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バルド、偽りの記録と一握りの真実

2020年代になってからのアカデミー監督賞は2年連続で女性監督が受賞している。アカデミー賞以外の欧米の映画賞や映画祭にも言えることだが、女性監督作品を評価しないといけないという風潮が蔓延しているのはどうかと思う。

勿論、アカデミー賞のポリコレ路線は今に始まったことではない。2010年代のアカデミー監督賞の受賞者を見てみると受賞者は外国人監督ばかりだ。アメリカ人の受賞は「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督だけ。米国資本の作品が多い英国を含めても「英国王のスピーチ」のトム・フーパー監督がいるだけだ。

あとの8回は全て非英語圏の監督が受賞している(複数回受賞者もいる)。

フランス、台湾、韓国が1回ずつ。そして、すごいのがメキシコ勢で5回も獲得している。

アルフォンソ・キュアロンとアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが2回ずつ。ギレルモ・デル・トロは1回となっている。しかも、2013年度から18年度の6回のうちの5回がメキシコ勢の受賞で、イニャリトゥ監督は14年度と15年度に2年連続で受賞している。

受賞対象作となったのはキュアロン監督の「ゼロ・グラビティ」と「ROMA/ローマ」。イニャリトゥ監督の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」と「レヴェナント: 蘇えりし者」、デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」だ。映画ファンでこの5作品の監督賞受賞に納得いかない人はいないのではないだろうか。

しかし、そんな大物監督の新作でも、アート性の強い作品は旧来のハリウッドメジャースタジオからは敬遠されるようになってしまった。
コロナ前からその傾向はあったが、ランキングの上位にはドラマ系作品の作品はほとんど入らなくなってしまった。ヒットするのはヒーローものやアクション、サスペンス、ホラー、アニメーションといった娯楽ジャンルばかりだ。

だから、18年度の監督賞受賞作であるキュアロン監督の「ROMA」は旧来の映画会社が配給せず、Netflix配信作品となってしまった(配信映画として初のアカデミー監督賞受賞、作品賞ノミネートとなった)。

そして、今年はイニャリトゥ監督、デル・トロ監督の最新作が揃ってネトフリ映画として発表されることになった。
イニャリトゥ監督は本作「バルド、偽りの記憶と一握りの真実」、デル・トロ監督はストップモーション・アニメの「ピノッキオ」だ。
作品賞にノミネートされるかどうかは分からないが、両作品とも賞レースを賑わせそうな題材なので、「ROMA」同様、限定的ではあるものの映画館でも上映されることとなった。

「バルド」はイニャリトゥ監督にとっては短編を除くと、実に監督賞受賞作となった「レヴェナント」以来7年ぶりの新作となる。
国際的に活躍する監督だけに失敗は許されないから、なかなか、それに見合った予算がおさえられないということなのだろうか?

そんな久々のイニャリトゥ監督作品を心して鑑賞することにした。
前作「レヴェナント」も2時間37分(KINENOTE参照)という長尺ものだったが、本作はさらに長い2時間40分だからね(Wikipedia参照、KINENOTEの2時間54分表記は間違いだと思う)。

そんなわけで、尿意や睡魔に襲われないか不安になりながら本作を鑑賞することになった。

一言で言えば、“何じゃこりゃ!”という映画だった。

不条理なシーンやメタなシーン、意味不明なシーン、現実か夢か分からないようなシーン、そんなのばかりなのに2時間40分もの長尺作品になっていることに驚いた。

前作までのイニャリトゥ監督の長編作品6本は全てアカデミー賞の何らかの部門で候補になっているし、そのうちの半分の3本は作品賞候補(「バードマン」は作品賞受賞)となっている。
それなのに、本作を本年度アカデミー作品賞候補として予想する声が少ないのは何故なのだろうと思っていたが、まぁ、この内容ならそういう評価になるよねって思った。

それから、米国のリベラルや左派メディアが共和党批判のためにメキシコを利用しているだけといったニュアンスの描写があることもポリコレ思想に毒されきっている今の欧米映画賞レースでは評価されにくいだろうなとは思った。

あと、赤ちゃんの性器がはっきりと映っているのも児童ポルノ扱いされそうだし、主人公の妻役が胸を露出しているシーンも長かったし、性描写の面でもリベラル層には嫌われそうだよねとは思った。

