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【論文レビュー】コロナ禍の環境が子どもの社会性発達に与えた影響を縦断研究で明らかにした論文:森口ほか(2022)

SEMとかを使わなくても、平均と標準偏差だけでも縦断研究で明らかにできるものは多いのだなぁという論文がありました。本論文では、コロナ禍における制約された社会生活が、子どもの社会情緒的行動他者との心理的距離にどのような影響を与えたのかについて明らかにしています。

森口佑介, 王珏, 坂田千文, 孟憲巍, 萩原広道, 山本希, & 渡部綾一. (2022). 新型コロナウィルスによるパンデミック下の社会性発達に関する 横断的・縦断的検討. Japanese Journal of Developmental Psychology, 33(4).

調査設計

本論文では、横断研究と縦断研究の二つを日本国内で行っています。横断研究はT0(2019年9月)とT1(2020年4月)の2時点、縦断研究はT1(2020年4月)、T2(2020年10月)、T3(2021年2月)の3時点でデータを取得しています。いずれも日本国内でのものなので、なんとなくそれぞれの時点でのコロナ禍に対する受け止め度合いは記憶にあるかと思います。

対象は、社会情緒的行動に関しては4-9歳、心理的距離に関しては0-9歳という子どもに対しての調査です。

社会情緒的行動への影響

社会情緒的行動については、SDQ(Strength and Difficulties Questionnaire)を用いて、五つの下位次元で平均と標準偏差をとっています。横断研究(左)と縦断研究(右)での結果は以下のとおりです。

p.327

横断研究では、向社会性が高まっていることが読み取れます。著者たちは、四川大地震の前後でも中国の子どもを対象とした調査でも向社会性が高まったことを挙げて、厳しい状況下で他者に対して親切になった可能性があるとしています。

縦断研究では、向社会性も含めて社会情緒的行動において特に大きな違いがないことが読み取れます。その上で、横断研究と縦断研究とを比較しながら著者たちが述べていることは、横断研究ではサンプルが異なるためにコロナ禍の前後で差があったかどうかは控えめに捉える必要があるとしています。

心理的距離への影響

心理的距離については、自己における他者の包含スケール(Inclusion of Other in the Self)を用いて、横断(左)と縦断(右)でそれぞれ調査を行い、以下のように平均と標準偏差を出しています。

p.329

横断研究では、コロナ禍の前後で家庭生活が長くなり外での生活が短くなったため、養育者との距離は短くなり、他者との距離は非常に長くなっている、ということが読み取れます。

縦断研究では、通常の子どもの発達と近しいように、養育者との距離を徐々に取るようになり、他者との距離感が短くなっている、という解釈ができそうです。

国際ジャーナルでは横断研究は厳しい!?

本論文の「おわりに」では、国際ジャーナルにおける横断研究と縦断研究での投稿について著者たちの経験に基づく経験が書かれています。非常に生々しい内容ですが、今後論文を出す上ではとても参考になるものです。

まず、本論文での横断研究に関する論文はリジェクトされ、リジェクトの際はダメな理由を詳細に書かれず「縦断研究ではない」という理由のみで不採択になったとしています。他方、縦断研究に関する論文への反応はよくスムーズに採択された、ということも併せて書かれています。これは国外での投稿に関する話ですが、国内でも今後は、横断研究が学会誌に採択されるのは難しくなるのかもしれません。

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