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パッシブハウスの風量測定

現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。


ザ・年の瀬。
つい先日、竣工まじかとなったパッシブハウスの換気システムの風量測定に立ち会った。場所は浜松市。
この物件の冷暖房と換気計画に携わっている。

パッシブハウス。ドイツで生まれた省エネ住宅の「基準」。
※以下、Passive Houseのサイト(英語です)

様々な「基準」があるが、代表的なものとして
年間暖房負荷:15kwh/m2 (床面積1m2あたりの年間暖房負荷が15kwh)
最大暖房負荷:10w/m2
 
がある。
ピンとこないと思うが、最大暖房負荷が10w/m2という基準は衝撃的に小さい。九七式戦車の前に現れたティーガー戦車ぐらい圧倒的且つ衝撃的。

<参考画像> 映画『フューリー』に登場するティーガー戦車
WWⅡ最強戦車

例えば日本。
エアコンを選定する上で参考にされている基準がJISにある。
そこには「1m2あたりの暖房負荷を265w/m2でみてね」と明記されている(JIS C 9612 木造住宅)。日本の基準より26.5倍、暖房エネルギーが小さくてよい
つまり、一般的に6畳用エアコンと言われている定格2.2kwのエアコン。
パッシブハウスならその2.2kwでおよそ130畳の空間を暖房できる。
(2200w ÷ 10w/m2 = 220m2 ⇒およそ130畳)
※実際は定格2.2kwのエアコンだと最大暖房能力が4.0kwぐらいあるので、最大能力でみると「400m2いけます!」となる。
ま、エアコン選定においてパッケージACは「最大能力」でみて、
ルームACは「定格能力」でみるのがならわしなので、ここは220m2対応となるか。
日本の基準より26.5倍暖房エネルギーが小さい、これが衝撃的な所以だ。
また、これを満たすために求められる断熱性能は当然厳しいものとなり、私が主戦場にしている6地域でも壁の断熱は200mm程度が求められる。(断熱材による。)

ことほど左様で、私が日頃住宅の温熱環境を決定する上で大事な要素としている4ジャンル<断熱・気密・冷暖房・換気>それぞれについて、厳しい基準が設けられている。
主に、<冷暖房・換気>を得意ジャンルとしている私がパッシブハウスの基準について関心するのは、ちゃんとこの4ジャンルを網羅的にしないと<快適・省エネ>を両立できないことを理解しているからだ

日本にある公的・民間の基準では<冷暖房・換気>がうすい。
また、工務店で「私、省エネ住宅きっちりやってます。」という方のセミナーを聞くと、驚くぐらい<冷暖房・換気>についての内容がうすい事が多い。さらに、気密を高めた結果としての<室内差圧>についての認識がまったくなかったり、この室内差圧と関連して、実際に換気量がどれだけあるか、わかってない関係者がとても多い。

パッシブハウスはちゃんと常時換気、局所換気それぞれの換気量を計画し、有効換気量率も確認、各部屋の換気量を計画している。
また、パッシブハウスでは気密性の基準として
「内外圧力差50Pa時の漏気量がACH0.6/h」
と規定している。日本的なC値に換算するとおよそ0.2cm2/m2となる。
なかなかに気密性が高いので、下手に局所換気を増やすと室内差圧が大きくなる。そこについてもパッシブハウスは考えている。
長くなった。そんなこんなで<断熱・気密・冷暖房・換気>についてよく考えられている。

で、話は戻るが竣工まじかのパッシブハウス@浜松。
この日の目的は換気システムの風量測定。
パッシブハウスは「計画通りに風量が出ているか(少なくないか、多くないか)」について実測を求めている
なんと!!
日本も昔話の頃、『次世代省エネ基準』なるものができた際は気密について
実測する規定があった。
しかし、早晩その実測規定はなくなった。
理由は察することができる。
実測結果をもって、基準適合/不適合を認定するのは大変なのだ。

しかし、パッシブハウスはそれを全世界でやっている!
しかも、相当厳しい基準で!
なんたる厳格さ!
ゲルマン魂の発露!

ゲルマン魂の参考画像
元ドイツ代表シュバインシュタイガー
名前といい、面構えといい「ゲルマン魂」を体現している!
と、私は一方的に考える

で、実測。
換気システムの風量測定。
導入したのはダクト式一種熱交。
まず排気・給気フードそれぞれの風量を計測した。

排気・給気フードの風量を測定
施工と測定は長年一緒に仕事をしているユニソン エアロジック事業部

その後、室内の還気・給気グリルからの風量を計測した。

給気グリルを測定中

ここで求められるのは排気風量(外気風量)に対して、総還気風量(総給気風量)が規定以内かどうか。
熱交には「有効換気量率」というデータがある。
例えば有効換気量率97%とすると、「3%はどこかから漏気してます」ということだ。それをパッシブハウスの計画上盛り込んでおり、それが実際にその通りかの実測だ。
また、それぞれの還気、給気グリルの風量に偏りがないかも
実測・調整する。
なんと、まじめな測定!
ゲルマン魂!

で、測定結果。
自慢じゃないが(と、いう接頭辞の自慢だが)、ほぼ一発で計測は決まった。これは長年一緒に空調の設計施工を行っているユニソンエアロジック事業部の施工能力の賜物だと思う。

で、ついでに差圧測定もおこなった。(これはパッシブハウスの規定上、計測は求められていないが確認した。)

手前が圧力測定器、窓に目張りをして測定

今回、差圧を生む元凶であるレンジフードファンは室内循環グリルを採用している。
↓こんなやつ(実際の物件で採用したものとは限りません)

また局所換気はお風呂しかない。
結果、常時換気、局所換気すべてを動かした状態での差圧は私が許容値としている値におさまった。素晴らしい。

年明けには気密も測定を行う予定だ。
そんなこんなだ。
パッシブハウスの空調計画に当初から携わるのは初めてだったが、色々と勉強になった。
前述の通り、計画段階から<断熱・気密>のみならず<冷暖房・換気>についても細かい基準があること。
また、施工後の実測で計画が担保されているか確認すること。
素晴らしい。
私はパッシブハウスの団体に加盟していないマージナルな存在だからこそ
私が礼賛する姿は参考になるのではないかと思う。

件のパッシブハウス@浜松は1月下旬にオープン予定。
モデルハウスです。
これから環境測定や消費電力測定を行い、私もかかわります。
どういう計測結果になったのか、報告できればと思います。

おっと。
今日は大晦日。
今年も色々とお世話になりました。
<快適・省エネ>についての需要はますます増える一方に思えます。
またその文脈の中で<冷暖房・換気>の必要性が認知されつつあるように思いますし、私の役割も増えるのではないかと思っています。
来年も<快適・省エネ>な住宅作りのお手伝いをしていきたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。

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