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ルル

ルル(Rulles)・エスティバル。
小さな醸造所ルルの夏(エスティバル)という名のベルギービール。

「ルル(Lulu)・オン・ザ・ブリッジ」。
ポール・オースターのシナリオ。そして監督の映画。
サックス吹きのイジー(ハーベイ・カイテル)が
演奏中に弾丸に倒れる。
命は取り留めたものの、サックスの吹けなくなったイジーは
抜け殻のように街を彷徨い、見知らぬ輩の死体を発見してしまう。

東京都美術館。
藝大の日比野克彦氏。
島袋道浩氏が2014年に行ったエキシビション
「一石を投じる」
「携帯電話を石器と交換する」
について、話している。

フランク・ヴェーデキントの戯曲
「パンドラの箱」(Die Büchse der Pandora, 1904年)。
奔放な女ルル (Lulu) が男たちを次々と破滅させていく物語。

イジーは、死体のそばにあった鞄を家に持ち帰る。
鞄の中には、何の変哲もない「石」と
ペーパーナプキンに書かれた電話番号。

ルルは、投獄され、落ちぶれ、体を売って暮らす。が、その振る舞いに嫉妬が渦巻く。

イジーは、石が青く光り宙に浮くことを発見する。その真相を知るために、
残された電話番号にかけてみる。
電話に出たのは女優志望のシリアだった。

今や手放すことが難しい携帯電話。
それを人類最古の道具「石器」に持ちかえる。
そうして古代人の暮らしていた場所を訪れると、
モノやことは写真に収めるべき対象ではなく、
裂き、切り、叩くものへと変質していくという。
石は何かを覚醒させるのか。

青く光り宙に浮く石は、イジーとシリアを固く結びつける。
シリアはリメイク版「パンドラの箱」のオーディションを受け、
ルルの役を獲得する。
二人のしあわせが、少しずつ翻弄され始める。

屋根裏部屋に客を連れこんでいたルルの回りに死の臭いが立ちこめる。
そして、ついにはルル自身も切り裂きジャックに殺されてしまう。

実際のところ、イジーは死の間際に
見知らぬシリアとの生を妄想していたのだ。
その夢の中で、シリアは光る石を川に投げ、
自らも身を投げてしまう。
イジーを乗せた救急車が街をゆくが、彼は車中で息絶えてしまう。
イジーのことなど知らぬシリアは、救急車が通り過ぎるとき、
なぜか思わず十字を切る。

夜の北千住。
酔客がつくりだす喧噪。
立ち飲みでルル・エスティバルを飲む。
その余韻の中で、イジーやシリアやルル、石のことを想う。

東京藝術大学創立130周年記念特別展
藝「大」コレクションのキャッチが
「パンドラの箱が開いた!」であることを知って
意味もなく不思議な感覚に囚われる。

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