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ジャック・セロス物語

ジャック・セロスは当時ビオディナミ(自然派)でシャンパーニュを作ることで有名であった。ビオをやめた今でも、シャンパーニュ業界ではトップレベルの品質と価格を維持している。

このシャンパーニュを初めて知ったのは、パリのエッフェル塔近くにあるレストラン。今ではミシュラン三つ星なのだが、当時は一つ星だったのでランチなら気軽く行けた L’Astrance (カタカナ読みにすれば ラストランス)。日本でも三つ星でNHKプロフェッショナル 仕事の流儀 にも登場した、有名なカンテサンス (Quintessence)の岸田シェフがスーシェフとして働いていた所。私が行ったタイミング (2005年2月) では岸田さんもそこで働いていたはず。最近ではキムタク主演の人気TVドラマ グランメゾン の監修をしたので更に人気がでて予約が取りにくくなったと・・

ラストランスの料理の内容はもう忘れてしまったが・・ ・ 雰囲気が良くて当時は料理の写真を撮るのには勇気が必要だったので撮らなかった。写真が無いので料理の内容は忘れてしまった模様、美味しかったのだけは覚えてる 。そんな環境の中、飲んだグラスのシャンパーニュは超印象的。

当時シャンパーニュというのはいつものうす黄色いの(白ワイン色)しか知らなかったが、ここのはかなり茶色い。それだけも初めての体験だったのに、グラスはフルート (細長いの) ではなくて、口がもう少し開いた白ワイン用のグラス。更に温度もキンキンに冷たいのではなくて、赤ワインと白ワインの間のような少し生ヌル系。担当の彼に言わせると香りを楽しむ特別なシャンパーニュと説明してくれる。初めてづくしのこのシャンパーニュ、あまりにもコクがあって奥深い味と香りだったので、名前を教えてもらったら JACQUES SELOSSE BLANC DE BLANCS 。今思えばかなり豪華なグラス・シャンパーニュだったのでしょう。

次の日はパリから移動してシャンパーニュ地方へ小旅行の日だったので、車にて高速道路 A4を北東へ。そういえばシャンパーニュにいるなら、昨日飲んだ美味しいのを買おう・・というアイディアが出てきた。勿論その時はそんなに有名だとは知らない。ホテルにて、住所を調べてもらったら AVIZE という所にある。蔵元へ行けなくても、町の酒屋へ行けば買えるでしょうという安易な考えで出発。有名なエペルネーよりも更に南に下った所にその街はある。行ってみると・・超ひっそり。人っ子一人歩いていないし、酒屋はおろかお店は1軒もない。日本で言えば、なんとか郡 なんとか村 字1894番地 のような感じの所。道を聞く人も歩いていない・・・

しかし、シャンパーニュの蔵元は沢山ある。都会のコンビニ位に頻繁に出てくるイメージ。勿論知らない所ばっかりで、ぐるぐる回ってもジャック・セロスは見つからない。(赤いのが蔵元 200mの縮尺を参考に)

Goole MAPにて Avise Champagneで検索

そんな時、おじいちゃん運転の3輪トラックが通りかかったので、すかさず道を聞いたけど勿論英語は通じなく、う え ジャックセロス? Où est Jacques Selosse?  ジャックセロスは何処?  というひどいフランス語で聞いても知らねぇという感じなので (発音が悪いのとフランス語がめちゃくちゃ)、書いた紙を見せたら知っていたらしく、付いて来い のジェスチャーで3輪トラックのあとをゆっくりと続く。ここだ・・と指さして行っちゃった。

建物を覗くとえらくボロい。掘っ立て小屋みたい。


勿論受付嬢もいないし、だれもいないので敷地内に入ってゆくと、木のドアの奥に人がいて電話してる。終わった所でノックして入れてもらう。

この男の人はネルのチェックのシャツを着ていて作業員風なのに英語は通じたので、お宅のシャンパーニュを売って欲しいのですが・・と頼むと、ちょっと待ってろと言って奥から3本だけ持ってきて今はこれしか余ってねぇな・・とのこと。1本はパリのレストランで飲んだ BLANC DE BLANCS だけど、もう2本は、SUBSTANCE と書いてある。値段を聞くとコッチの方がちょっと高い。このおじさんに Is this good? (これ美味しいの? ) と聞いたら、こまったなというジェスチャーで、わかんねぇな・・・と言ってる。謙遜してるのだろうが高いのだからより美味しいと予想がつく。当時としては高い買い物なのでどうしようかな・・・と考えたけれど、せっかくここまで来たのでこの3本を思い切って買うことにした。覚えてないけれど、65ユーロと80ユーロとかその辺だったと思う(1万円ぐらい 今思えばバカに安い!)

一昨日パリの L’Astrance で飲んだんだと言ったら、ああ あそこね・・と言って、リストを持ってきて日本は・・・今年は・・ヒラマツに7本だろ、なんとかに5本だろ そんな錚々たる日本を代表するレストランに数本ずつ売っている。そんな名前が出てきた所で、ちと不安になってきた。もしかしたら、とんでもない間違えをしたのではないか? ここはすげぇ高級な所じゃないのか? 

そのおじさんに、あなたは社長なの? と聞いたら、「いやぁおれはただの農夫だよ」 との回答。そうだよな・・ネルのシャツだし・・と納得して、待ってる間に置いてあった日本語のワイン雑誌があったので見てみたら、おじさんがジャケットを着てシャンパーニュの説明をしてる写真が出てきた。

もうお分かりだろう、このおじさんはここの社長でシャンパーニュ業界でも超有名な アンセルム・セロス氏( Anselme Selosse )だったのだった!! 

ジャック・セロスのシュブスタンスと言ったら、2005年当時の日本のワイン屋では 3万円〜4.5万円 はする高級品・・・2021年には7万で売っていて、2023年確認したら15万円とな!! それも社長に Is this good? と聞いてしまった!! 今となってはノーアポイントで蔵元へ行くなどという失礼な事はやらないしお勧めしないけれど (当時からアポも取れなかったらしい) 、大物に会えただけで嬉しいものだ。そして、知らないというのは無謀なものだ。

そんな掘っ立て小屋に見えた建物は今では閉鎖されている・・が、2016年4月撮影のストリートビューでは残っていた。

今では近くにある綺麗なホテルとレストランが出来てそちらに引っ越し? オフィスはあるのかな? 歩いて6分・400m。(泊まっても飲めるけど買えないそうだ・・・行ったことがある友人によると、アンセウム・セロス氏はそこにいて気さくに話してくれたとのこと。

Hotel Restaurant Les Avisés

一緒に写ってくれた2005年のこの写真は、私にとって宝物。


ジャック・セロスのシャンパーニュは日本に帰ってからも数回飲んだことあるけれども、やはり濃いし香り高い。高めの温度にしておくと、更に香り高くなる。ブランデーのようにグラスを暖めたい位だ。アンセルム・セロス氏も言っているように、ここの泡はおまけ・・・ そう、仮に泡が無かったとしても (シャンパーニュでなくても) 素晴らしい白ワインなのだ。かなり前に1本だけ残してあったSUBSTANCE を飲んだ。 それは・・ それは・・


#創作大賞2023 #エッセイ部門

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