本作の原作漫画が発表された当初、自分はこの作品をきちんと読もうとは思わなかった。当時の感覚としては、軍事力を誇示すること＝右翼的と思われていたし、主人公が占拠した潜水艦の名前を「やまと」に改称することも非常に軍国主義的に見えたからだ。

でも、現在の視点で見るとそうではないのかも知れないと思い、この実写版を見ることにした。

ちなみに自分の政治スタンスは、　

⚫︎ネトウヨもパヨクも大嫌い。
⚫︎ネトウヨの言う表現の自由は時代遅れだが、フェミのダブスタに対してはいい加減にしろと言いたい。
⚫︎自公政権は認めないし、維新や国民は自民の劣化版、立民は無能、共産は独裁、社民はとっととどこかに吸収されろ、れいわも立花系も参政もカルトと思っている。

といったところだ。

まぁ、ネトウヨからもパヨクからも攻撃される思想だが仕方ない。右脳思考か左脳思考かみたいなシミュレーションをやると大抵50:50になるから、それと同じように政治思想も左右半々なんだと思う。

そして、本作を見てみようと思った理由にはリメイク版「宇宙戦艦ヤマト」の存在がある。

本作は日米が極秘に進める原子力潜水艦のプロジェクトを利用し、その潜水艦を独立国家「やまと」としてしまう男の話だ。

同じ「戦艦大和」を題材とした「宇宙戦艦ヤマト」も自分はかつては右翼的・軍国主義的に思えて好きになれない時期があった。ところが、2010年代以降のリメイク版シリーズを見ていると全然、右翼的・軍国主義的ではない。むしろ、左翼的・反戦主義的なメッセージの方を強く感じるくらいだった。

その背景には日本人の右傾化、もしくは左派の存在感が薄れたことにより、かつては極右に見えたものがリベラルに見えるようになったというのがあるのかも知れない。

あるいは、一昔前なら、右翼も左翼も米国を嫌っていたが、最近のネトウヨは親米的な思想を持つようになっていて（特に共和党的なものに対して）、思想による好きな国や嫌いな国の対象が変わったことも影響しているのだろうか。

そして、実際に見てみると原作スタート時と現在の右翼・左翼観が異なってしまったことを実感せずにはいられなかった。

本作の主人公・海江田が日米両政府に反旗を翻す行為というのは、原作連載時の感覚では、米国政府批判は右翼的、米国の言いなりになる日本政府批判も右翼的に思えた。

でも、現在の感覚だと日本政府＝自民を批判しただけで反日・在日と呼ばれるし、米軍を批判するのも反日・在日の左翼の思想とみなされる。だから、そういう視点では左寄りの人物にも見える。

とはいえ、左派（パヤオは例外）は今でも軍事的なものを嫌う。となると、海江田の行為をヒロイックに描いている本作は右派思想の作品ということになってしまう。

しかし、ヒーローはヒーローでも神風特攻隊のように美化されているわけでなく、明らかにダークヒーローといった描写になっている。

ということは、本来は軍国主義は良くないが、あまりにも日本政府はだらしないし、国民は何も考えていない。そして、米国政府は横柄だ。だから、こういう極端なやり方でも世の中を変えるためには軍事的な行為も仕方ないだろうというメッセージのようにも思えた。

一言で右とか左とか言える内容ではないんだよね。

時代の変化を感じずにはいられないと言ったところだろうか。

とりあえず、アマゾンの資本が入っているだけあって、日本映画によくある安っぽい画によるコミック・アニメのコスプレ実写化作品になっていなかったことは救いだった。

まぁ、後半はドンパチやっているだけで、しかも、狭くて暗い潜水艦内のシーンばかりだから、単調で飽きてしまったけれどね。

そして、終盤では海江田が独立国家を樹立した理由が、「やまと」が日本と同盟関係を結ぶことで日本を間接的に核保有国にして米国の核の傘から抜け出させ、米国の言いなりにならないで済むようにするためであるということが明かされる。
しかし、それが明かされた後にちょこっとシーンがあるだけで終わってしまい、海江田率いる「やまと」の面々と米軍や米国政府、自衛隊や日本政府との関係がどうなったかもきちんと描かれず、要は尻切れとんぼ状態の終わり方となっている。

いかにも続編作りますよといった感じだ。まぁ、アマゾン作品＝配信作品として考えれば、そういう終わり方になるのも納得だ。アマゾンとしては、劇場公開用を優先させるのか配信なのかはさておき、シリーズ化する前提でこの作品に金を出しているんだろうね。

ただ、せっかく米国の資本が入っているのにスタッフは日本主導だから政治的・軍事的な描写や事件・事故を伝えるニュース番組のシーンなどにリアリティがないんだよね。

ニュース番組は事故の被害者の数を⚪︎名と数えたりはしない。⚪︎人なんだよね。

それから、登場人物や組織などの名前を丁寧に出してくれるのはいいんだけれど、総理大臣を総理大臣と表記するなら、首相官邸も総理官邸って表記しろよって思う。統一しなさい！

それから、ホワイトハウスを大統領官邸って表記するのもどうかと思う。普通にニュース番組を見たり、新聞を読んだりする人でホワイトハウスを知らない人はいないよ！

最後に主題歌担当のAdoについて一言。やっぱり、この人って、オッサンやオババンに作られたアイドルにしか思えないな。今回の曲はB'zが提供したものだけれど、まぁ、彼等がやってもおかしくないタイプの楽曲だったしね。
結局、Adoの曲って中田ヤスタカ提供の曲ならいかにも中田ヤスタカな楽曲になるし、椎名林檎提供の曲ならいかにも椎名林檎な楽曲になる。
良く言えば、どんな楽曲も歌いこなせる歌唱力があるってことなんだろうが、それって単に楽曲提供者やプロデューサーのコピーでしかない、悪く言えば操り人形ってことだからね。オリジナリティがないんだよね。

そもそも、メジャーデビュー曲“うっせぇわ”だって、チェッカーズとか尾崎豊、椎名林檎辺りを継ぎ接ぎしたような楽曲で、背後にオッサン・オババンの影がちらついていたしね。

やっぱり好きになれないや…。

そうそう！「沈黙の戦艦」を皮切りにセガール主演作の邦題に何でも「沈黙」とつけられるようになったのって、本作の原作の影響だよね。