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風量を気にすべき設備について   「乾太くん」と室内負圧

現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。


珍しく、具体的商品について書きます。
乾太くん。ガス式の衣類乾燥機。リンナイ製。
大人気です。
巨人・大鵬・卵焼き。そして乾太くん。
実際に、お客様から預かった住宅図面を見ると、かなり高い頻度で
乾太くんが置かれている。
きっと素晴らしいに違いない。

ただ、設置にあたって注意が必要。
乾太くんの運転は機内でガス燃焼させる。
また、乾燥過程で排湿を伴う。
よって、機内に排気ファンがあり、建物外にダクトを繋いで排気している。

さて、仕事柄排気量が気になる。
その風量を踏まえて、給気量(給気口)を設定する必要がある。
で、仕様書をみたところ、『排湿ファン風量』は3.6±0.3m3/minとあった。
時間換算で約230m3/hだ。
ガス燃焼があるのでそりゃそうだな、という量であり
ほっとけない量なのだ。

例えば以下に気密測定のレシートを添付する。

C=0.2cm2/m2のレシート

この物件はC=0.2cm2/m2
なかなか高気密。
こうなると、内外圧力差50Pa時の風量は141m3/hしかない。

<内外圧力差=50Pa>と言われてもピンとこないかもしれない。
これだけ差圧があると、例えば、子供が自力で玄関ドアを開けるのがつらくなる。また、トイレ等にパイプファン(プロペラファン)がある場合、ほぼファンは逆転する。(30-50m3/h程度のパイプファンだと30-50Paぐらいで、逆転する。)
そして、ある特定の窓(特に引違い窓)はピーっという音がするかもしれない。
50Paとはそういう圧力差であり、差圧についてアドバイスを求められる場合、「内外圧力差は50Paにならないよう安全をみて30Pa以内にしましょう」とお伝えしている。

さて、乾太くんの風量は230m3/hだった。
このC値0.2cm2/m2の物件で230m3/hの風量を排気した場合、
内外圧力差は80Pa程度になる。
※実質延床面積130m2、n値=1.4程度、係数b=0.7程度とする。
これはとんでもない値だ。 
50Paでも大問題なので、況や80Paをや、なのだ。

だが、実際はもうちょい複雑。
内外圧力差が大きいと、ファンの静圧がどれだけあるかで、実際の風量が決まる。そこで、リンナイさんに『ファン特性』を頂戴した。
それがこれ。

RDT-63 ファン特性 リンナイ

0pa近いポイントだと4.0m3/min以上風量がありそうなので、そもそも3.6±0.3m3/minの風量を基準にしているということは機外静圧として100Pa程度を見込んでいると考えられる(60Hzエリア)。

高気密住宅の場合、その気密性能そのものも機外静圧に盛り込むべきなので、静圧は200Pa近くなる可能性もある。(特にレンジフードファンを併用した場合。)
そうなると給気量は減る。
で、ガスの燃焼効率は落ちる(という予測)。
となると、乾きが悪くなる、あるいは乾燥時間が長くなる(という予測)。

では、乾太くんを導入しつつ、大きな問題が起きないであろう内外圧力差30Pa以内するためのC値(※実質延床面積130m2、n値=1.4程度、係数b=0.7程度)はどれぐらいかと言うと、凡そC値0.6cm2/m2だ。
上で貼付したC=0.2cm/m2の物件の相当隙間面積αA(隙間の総合計)は28cm2/m2だった。
この物件がC=0.6cm2/m2前後となるための相当隙間面積αAは75cm2/m2だ。
つまり、28cm2/m2の隙間にプラスして47cm2/m2の給気口があれば、乾太くんの排気を賄える。(内外差圧30Pa程度に抑えられるという事。)
47cm2/m2はφ100の自然給気口が約4個分だ。
結構大きい。
でも、それだけ必要。ジレンマ。

そうなのだ。そういう事。
世の中、猫も杓子も気密をC値のみで語る。単一通貨なのだ。
でも、気密においては、隙間だけではなく、給気と排気のバランスも問われるのだ。
乾太くんのみで考えても230m3/hあり、高気密住宅では重荷となっている。
実際はレンジフードファンやら、UBのファンやら、トイレ、洗面、何なら「臭いかもしれないから」とシューズクロークや納戸にも排気ファンを設置する。

願いあげましては、
レンジフードファン500m3/h
UB100m2/h
トイレ50m3/h×2
洗面50m2/h
そして、乾太くん230m3/h

とそろばんをはじくと「合計980m3/hです」
ご名答!
一種換気で、トイレを局所扱いとして自然給気口を
設けなかった場合、(そんなパターンあるでしょ?)
この威風堂々1000m3/hになんなんとする
排気の行方はどうなるのか?
一流のサスペンスなのだ。

ことほど左様で、気密を高めることと給排気バランスを考えることは
コインの表と裏であり合わせて考える必要がある。

乾太くんを図面でお見掛けすることがとても多く、その割に
「乾太くんの排気?深く考えたことないです。」
というプロの方がとても多いので注意喚起でこの記事を書いた。

乾太くん自体は住まい手の家事軽減につながるとても有用な設備機器だと思うので、ここで記した注意をよくよく考えながら換気計画をしてほしい。


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