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アバター:ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター

3D映画を見たのは2017年1月日本公開の「ドクター・ストレンジ」以来だ。つまり、本作は約5年9ヵ月ぶりの3D映画体験となる。

この6年近く3D映画が全く作られていなかったのかというと、そういうわけでもない。
中国の大作映画を見ると、日本では2Dバージョンでしか公開されていない作品でもエンドロールに3D関連のクレジットをよく見かけるので、中国では依然として3D需要というのはあるのだとは思う。
また、マーベル原作映画やピクサー作品では日本でも3Dバージョンが上映館数は多くはないものの公開されているので、一時期のブームは去ったにせよ、米国でもある程度の需要は残っているのだと思う。
ただ、日本ではほとんど需要がなくなっているのが現状だ。というか、6年近く前の「ドクター・ストレンジ」の時点でかなり下火になっていた。

シーンに合わせて座席が振動したり、ミストを吹き掛けられたりする4D上映(4DXやMX4D)は日本でも人気がある。でも、これらの上映は3D上映でないことがほとんどだ。4Dというシステムが出てきた当初は3D上映に観客が実際に体で感じることができる要素が加わるから4Dという意味合いだったと思うが、今では4Dは3D上映である必要はないという公式の見解まで発表されているくらいだ。

何故、日本で3Dは受け入れられなかったのか、その理由はおそらく日本人の目に現在の3Dシステムが合わないからなんだと思う。

3Dのブームは過去に何度もあったが、現在の3Dが過去のものとは決定的に違うことが2点ある。

まずは、下火になっているとはいえ、過去のものとは異なり、ブームとなっている期間が長いということだ。

前回のブームは80年代だったが、この時は数年のブームで終わってしまっている。ホラー映画「13日の金曜日」シリーズ、パニック映画「ジョーズ」シリーズがそれぞれ3作目を迎えたことにより、3Dとかけたダジャレ的な感じでこの時期に3D映画として公開されたり、テレビ東京がB級映画を3D放送したりして話題になってはいたが、成功したと言えるのは1985年に筑波で開催された科学万博の複数の企業パビリオンで上映された3D映像くらいではないだろうか。ちなみに自分は日立のパビリオンで何度も耳にしたキャンペーンソングの♪インターフェイス〜というフレーズを今でも時々思い出してしまう。

現在の3Dブームは2000年代前半から始まっていて、下火になっているとはいえ完全に終息はしていないのだから、ブームと言うよりかは新たに定着した上映システムの1つと言えるのだと思う。

3D上映システムが細々と残っているのは、おそらく、劇場への配慮なんだと思う。過去の3Dのシステムに比べると初期投資に金がかかっているので、いくら下火になっているとはいえ、いきなり配給サイドが供給をやめてしまうと、劇場サイドの反発が激しくなることは容易に想像できるしね。

もう一つの決定的な違いは3Dメガネだ。
80年代までの3Dは映画館で見ようと、テレビで見ようと、パビリオンで見ようと、セロハンの貼られた紙製のメガネで鑑賞するのが基本だった。

しかし、2000年代以降の3D上映では使い捨てのものだろうと、バッテリー内蔵の貸出式だろうと、紙製ではなくなっている。
現在の3D作品というのは昔のように、飛び出してくるのを楽しむものではなく、奥行きを楽しむものに変わっている。また、上映時間の長い3D作品も多い。だから、セロハンを貼った紙製のメガネは不向きなんだと思う。

ただ、この飛び出さない3Dというのは日本人には評判が良くなかった。自分もそうだが、立体感がないように見えるんだよね。

おそらく、日本人の多くが近視、乱視、老眼、ドライアイなどといった目のトラブルの症状を抱えているので、つまり、メガネやコンタクトの利用者が多いので、現在の3Dシステムとは相性が良くないのではないかという気もする。

そんな日本の観客が立体感を楽しむことができた数少ない3D映画が2009年公開の「アバター」だった。2000年代の3D映画は字幕が見にくいということで吹替版のみでしか上映されない作品が多かった。アニメーション作品ならそれでもいいが、ホラーやアクション系の作品でもそうだったので字幕派が多い洋画ファンに敬遠されていた面もあった。

しかし、「アバター」は字幕版でも3D上映したし、さらには、3Dが苦手という人に向けて2Dでも上映した。だから、日本では珍しく3D映画としては異例の記録的な大ヒットになった。
そして、これを機に3D映画の上映が増えていったが、日本ではすぐにブームは収束してしまった。それは、先述したように、日本人の目には立体感を得られないタイプの作品が多かったからだ。結局、マーベル映画とアニメーション作品がかろうじて3Dを感じられるくらいだったんだよね。

