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BLUE GIANT

まず、あの上原ひろみが日本のアニメ映画のサントラを手掛けたということに驚いた。

全米ジャズ・アルバム・チャートで首位を獲得したこともあるし、グラミー賞のジャズ部門で受賞したこともある。K-POP勢を除けば、今の日本人アーティストでBABYMETALやJojiなどと並ぶ数少ない世界的人気を誇る存在と言っていいと思う。

そんな超大物アーティストが、いくらジャズを描いた作品とはいえ、日本のアニメ映画のサントラを手掛けるというのは正直言って、落ちぶれたような印象を持たれても仕方ないと思う。

同じ世界的アーティストでも坂本龍一や喜多郎のようなサントラ仕事の多い人なら国産アニメの音楽を手掛けてもそんなに違和感はない。実際、坂本も喜多郎もアニメ仕事をしている。

坂本龍一はアニメ映画「オネアミスの翼」の音楽を手掛ける前に「戦場のメリークリスマス」の音楽で高評価を受けているし、「子猫物語」という大ヒット作も担当ているし、「オネアミス」と同じ1987年にはアカデミー作曲賞を受賞した「ラストエンペラー」も手掛けている。だから、アニメ映画のサントラ仕事をしてもそんなに驚きはない。

でも、上原ひろみはテレビ番組のテーマ曲を何曲か手掛けたのを除くと映画関連の仕事はテーマ曲を担当した「オリヲン座からの招待状」と音楽担当の「good people」というほとんど知られていない作品しかない。だから、本作に関わっていることが信じられないんだよね。
しかも、男性キャラクターの演奏を吹替しているんだからね…(アニメにおける楽器演奏シーンを吹替と呼ぶのかどうかはさておき)。

コロナ禍になって、移動の自由が制限されたということもあり、上原ひろみは日本国内での活動が目立つようになったが、この仕事もその延長線上にあるってことなのかな。

個人的には海外を拠点にしていたミュージシャンや俳優が日本での活動を中心にするようになったり、MLBや欧州サッカー経験者が日本のチームに戻ってくるのは海外で通じなくなったから出戻りしたみたいなイメージをどうしても持ってしまうんだよね…。

今回の上原ひろみのアニメ仕事も本作でなく、海外でも注目されるジブリ作品とか、細田守や新海誠の作品ならそういう印象はなかったのかもしれないけれどね。

というか、ジャンプ原作アニメの劇場版なら米国でもヒットするから、たとえば、「鬼滅の刃」とか「呪術廻戦」あたりのテーマ曲を彼女が手掛けたとしても、“上原ひろみは単なる邦楽のインスト系アーティストになってしまった”などとは思わないんだけれどね。

やっぱり、国際的なイメージが薄れたことに対するガッカリ感があるのかな…。

でも、本編を見ると上原ひろみの顔はちらつかなかった。

ベタな展開だし、根性論・精神的なスポ根ノリなのもちょっと気になったりはしたが全体的には音楽好きなら好意的に捉えたくなる出来となっていた。演奏シーンは手描きやモーション・キャプチャーなど様々なアニメ技術をミックスして作画しているのがちょっと面白いなと思った。

まぁ、ツッコミどころは多いけれどね。

YAMAHAは実名で出てくるのに、ブルーノートはソーブルーという紛い物みたいな名前に変えられているしね。なのに、入場者特典としてブルーノート音源のCDマガジンのチラシを配っているんだから意味不明だ。というか、サントラ盤はブルーノートを抱えるユニバーサルから出ているんだから、上原ひろみの所属レーベルもユニバーサル傘下のテラークなんだから実名で出せたのでは?まぁ、原作に合わせたのだろうが。

あと、カツシカJazz Festivalってなんだ?
しかも、小規模な町おこしイベント扱いだし…。

すみだストリートジャズフェスティバルが元ネタだと思うが、墨田区でなく隣の葛飾区のイベントにしただけでも失礼でしょ。それから、スタート時点では確かにすみジャズは町おこしイベントだったとは思うが、コロナ前にはいくら入場無料とはいえ10万人を動員するイベントになっていたわけだしね。TOKYO IDOL FESTIVALのコロナ前の最大動員数が8万8千人だったんだから大規模イベントでしょ!

