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【論文レビュー】クラスや学年の生徒数が変わることで、中学生の学力はどのように影響を受けるのか?:山森ほか(2022)

子どもの学力は環境によってどのように変わるのでしょうか。本論文では、学校のクラスや学年全体の生徒数によって、中学生の学力がどのように変化するのかを縦断研究によって明らかにしています。私立の学校だとクラスや学年の生徒数が統制されているのでしょうが、公立出身の身としては、実感と照らし合わせて読むことができ、非常に興味深い内容の論文でした!

山森光陽, 草薙邦広, 大内善広, & 徳岡大. (2022). クラスサイズ及び学校移行に伴うクラスサイズの変化が小学校第4学年から中学校第2学年までの国語, 社会, 理科の学力偏差値推移に与える影響. Japanese Journal of Developmental Psychology, 33(4).

調査概要

本論文での調査は山形県での小中学校で行われています。対象となるのは、2015年度に小学四年生であった児童で、その児童が中学二年生になるまでの国語・理解・社会の三科目の偏差値(=学力)の推移を追いかけています。算数/数学が除かれているのが謎ではありますが、この三科目の推移であることをご承知おきください。

この学力の推移に、小学校の学年の生徒数、クラスの生徒数、中学校の学年の生徒数、クラスの生徒数、といった外的環境がどのように影響を与えるかを分析している、というデザインです。理解と社会の傾向と、国語の傾向とでは少し相違があるので、分けて書いてみます。

理科と社会

まず、理解と社会については、小学校から中学校へ移行する際に、学年の生徒数が増え、かつ学級の生徒数も増える場合には、偏差値が低下するという結果が明らかになりました。

実験や観察、あるいは考察といった内容を伴う科目の場合には、生徒間のやりとりを先生が丁寧にフォローして柔軟に対応することがより求められます。学年全体の生徒数が多くなることで多様性が増し過ぎて学習の焦点がぼやけてしまったり、クラス内の生徒数が多くなることで対話の収束を図ることが難しくなる、といったことが先生による生徒の学習行動の促進が難しくなる、ということが背景にあるのかなと思いながら読みました。

国語

国語については、上述の理解と社会のような結果は出ていません。理解および社会との比較で言えば、国語の科目の内容は、小学校の頃からの延長線上でのものであり、何より日常的に話している言語に関するものです。そのため、人数が増えても大きな影響は出ないということなのでしょうか。

個人的に思ったこと

公立の小中出身者としては、クラスや学年の生徒数による学習効果の違いがあるのはなんとなく肌感と合うものでした。周りの人間の学力が近しくなってくる高校以降では学習進度の違いにあまり意識が向かなくなりますが、公立の小学校や中学校は各人によって理解度も意欲もバラバラです。

こうした状況では、多様な友人とのコミュニケーションによって社会性を強化するというメリットを得られる一方で、学年やクラスの生徒数が多くなると、その多様性の高さが各生徒の理解度のばらつきを統制できなくなるということなのかなと思います。

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