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【02話】小春麗らか、希(ノゾミ)鬱


1-2 雉子島麗(きじしまうららか)


「おっ、ようやく来たな矢箆原咲真(やのはらさくま)。なんだ、今日は調子良さそうじゃないか」


 俺が教室に到着したのは午前十二時前だった。四時間目の少し前。ちょうど休み時間で、クラスはざわざわしていた。俺が一人増えたところで、誰も気づかない。気にも留めない。俺はそんな存在だった。一部では不良だ不良だと噂されているらしいが、それはそれで都合が良かった。ちなみにクラスは学年で全八組あり、その第八組が俺のクラス。末広がりでいいだろう?



「やあ、北のロマン砲。俺は今日も大鬱だよ」

「そうそう、俺は今日もホームランを打つ北のロマン砲……ってそれは野村だ。ファイターズのおジェイだよ、それは野村佑希だ。違う違う俺の名前は神祐希だ」

「ああ、そうかそうか。それは悪かったよハンカチ王子」

「そうそう。こうしてハンカチで拭いながらキレのあるストレート投げ込んでいく……ってそれは斎藤だ。違う違う。それは斎藤佑樹。俺の名前は神祐希だ。祐希違いだ。漢字も違うし」

「悪かったよ、神祐希(かみゆうき)」



 俺はそんな冗談を言いながら隣の席に座った。窓側の一番角の端っこの席が祐希の席で、その隣の一番後ろの席の一つである席が俺の席だ。席替えでも行われない限り、ここは変わらない。



「悪かったな、小春。また後でな」

「うん。じゃあね、咲くん。また放課後に」



 小鳥小春(ことりこはる)は隣のクラスだ。だからいつもこの席まで見送られて、それから別れる。本当に、迷惑ばかり掛けてしまっている。忍びない。



 チャイムが鳴った。


 教師が教壇に立つ。



 起立、礼、着席。



 四時間目の授業がそうやって始まった。





 ※ ※ ※













「咲くんたち、お昼?」

「よお、委員長。一緒に食べようぜ」


 祐希がそう呼んだのは委員長。つまり八組のクラス委員長をやっている彼女は雉子島(きじしま)麗(うららか)という。小春の友達で、仲良しで、俺と小春繋がりから俺と仲良くなり、俺と祐希繋がりから祐希と仲良くなった。そう、俺達は仲良し四人組。小春はクラス違うけどな。でもあいつは友達たくさんいて、楽しそうにしているから、それでいいと思う。俺とか祐希みたいに友達ゼロ人より全然いい。半分いじめられているような二人だぜ? クラスの厄介者、はみ出し者、不良者。いい噂は聞いたことがない。俺も、祐希も。



 そこに訪問者有り。クラスの中へ、様子を見ながら恐る恐る入ってきて、そして一番奥の一番端っこに肩身狭そうにしながら、はみかみながら小春がやってきた。



「おっ、なんだ小春も来たのか」

「こんにちは。なんか、いつも一緒してるお友達がお休みみたいで。一緒にいいかな?」

「ふーん」



 お休みはまあ、仕方ないな。人のこと言えた自分でもないし。



「咲《さく》は今日もパンか? 飽きないねぇ」

「ああ。家にあったストックの中から適当に。だから好みは母親寄りかな。菓子パンとか」

「ふーん、まあ、いいけど」



 小春と麗《うらら》、ーー俺はウララカのことをウララと呼ぶことが多いーー祐希は弁当を広げで食べ始めた。さて、これで仲良し四人組勢揃いだな。



 俺は四人で食べる昼というのが久しぶりだったから嬉しかった。思わず窓の向こうの空を見てしまう程度には嬉しかった。いつでも優しい友に感謝だな。



 俺達は特にこれといった話をするわけでもなく、盛り上がるわけでもなく、淡々と飯を食っていた。俺は逆にそれが心地よかった。ここが俺の居場所、俺の居ていい場所、そう思えたから。



 昼飯を誰かと一緒に、しかもそれも仲の良い、気のおけるやつと食べることができるというのは良いものである。誰とも知らない、良く知らないけど一緒に勉強しているやつ、仕事をしているやつと食事なんてしていたら、息も詰まるし、気を使いまくるし、味も美味しくない。食べるだけ。それだけになる。そんなのは地獄だろう。そんな経験なんてものは、もう、したくない。今の友に感謝してこれからも一緒に食事ができるように大切にしていきたいものである。



「なあ、放課後はいつものところでいいか?」



 祐希が唐突に、ふと思い出したかのように言った。麗は頷き、小春は「はい」と言った。俺もやれやれと、従った。いつものところというのは屋上のことである。何をするのかというのは……まあ、別に大したことはない。鑑賞会だ。俺達にとっては。



next三話↓
https://note.com/takanashi_saima/n/ncf92d2c0e556

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