まぁ、原作者は茨城出身の団塊ジュニア世代らしいから、下町を見下しているんだろうね。今の若者はそうではないけれど、40代以上の地方出身者ってやたらと下町をバカにしているからね。田舎者だから下町の便利さを知らないんだろうね。それで不便な東京の西側に喜んで住みたがるんだからあきれてしまう。下町を見下すオッサン・オバハンって“自分は田舎者です”と札をつけて歩いているようなものだからやめた方がいいよ。

まぁ、3人組バンドの描写はよく出来ていたと思う。

①サックス・プレーヤー
②ピアニスト
③ドラマー

①は明らかに下手とまではいかなくても荒削りに聞こえるところがある。しかし、天才的な表現力を持っていて3人の中で唯一、その後大成する存在として描かれている。

②は作品の頭の方では天才的プレーヤーのように思われていたが、実は技術が優れているだけで表現力には欠けていることが判明する。そして、事故に巻き込まれて片腕が使えなくなりプレーヤーとしての生命の危機に陥ってしまう。とはいえ、作曲家としての才能は優れているのでおそらくこの方面で活躍するのだろうということを暗示して終わる。
余談だが、片腕でパワフルにピアノを弾くシーンは楽器は違うけれど、片腕を失いながらパワフルにドラムを叩くデフ・レパードのリック・アレンを思い浮かべてしまった。
あと、ジャズ・クラブの支配人が彼のことを重体と言っていたが、演奏できるんだから重体じゃないでしょ!本当、日本のアニメ・コミック関係者って言葉を知らないよね。ちゃんと、ニュースを見て、新聞を読もうよ!

③はほぼ素人状態でドラマーになったのに解散ライブでは観客を大熱狂させたんだよね。ドラムをはじめてわずか1年半でそのレベルに達したんだから、実は①や②よりも天才なんだと思う。でも、性格的には唯一の一般人だから、結局、解散後は一般人の生活に戻ってしまう。その辺の描写はリアリティがあるなと思った。

まぁ、音楽好きなら3人のうちの誰かには感情移入できるのではないかと思う。

ちょっと惜しいな思ったのは、主人公であるサックス・プレーヤーの妹とか、ピアニストと一緒にピアノを習っていた年上の女の子とか、3人を支えるジャズ・バーの経営者とか、もう少し掘り下げて欲しいと思ったキャラクターが多すぎたことかな。

2時間の映画1本ではなく1クール放送のアニメとして構成した方が良かったのかも知れないと思ってしまった。

《追記》
本作を見たらサントラ盤が欲しくなってしまい、鑑賞したシネコンと同じ建物内にあるタワレコに足を運んでしまった。CDショップに行ったのは今年初めてだ。

タワレコ秋葉原店がクローズとなってから、ある程度の品揃えのあるCDショップとなると同じタワレコの渋谷店か新宿店まで行かないとならなくなってしまった。しかし、両店は夜勤明けで行くとなると秋葉原店とは異なり帰りのルートにはない=遠回りして寄り道しないとならない。しかも、秋葉原店は夜勤明けで行くには便利な9時半開店だが両店は11時にならないとオープンしない。かといって、わざわざ週末に時間を割いて行くほどのものではない。
だから、最近はオンラインショップ利用によるソフト購入が中心になっていた。まぁ、タワレコのオンラインショップは発売日前に予約しても何故か品切れを起こして、配送されるのが遅れたり特典がつかなかったりするのもデフォルトだし、送料も取られるし、店頭ならつけてもらえるdポイントもd払いでないとつけてもらえないから使い勝手は良くないんだけれど、渋谷や新宿に行く手間を考えると仕方ないかなって感じなんだよね。

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