そう言えば、空港で働いている中国系スタッフをアメリカ人のフリをしているなんて言っているシーンもあったし、やっぱり、ポリコレ的な観点からすると酷評されても仕方ないと思う。

とはいえ、ビジュアル的、イマジネーション的には圧倒的なものがあるし、意味不明なシーンの連続なのに、しかも、2時間40分もの長尺なのに普通の2時間くらいの作品に感じさせてくれるんだから、監督賞にはノミネートされそうな気はするかな。

というか、生まれてすぐ死んだ子どもを、この世に不満があり子宮に戻っていった存在と描くのってすごい発想だよね。

そして、アカペラバージョンで流れるデヴィッド・ボウイ“レッツ・ダンス”がかなりカッコ良くていい!

そんなわけで、今年のネトフリ映画連続限定上映作品の中では作品賞にノミネートされる作品は出ないような気がしてきた。作品賞以外の部門にノミネートされそうな作品は多いけれどね。
となると、2018年度から4年連続、しかも、19年度からは複数作品を3年連続で作品賞候補にしていたけれど、今年はゼロってことになるのかな?

そう言えば、ネトフリ新作で賞レース参戦が期待できる作品には「ナイブズ・アウト: グラスオニオン」とか、カートゥーン・サルーンの新作「エルマーのぼうけん」があるけれど、どちらも日本では劇場上映されないのは何故?今回の連続上映作品は全5本と少ないんだから(去年は7本)、この2本を上映しても良かったのでは?

ところで、ネトフリといえば、最近、広告付きプランが提供されたことも話題となっている。
そして、これに対して、コンテンツを提供している日本のテレビ局(NHK、民放)が噛みついていることもニュースとなっている。

CMなしが前提のサブスクリプションサービスの有料会員向けにコンテンツを提供したのに、低料金会員向けのCMありサービスでコンテンツを流すのはおかしいだろという日本のテレビ局の主張は一見、正論に思える。

でも、よく考えたら日本のテレビ局の主張って矛盾しているんだよね。

民放各局が共同で運営しているTVerで配信されている民放コンテンツでは本放送とは別のCMが流れているし、テレ朝系のABEMAの無料サービスでもやはり、本放送とは異なるCMが流れる。
ある程度流すCMのコントロールはしているのだろうが、明らかに視聴対象者には不向きなCMも多い。
たとえば、深夜アニメであれば、基本、その番組の視聴者が好みそうな関連業界のCMが多いが、それをABEMAで見ると、明らかに関連のないCMが挿入されることが多い。視聴者にとって不快指数の高いものばかりだ。

それと何が違うんだ?

というか、冷静に考えたら、地上波番組の再放送の時って、番組中に挿入されるCMは本放送時と変わるのは当たり前だし、本放送と再放送で放送局が異なることもある。また、本放送時だって、全てのネット局が同じCMを流しているわけではい。

そう考えると、ネトフリの低料金プランで別のCMが入っても何の問題もないじゃん。

まぁ、NHKに関しては受信料を徴収しておきながら、別媒体で広告を流すのはダメでしょ。それだったら、受信料を強制徴収する必要ないよねって問題が発生するけれどね。

それに外資系の配信サービスでも既にCMが流れているものは多い。
YouTubeの無料版は動画スタート前にCMが流れるし、一定尺以上のものは下位置に広告が提示されたり、CMが挿入されたりする。百歩譲って、これは無料配信だから日本のテレビ局は黙認しているとしよう。

でも、アマゾンプライムは本編再生前に別コンテンツのCMが流れるよね。
アレって、アマゾンがおおすめするコンテンツだから、必ずしも、これから見ようと思っているコンテンツの関連作品ではない。アレはいいのか?
アマプラは、いくら通販サービスのオマケとはいえ、有料会員制だよ?番宣はCMとは見なさいってこと?

そうなると、結局、日本のテレビ局は旧態依然とした既得権益を守れなくなったから、ネトフリに噛みついているとしか思えないんだよね。

スポンサー側は、あくまで、テレビでリアルタイムで放送を見てくれることを前提に出稿しているわけで、録画視聴や再放送、配信サービスのことまでは考えていないと思うんだけれどね。
そんなのまで考えていたら、どうせ、リアルタイムで見る人なんていないんだから、テレビでCMなんて打つ必要ないでしょってなるしね。

本当、日本のテレビ局って遅れているよね。


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