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【書評】江戸の経済政策と現代  ー江戸が分かれば今が見えるー

江戸町年寄を頂点とする江戸町人の自治組織や問屋株仲間などの同業者団体は「町人や商業資本の自治的組織という側面と、幕府(公権力)が町人や産業を統制・監督していく場合の下請統治機関としての側面を併せ持った存在だった」。
これらの自治組織や同業者団体は田沼意次の時代、江戸幕府による数々の経済政策を間接的、且つ効率的に進めるための受け皿となって機能した。

本書の著者

鈴木浩三著「江戸の経済政策と現代 ー江戸が分かれば今が見えるー」
ビジネス教育出版社刊、1993年12月10日発行

著書の鈴木浩三氏は、1960年東京都出身で、中央大学法学部卒業後、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻修了。博士(経営学)。経済史家。

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

一章 江戸時代の経済構造
 一 江戸と現代のつながり
 二 江戸の都市行政機構と町年寄
 三 江戸の消費需要
 四 江戸経済の特徴
 五 今につながる問屋株仲間
 六 関節統治と意思決定のプロセス
 七 東京一極集中の原点
 八 江戸は一極集中だった
二章 町年寄の資金運用
 一 田沼時代は資金運用の時代
 二 ”銀行的”役割の町年寄
 三 幕府の貸付資金の増加
 四 寺院資金の場合
三章 資金運用の周辺
 一 町年寄処分と田沼意次の失脚
 二 田沼以後の市中への資金供給
 三 資金運用のもう一つの側面
四章 田沼時代の経済政策
 一 田沼時代まで
 二 経済政策の転換
五章 現代から江戸をみれば
 一 江戸時代と現代の連続性
 二 組織の意思決定と「過去の事実」
 三 既成概念への留保
 四 社会システムの時代区分
 五 日本の社会構造と日本人の自己規律
 六 いわゆる地方分権論の場合

本書のポイント

本書では、幕府が江戸町年寄を使って実施した資金運用政策の実態を通じて、幕府と町年寄も含めた民間団体の関係と、それぞれの意思決定過程、相互の意思伝達プロセスを明らかにしている。
更に、現在の官庁による業界指導・監督と、それと一体をなす業界への保護・育成、そのなかでの官庁や業界の意思決定のプロセスが、江戸時代の意思決定プロセスとの類似点が多く、江戸時代と現在が「断絶どころか、連続性が非常に高い」ことを示している。

本書に書かれている内容の一部を紹介する。

江戸の都市行政機構

江戸の町地における都市行政の実施にあたって、町奉行は政策立案機関と実施機関として機能した。
そして町奉行の下「幕府の意思を町地に伝達・徹底されるための事務執行機関」である町年寄は、「幕府による江戸統治機構」としての役割と「江戸惣町(江戸の全町)の自治組織の頂点」としての役割を併せ持つとともに、田沼時代においては「経済政策の実施機関」としても活発に機能した。

経済政策の転換

八代将軍吉宗が享保改革から手掛けてきた町人資本の導入による大規模新田開発などの政策の効果は、幕府の年貢収入高の増収をもたらし、1744年(延享元年)には180万石と最高記録に達した。
一方で年貢増収は、かえって米価の低迷を引き起こす要因となり、田沼意次の時代になると「問屋株仲間制度」「専売制度」「貿易政策」などの貨幣経済や商品流通活動から幕府の財源を得ようとする政策が相次いで打ち出された。

町年寄の資金運用

江戸時代の中期(18世紀中~後期)、幕府は町年寄を通じて積極的に資金運用を実施した。
この時期は米本位制経済が本格的に崩壊に瀕した時期で、田沼意次が積極的な経済政策を行った時代にあたり、幕府は町年寄の「中央銀行」機能を活用して資金運用や金融政策を行った。

田沼意次の通貨政策

江戸時代の通貨制度は、金・銀・銭の三貨体制で、金は江戸を中心とする金遣い経済圏、銀は大坂を中心とする銀遣い経済圏で流通する貨幣だった。
金、銀はそれぞれの経済圏の経済力や生産力を反映するものとなり、金・銀の交換は各経済圏の経済実勢が鋭く反映し、変動相場制が成立していた。
また、金、銭は鋳造定額貨幣であったの対し、銀は秤量貨幣という特徴を持っていた。

幕府は、国内の流通促進を図る目的で金・銀の通貨統合(秤量貨幣の定額貨幣化として「明和五匁銀」「南鐐二朱判」を発行)を目論んだが、金・銀・銭の相場取引で大きな利益を得ていた「商業資本」の強い抵抗に遭い、金・銀の変動相場制は明治になるまで続いた。

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