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女生徒

少女が電車に乗って、
歩いて家に帰り、
お風呂に入って、
百合の花を眺めて、
母親と話をして寝る。

たったそれだけの話。

ほんの数時間だろう。

その短い時間に主人公の少女の頭の中で巡り巡る言葉の波を丁寧に一つずつ綴っている。誰もがずっと頭の中で言葉を連ねているが、すべてを意識することは無い。それをまるで、壁の彫刻の一堀り一堀りの深さや曲線までをはっきりと見えるかのように少女の思考を表現してくれたのが本作品だ。

その思考の端々に映る、彼女の性格や世の中の見方がなんか面白かった。



母親を大事にしようと心の芯のとこから決意したり、
わがままな自分を省みて、
そして、夕空を長いこと眺めたからいい目になったと鏡の中にうっとりする。
ずる賢さとちょっといじめてやろうという悪どさを持ち、よいしょと口に出てしまい"お婆さん"が自分の中にひとついるみたいと感じてしょげてみる。


頭の中だから誰に見られることもない。
体裁を美しく整えることもない。

ただ彼女の美しい心も汚い心もみんなそのままに書かれてしまっている。

頭の中を言葉にすべてこと細かく文字に起こしたら、
数時間がひとつの小説になる。


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以下、残して置きたいと感じた言葉

• その目を見ているともっと自分が美しく生きねければと思わせてくれるような目であればいいと思っている。

• キウリの青さから夏が来る

• 女は自分の運命を決するのに微笑み一つでたくさんなのだ。恐ろしい。

• いま、いま、いまと指をおさえているうちにも、今は遠くへ飛び去っていく新しいいまが来ている

• 歯軋りするほど厭だ

• 私の髪の毛一本一本まで夕靄のピンクの光はそっと幽かに照らして柔らかく撫でる

• 幸福は一夜遅れて来る

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太宰治『女生徒』より

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