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海がきこえる

本作はスタジオジブリが単発のテレビスペシャルアニメとして1993年5月に初放送した作品だ。
その年の年末にミニシアターで限定上映されたので一応、キネマ旬報のKINENOTEでも映画作品として登録されている。

ただ、その後は一度再放送されたっきりで知る人ぞ知るジブリ作品となっていた(映像ソフト化はされれているが)。

上映時間が72分(本稿における上映時間はジブリの公式HP準拠)と短いことから2時間枠・正味90分ちょっとの金曜ロードショーではかけにくいのが理由だと言われている。その唯一の再放送は金曜ロードショーが異例の2本立て構成だったから実現したという見方が一般的だ。

また、劇場で再上映するにしても72分の上映時間で通常の入場料を取るとぼったくりと言われてしまう。かと言って、何かと2本立てで上映するにしても最適なカップリング作品が見つからないからというのもあったのかも知れない。

でも、最初から劇場公開された作品でありながら、上映時間は75分と本作とほとんど変わらない「猫の恩返し」(劇場公開時は短編「ギブリーズ episode2」と2本立て)は何度も金ローで放送されている。

また、最初は単発のテレビスペシャルとして初公開され(何故か日テレではなくNHKだったが)、その後、劇場公開という本作と同じパターンの「アーヤと魔女」は金ローで放送されている。上映時間だって82分と90分に届いていないのにもかかわらずだ。

だから、本作を巡っては放送禁止になったなどという都市伝説が出回ってしまったのだろう。  

個人的には本作がレア作品になってしまった理由はジブリ作品には珍しくファンタジー要素がないからだというのが大きいのではないかと思う。

高畑勲作品のなかには、「火垂るの墓」、「おもひでぽろぽろ」、「ホーホケキョ となりの山田くん」といったファンタジーにカテゴライズされない作品も確かにある。

でも、これらの作品は歴史ものだったり、ノスタルジーを喚起するようなものだったりする。

「おもひでぽろぽろ」は高度経済成長期と現在(公開時はバブルが弾けたことにほとんどの人が気付いていなかった90年代初頭)を対比するという要素があり、特定の時代にフォーカスしていないから古臭さを感じさせずに済んでいるという面もあった。

でも、本作はそうではない。バブル世代から団塊ジュニアくらいの世代の人が見れば懐かしいと思うかも知れないが、そうでない人からするとバブル期の地方都市の高校生の青春を描いた古臭いドラマにしか見えない。現在の視点で当時を描いた作品ならまだしも、これは当時のほぼ現在の視点でその当時のほぼ現在を描いた作品だから、そりゃ、時代遅れ感はあるよね。

そうした点が封印されていた理由なのではないかと思う。



今回の再上映は渋谷TOEIの跡地に移転したBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下だ。ビックカメラやマクドナルドが入る建物の中にある映画館でBunkamuraを名乗られてもねという感じはする。
しかも、いくらレアものはいえ著名アニメスタジオのジブリ作品を上映するのはBunkamuraのポリシーから外れていると思うしね。
ル・シネマのイメージに合うアニメーション作品と言ったら、欧米の映画賞にノミネートされるようなアート系の海外アニメーションくらいしか思い浮かばないしね。百歩譲って国産作品のリバイバル上映でも今敏作品だったら、まぁ、分からないでもないかという気はするかな。

そんなわけで、金曜日の昼間であるのにもかかわらず新ル・シネマはかなり混雑していた。
旧ル・シネマは終盤、空席が目立つことも多かったし、渋谷TOEIは基本ガラガラだった(自分以外に観客がいない状態も経験したことがある)ことを考えると、本作に対する注目度の高さを感じずにはいられない。

圧倒的多数の観客が春休みに入っている大学生みたいな感じだったので、おそらく、伝説のジブリ作品を映画館で見ようというノリだったのだろう。ただ、上映終了後、こうした人たちが“時代を感じた”みたいな感想を述べていたのが聞こえた。
なので、本作が封印されていたのは他のジブリ作品のようなエヴァーグリーンな部分がないというのが理由と考えて間違いないと思う。

ところで、タイトルに海が入っているけれど、作品に海要素ってほとんどないよね。たまに海が背景に映ったり、ハワイに修学旅行に行ったりというシーンはあるけれど、それだけだしね。

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