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中之島備忘録 令和4年3月16日水曜日

階段を登ることのできない小さな犬を、男が抱きかかえた。小さな犬は安心したように舌をぺろりと出して、自分の鼻を舐める。

ハクモクレンの木は、いつの間にか満開だった。白い大きな花びらは、朝陽に照らされ、しっとりとした肌触りの向こうに物語を隠す。背伸びをして中を覗いてみたけれど、何も見つけることはできなかった。

ハクモクレンを被写体にして、必死になって写真を撮っている女がいたので、邪魔をしないように、遠くから眺めた。

波が激しく揺れて、河岸を打ち付けていた。その耳障りな音によって、現実に戻される。ハクモクレンに夢中になっている間に、大きな船が過ぎ去っていったようだった。私はまるで興味がなかったので、それは想像でしかない。本当に大きな船だったのかどうかは、実は、定かではなかった。

杖を持った老人が、杖を使わずに歩いていた。歩きにくそうだし、杖が老人の動きを邪魔をしているように見えたが、人には様々な嗜好やこだわりがあるので、それはそれで認めることにした。そうすると、とても軽やかなリズムとなって、私の周りの大気を支配し始める。

青い空はリズムを受け止めて、次第にぜんぶ溶けていった。

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