味になる。つまり、単位はすべて[〇〇/kg]となり、対象とする物体の質量や、質量流量をかけてあげることで、もとに戻すことができる。なお、比○○は元の物理量の小文字で表現する慣習となっている。

2.内部エネルギーとエネルギー保存則

 内部エネルギーとエネルギー保存則(熱力学第1法則)について考える。まず、ある物体(気体)が状態1という初期状態から、外部から熱を受けて外部に対して仕事をし、状態2という状態へ遷移したと仮定する。

図1 ある物体の状態遷移(状態1→状態2)状態が遷移するときに、物質はQ12という熱量を受け取り、W12という仕事を外部にする。

 図1を閉鎖系(外部に対して物質の移動はないが、エネルギーの授受はある系)と考える。内部エネルギーは物体の状態(温度、体積、温度)で決まる状態量であるから、状態1の内部エネルギーをU1、状態2の内部エネルギーをU2とすることができる。この系に関係するエネルギー全体は、前回の熱力学で勉強したエネルギー保存則により、以下のような式で表すことができる。

熱力学でのエネルギー保存則の一般化した数式

 この式の意味を考えてみると、「熱力学でのエネルギー保存則とは、外部からもらった熱量Qは、外部に対して行った仕事Wで消費され、あまりの分だけ内部エネルギーが増加する。」というように解釈できる。なお、QとWが内部エネルギーのように引き算の形にならないのは、熱量Qと仕事Wは状態量ではないためである(その系の外部から系に流入するまたは流出するエネルギーのため、物体の状態は関係ないから。よってQ1とかW1といった物理量はありえなく、状態が1から2へ変化した場合に受け取った熱量Q12、外部へした仕事量W12という表現になる。)。状態1から状態2への変化が微小変化だとすると、このエネルギー保存則は以下の式のようになる。

エネルギーの式(熱力学第1法則の微分形)

※dQなどの表記について
 工学分野では、各物理量が微小変化する場合を微分記号"d"を使って表すことが非常に多い。この"d"は言ってみればΔとほぼ同じ意味で、「変化量」という意味を持っている。
 したがって、内部エネルギーUの変化量はΔUと表し、その変化量が微小の場合dUと記載するようにしている。「微小変化量」を表す接頭語と覚えておくと今後の理解に役立つ。

 この式は熱力学第1法則の表現の1つであり、エネルギーの式と呼ばれる。外部から熱をもらって仕事をする場合は、dQおよびdWは正の値になり、逆に仕事を外部からもらって、放熱する場合はdQおよびdWは負の値になる。なお、この微分形を積分すれば自動的に元の式を導出できる。微分形のいいところは、どの変数が状態遷移によって変化する量どの変数が現象に左右されない定数であるかがわかりやすいことである。

3.可逆変化、不可逆変化と仕事

 次は、可逆変化、不可逆変化について説明する。
 熱力学では、物体が状態遷移している場合、その途中途中の変化過程では必ず熱的および力学的に平衡状態である(変化速度が無限に小さく、常に平衡状態を保ちつつ変化する)という仮定の下で様々な法則を定義している(摩擦は無視)。

3.1.可逆変化と仕事

 例えば、ある気体を封入したピストンとシリンダについて考える。

図2 シリンダ内の気体の可逆圧縮

 シリンダの断面積をA、気体の状態量をP、V、Tとする。シリンダ内の気体が膨張しようとピストンに対してP×Aという力が加わっている。それに対して外部からFという力を加えてピストンが制止するように力を加える。この状態は平衡状態である。この後、Fをわずかに上昇させると、ピストンが左方向へわずかに動き平衡状態が崩れるが、再び平衡状態になる。逆に気体の圧力がわずかに上昇すると、ピストンは右方向にわずかに動き、再び平衡状態になる。
 このように速度の遅い微小変化の場合、変化後も平衡状態を保ち、その後も左右どちらにピストンは動くことができる。このような変化を可逆変化という。
 もっとわかりやすく表現すると「ある熱量または仕事を加えて、状態1から状態2へ変化させた場合に、同じエネルギーを授受することで状態2から状態1へと元に戻すことができる状態変化を可逆変化という」といえる。図2のシチュエーションで考えてみる。気体にに対してdxという微小距離だけ圧縮する場合を考えると、気体に対して行った仕事dWは以下の式で表せる。

気体の外部に対して行ったまたは外部からされた仕事dWはdW=PdVとなるのは頻出なので覚える。
F:外力
A:シリンダ断面積(≒ピストン断面積)
P:圧力
dx:ピストンの動いた距離
dV:気体の体積変化量

 このように、dWの絶対値が状態1から状態2への変化と状態2から状態1への変化で同じになるような変化を可逆変化という。

3.2.不可逆変化と仕事

 不可逆変化とは、簡単に言うと可逆変化が成り立たない変化の事である。つまり、「ある熱量または仕事を加えて、状態1から状態2へ変化させた場合に、同じエネルギーを授受することで状態2から状態1へと元に戻すことができない状態変化を不可逆変化という」といえる。先ほどのようなピストンとシリンダを例に考えてみる。

図3 ピストンを急速に動かした場合の不可逆圧縮

 図3のようにピストンを急激に動かし気体を圧縮した場合、同一の気体の中で平衡状態になれずに、右側と左側で圧力差が生じる。これは、圧力が伝播するのに時間がかかるためである。この時の仕事dWはdW=Fdx=P2dVと表せる。一方、最終的に平衡になった状態から仕事を考えると、その時の圧力をPとするとPはP1<P<P2の関係が成り立ち(P1とP2の差圧が平衡するとその間の圧力Pで落ち着く)、その時の仕事はPdVとなる。よって、

という関係式が成り立つ。膨張の場合はこの式の不等号が逆向きになる。仕事がイコールにならないということは、同じエネルギー(仕事)を費やしても同じだけの状態変化をすることができないといことを表している。
 したがって、不可逆変化を言葉で表現すると「ある物質にエネルギーを加えて状態1から状態2に変化させた場合、逆向きの同じエネルギーを物質に加えても元の状態に戻らないような変化を不可逆変化という」となる。
 物質内部で状態量の不均衡があれば不可逆変化になるが、一般には仕事量を可逆変化として計算しても、実用上そう大きな差異はない。物質が高速に運動する、または状態量変化が急速になればなるほど、不可逆変化の度合い(エネルギーの不一致度)が増していく。

4.まとめ

 今回はエネルギーの式と可逆変化、不可逆変化について勉強しました。まとめると、
①内部エネルギー:物質が持っているエネルギー全体U。P,v,Tのうち2変数で決まる状態量。
②熱力学第1法則(エネルギー保存則):熱量は、内部エネルギーの変化と外部にした仕事の和に等しい。式にすると以下のようになる。

③可逆変化:あるエネルギーを加えて状態1から状態2へと変化させた場合に、同じエネルギーを加えれば元の状態に戻せる状態変化の事。一般に、物質の状態変化速度が無限に小さければ可逆変化とみなせる。
④不可逆変化:可逆変化の逆。同じエネルギーを加えても元に戻せない(それ以上のエネルギーがいる)ような状態変化の事。物質の状態変化速度が急速な場合、物質内部で不均衡が生じるため、不可逆変化になりやすい。

 以上になります。ご精読ありがとうございます。
 次回は内部エネルギーとエンタルピーの違い、比熱について勉強しようと思います。熱力学で重要なP-V線図も登場します。

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