ところで今回の上映バージョンには「ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター」というサブタイトルがつけられている。
一部報道では、重要なシーンを追加したバージョンとされているが、上映時間は2009年のオリジナル版と同じ2時間42分なんだよね。
しかも、今回のバージョンはエンドタイトルとエンドクレジットの間に続編の特報映像が挟まれている。しかも、この映像はアメコミ映画によくあるオマケ映像というレベルではなく、1シーン丸々収録といった感じになっている(実際に本編に使われているのかどうかは知らないが)。
自分が見た劇場では上映時間は予告やIMAXの告知映像を含めて2時間55分となっていたので、おそらく、作品自体の上映時間は2時間42分で合っているのだと思う。となると、どこか削られているのではないかという気もして仕方ないんだよね。

というか、2010年に発表された「特別編」は2時間51分と明らかに追加シーンがあったのに、それより短くなっているというのはどういうことなんだ?

それから、冒頭の映画会社ロゴは20世紀スタジオに差し替えているのに、エンドタイトルのクレジットは20世紀フォックスのままなのもよく分からない。エンドタイトルとエンドクレジットの間に特報映像を挟む編集をする余裕があるのなら、エンドタイトルのクレジットくらい差し替えられたのでは?

そして思った。これだけの大作なのにエンドクレジットがそんなに長くないんだよね(邦画やアジア映画、ヨーロッパ映画と比べれば明らかに長いけれどね)。最近のアメコミ映画なんてアホみたいに長いしね。
ディズニー作品になる前の「スター・ウォーズ」シリーズが実質的にジョージ・ルーカスの自主制作映画だったように、「アバター」もジェームズ・キャメロンの自主映画だったってことなのかな?
 
ちなみに、自分が「アバター」を見たのは今回が4回目だ。
初公開時に3D字幕と2D字幕で見ているほか、2010年の特別編も見ている。
今回はその特別編以来、12年ぶりの鑑賞となった。

久々に見て、「アバター」って、こんなにテンポが悪い作品だったっけと思ってしまった。

まぁ、3D上映なのに、マスク着用を義務付けしているせいで、3Dメガネがしょっちゅうくもった状態になり、集中できなかったせいというのもあるとは思うが。

その一方で、時代を先取りした作品だったんだなというのも改めて感じた。

大統領選でトランプ当選が決まった2016年の秋以降、欧米の映画賞レースは、人種や性別、障害、宗教などによる差別問題や、環境や動植物の保護を訴えた作品が評価されやすい傾向がより一層強まっている。そしてトランプが退き、リベラル層が好きな民主党政権になっても、その傾向はエスカレートする一方だ。
この「アバター」はトランプ政権が誕生するよりも前のオバマ政権が発足してそんなに経っていない頃の作品なのに、反トランプ勢力が好きな要素がこれでもかというくらい盛り込まれているんだよね。
だから、日本ではネトウヨ思想の連中には嫌われていた。まぁ、こういう連中はアナログ思考で頭が昭和で止まっていて、CGとかモーションキャプチャーといった技術を手抜きと思い込んでいるので、そういう面で批判しているというのもあるけれどね。

それにしても、今年から隔年で続編が立て続けに4本公開されるということだが、そうするとシリーズ5作目が公開される2028年には、ジェームズ・キャメロン監督は74歳になっているんだよね…。現在のスピルバーグやスコセッシより若いし、さらに高齢のイーストウッドもいるとはいえ、キャメロン監督はスピルバーグやスコセッシ、イーストウッドに比べると寡作だからね…。「アバター」シリーズの続編でキャリアが終わってしまう可能性もあるんだよね…。できれば、続編ものでない新作を他界or引退する前に発表して欲しいな…。

《追記》
そう言えば、主題歌“アイ・シー・ユー”って、レオナ・ルイスが歌っていたんだよね…。
オーディション番組出身で“ブリーディング・ラヴ”などのヒットであっと言う間に人気者になったけれど、オワコン扱いになるのもはやかったから、この曲は同じ監督:ジェームズ・キャメロン、音楽:ジェームズ・ホーナーによる「タイタニック」の主題歌“マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン”のような世界的大ヒット曲にはならなかったんだよね…。「アバター」の公開があと半年でもはやければ、大ヒット曲になれたと思うんだけれどね。

ところで、2週間限定公開と言っていたのに3週目に突入しているぞ。まぁ、そのおかげで見ることができたんだけれどね。おそらく、観客動員数ランキングのトップ10に入ると思っていなかったのに2週連続でランクインしたから急遽変更したんだろうね。

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