イーダのメロディ。

静かにこちらに背を向けてピアノを弾いている。
一つのドアがシーンをトリミングしている。

捉えどころのない距離感。
ピアノの音は聞こえてこない。

無音...。

それは理解されることを拒否した
透明な虚無たちの姿なのか。

だとすれば、
その恐ろしさは、物語でもなければ
到底抜け出せるものではない。

が、物語に辟易してるのなら、
虚無の深淵から落ちてしまえ。
深く深く己の闇を掘り続け、
地球の裏側で隆起し、屹立するのだ。

が、それでもなお、そのシーンは私の目の前にあるだろう。
そして私を釘付けにしてしまうのだ。

レミングのように、躊躇なく私は何度も何度も私を葬る。
しかしその度に、物語という魔力に引き戻され、
徒労感にずたずたにされる。

待っているのは、冴え冴えとした
決して眠ることのできない夜だ。

大きな夜が覆いかぶさり
塵のような私が押し潰される。

物語などクソ喰らえだ。
本能を呼び覚ませ。
たとえそれが恐怖を感知するのみだったとしても。

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「ビアのを弾く妻イーダのいる部屋」
ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1910)

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