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「おかえりモネ」の主人公に抱いた違和感

朝ドラ「おかえりモネ」の構成には問題があるとたびたび指摘してきた。
おそらく、私のように、ある程度、映画やドラマの作劇の基本を学んだ人にはそう思っている人が多いのではないだろうか。

その一方で、「おかモネ」をつまらないと言う人を批判する人が多いのも事実だ。

基本的にそういう人は、

●ヒロイン役・清原果耶のファン
●幼なじみ役・永瀬廉(ジャニーズ)のファン
●今までの朝ドラと違うものを批判する人=新しいものを受け入れられない老害と批判したがる人
●舞台となった宮城など東北在住もしくは出身の人
●東日本大震災を題材にした作品を批判するのは非国民だと思っている人

おそらく、こういう人たちだと思う。

私は、清原ちゃんの出演映画を全部見ているくらいだから、彼女のファンと言ってもいいと思うが、それでも、本作に対しては否定的に捉えずにはいられないと思っている。

別に彼女は影のあるキャラクターしか演じられない女優ではない。
確かに彼女は、ヒロインの生き別れの妹を演じた朝ドラ「なつぞら」や、藤井道人監督の2作品「デイアンドナイト」、「宇宙でいちばんあかるい屋根」などで、影を持ったキャラクターを見事に演じてきた。

でも、実写邦画では今年上半期最大のヒット作となっている「花束みたいな恋をした」では出番は少ないけれど、恋する普通の若い女性を演じていたし、「まともじゃないのは君も一緒」では、かなりぶっ飛んだキャラを演じている。
また、「砕け散るところを見せてあげる」では、最初はクラスのいじめを黙認していながらも、途中からは正義感に目覚める女子生徒を演じていた。しかも、この娘は“うっす!”が口癖という、なかなか爽快感あるキャラだった。

つまり、普通のキャラや明るいキャラ、社交的なキャラ、何でも演じられるということだ。

だから、ネット記事で“社交的な陰キャ”などと呼ばれるような本作の主人公・モネを清原ちゃんが演じることに関しては何の問題もないはずだ。ということは、本作を見ていて抱く違和感というのは、彼女の演技のせいではない。

本作は朝ドラとしては少数派となるモデルとなる人物がいないオリジナル作品ということで、キャラクターの造形がきちんとできていないのではないかと思う。
また、東日本大震災から10年というメッセージを込めた宮城の町おこし作品という側面も強いから、色んなところから、あれを描け!これを入れろ!などと言われて、キャラ設定やストーリー展開が後回しにされているのではないかという気もする。

何故、時系列を行ったり来たりして描くのか?少なくとも、10年前の時点で中学生くらいにはなっていて、それから、10年間、日本で生活している人間なら、国籍にかかわらず、宮城を舞台にした作品で主人公が何かを抱えているとしたら、その要因は、誰もが東日本大震災だと分かるわけだしね。

なのに、“主人公が何かモヤモヤしたものを抱えているのは何故でしょうか?”みたいな疑問を視聴者に投げかける感じで、番組スタートからしばらく、現在(作中では2014年)のシーンを続けているんだよね。

それで、やっと、東日本大震災のシーンが出てきたと思ったら、回想シーン扱いであっさりと描かれるだけ。

非常に構成に関しては違和感だらけなんだが、この作品は宮城県のVP(ビデオ・パッケージ)だと思えば、その変な構成も納得がいく。

VPだから、大震災後に復興した宮城の景色を見せることが最優先なんだよね。なので、復興した施設や産業を描くことが大事とされている。
普通なら大震災発生直前、もしくは、それより前の主人公の幼少時代から描くべきものを、現在の生活を長々と見せることにしているのはそういうことなんだと思う。ぶっちゃけて言ってしまえば、大震災発生当時の描写なんて必要ないんだよね。

でも、大震災から10年にあわせて制作されるというお題目を与えられているから、全く描かないというわけにはいかない。なので、ああいう無理矢理な構成になったのではないかと思う。

そして、大震災で心に傷を負ったという誰でも分かるキャラクター設定を番組開始時には明かさずに、主人公が何かモヤモヤしているように見せたのと同じく、脚本家が後で回想シーンで謎解きしようと策略していると思われる案件がもう一つあるのではないかという気がする。

モネは発達障害・学習障害などといったメンタル的な障害を抱えているのではないだろうか?

それが生まれつきのものなのか、大震災起因によるものかは分からないが、精神的なトラブルがあると考えると、モネや周囲の人物の不自然な言動も納得できる。

父親が過保護と言ってもいいほど、モネを心配するのは、モネが障害者だからなのではないか?

勤め先の森林組合の人がモネに優しいのは、モネが障害者だからなのでは?

その森林組合での最初の3ヵ月の試用期間の給与は、まとめて支払われるという超絶ブラックなものだったのに、モネの生活が困っているように見えないというのは、雇用主の家に下宿しているというのはあるとはいえ、元々、金を使うという概念を持ち合わせていないのではないか?

モネの妹や幼なじみ女子が、幼なじみ男子のりょーちんに恋心を抱いているのに、モネにはそういう感情はないようだし、それどころか別の幼なじみ男子の三生と共同生活しても何とも思わないというのは恋愛感情というものがあまりないからでは?

にもかかわらず、無愛想な医師には勉強を教えてもらい、恋愛感情とまではいかなくてもそれに近いものを感じているのは、彼もモネ同様、発達障害だから、どこかで共鳴しているのでは?

大震災発生からちょっと経った2011年の夏と、大学受験に失敗した2014年冬の間は現時点では、回想シーンですら描かれていないが、おそらく、この2年半で精神障害が悪化したのではないかと推測される。

ただ、義務教育レベルの勉強も苦手なところを見ると、大震災以前から学習障害の傾向はあったのではないだろうか?

そして、そんな彼女が唯一、興味を持つことができたのが、才能を伸ばせる可能性があった音楽だったのではないだろうか?

しかし、2011年春に音楽学校の受験失敗と大震災が重なったことにより、音楽に対する興味も失せてしまい、精神的なトラブルが悪化したのではないだろうか?

そう考えると、モネや周囲の人物の不可思議な言動も説明がつくんだよね。

でも、“主人公の言動に違和感を抱く理由はなんでしょうか?”と視聴者に疑問を投げかけておいて、その答えが“実は発達障害だったからです”とか、“大震災で精神を病んだからです”なんて答えを出すのは、精神的な障害を抱える人たちや、被災者に対して失礼極まりない行為だと思うんだけれどね。

まぁ、宮城の関係者は、宮城の景色や建物、産業さえ画面に映し出されれば満足するのかもしれないけれどね。

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