【読書メモ】「プラグマティズムって何?」と思った時に最初に読む本:『希望の思想 プラグマティズム入門』(大賀祐樹著)
アメリカ発の哲学と言えるプラグマティズムを入門的に理解でき、ロールズ、サンデル、ローティといった現代でもなじみのあるアメリカの哲学者たちがどのように受け継ぎつつ乗り越えようとしてきたかの系譜をざっくりと理解することができます。プラグマティズムの全体像をみたうえで、初期のプラグマティズムを主導した一人であるデューイに焦点を当てて書いてみます。
プラグマティズム
プラグマティズムは、パースによって初めて提唱され、ジェイムズやデューイによって一つの哲学の領域として定着したと言われています。真理という概念を用いて説明がなされることが多く、本書ではこの点を非常の簡潔かつ明瞭に記しています。
あらゆる人にとって共通するような究極の真・善・美としての真理なるものは存在しないとしているので、価値を一元的に捉えるのではなく、多元的で多様性のある社会を念頭に置いていると言えるでしょう。そのうえで、文化相対主義のように「みんな違ってみんないい」を極端に進めるようなバラバラな状態に至らないようそれなりに「正しい」ものとしての「真理」が大事だとしているわけです。
そのうえで、それなりに「正しい」ものとしての「真理」を探究するためには対話が大事であるとしています。
ポイントは二つでしょう。一つ目は、対話によってその時点において共有可能な真理を紡ぎ出して共通理解を導くということです。この共通理解は普遍的な真理ではなく当座的なものにすぎません。そこで、第二の点として、将来に向けての修正可能性があり常に修正されていくという特徴を持っています。
デューイのプラグマティズム
オープンで将来に開かれた真理を人々の間で創り出すためにデューイが強調したのがコミュニティです。デューイ・スクールと呼ばれる実験的な学校の設立に力を注いだのも学びのコミュニティを子どもに提供するという彼の意志と整合していると言えます。
デューイがコミュニティを重視した背景には、近代社会における個人の孤立があったと考えられます。産業社会へと移行する中で分業が進み、他人は他人、自分は自分というような孤立状態が生まれ、民主主義社会における連帯が失われているという問題意識を持っていたのです。
こうした問題意識を踏まえて、他者との対話によってお互いに暫定的に共有可能な真理を探究するためにコミュニティを構築することが大事であるとデューイは主張したと著者はしています。
著者はデューイが理想としたコミュニティの可能性は引き継ぎつつも、現代という時代性においては物理的な連帯には限界があると指摘します。現実を見据えたうえで、SNSなどを通じて問題意識を共有したり、行動を協調的に行うといった仮想空間も含めたコミュニティ形成に可能性を見出し、デューイの思想を引き継ぐ意義を述べている点は納得的に思えます。
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