香月

何年か前、胃癌で手術をして、胃が三分の一になってしまいました。その時はじめて、死ぬのが…

香月

何年か前、胃癌で手術をして、胃が三分の一になってしまいました。その時はじめて、死ぬのが怖いことに気づきました。それから私の人生は一変し、長年勤めた仕事を辞め、通信の大学で苦手な文章を学び始めました。しがらみから逃れ、三分の二分身軽になった私は、でもまだ今もナニモノでもありません。

最近の記事

『宝や。』より。まあるくてあっつあっつな宝もの。

大阪のソウルフードと言えば「たこ焼き」。 まあるくて小さくて頬張ると思わず笑顔になっちゃう、ふわっとろあっつあつの、そう、アレです。 大阪にはたこ焼き屋はどこにでも存在していて、そしてどこの店でも美味しく味わうことができます。 今回は恐るべき無数のたこ焼き屋の中から、私の推しで最強のたこ焼き屋、『宝や。』をご紹介させていただきます。手前味噌で申し訳ないのですが、実は私の夫が経営するたこ焼き屋です。 谷町にある小さなお店『宝や。』は大阪市内でありながら古い時代の面影を感

    • ライター講座を継続受講することにしました!

      2月から「なつみと式Webライター講座」を継続受講することにしました。 昨年12月に3か月の講座を受講し終えたところで、今なら継続受講を申し込めば割引があると案内があったからです。 そのお誘いは、大いに私を安心させました。 3か月の講座を受講し終えて、しっかりノウハウを学びライターの世界への扉を開けたはずなのに、なぜ? 自分の心の中の葛藤や不安について向き合わなければ、答えを解決することができない。 まずはなぜライターを目指そうと思ったのか、ということから振り返ってみようと思

      • 中之島備忘録 令和4年4月1日金曜日

        昨日までのぼんやりとした暖かさを、風がさらって持っていってしまった。肌の凍る冷たさだけを残して。 黒くてくねくねとした首の長い鳥が、川の表面に顔だけ出してきょろきょろと辺りをうかがっている。ぽちゃんと音がしたかと思ったら、その鳥はおもむろに水の中に姿を消した。 鳥が姿を消したポイントを中心にして、静かな波が円を描く。 鳥のいなくなった川は穏やかに流れ、街の風景をそのまま映し出す。それは噓くさいほど正確に。 ときおり、黒い鳥がまた顔を出した。その度にはじめて見るかのような

        • 中之島備忘録 令和4年3月31日木曜日

          雨があまりにも小ぢんまりと降っているものだから、手に持っていてずっと邪魔だと思っていたはずの傘の、さすのをすっかり忘れていた。もしかすると、本当はさすのが嫌だったので、言い訳の余地を残しておいたのかも知れないとも思う。 そもそも傘をさすのはあまり好きじゃない。 傘をさすくらいなら、ずぶ濡れになったほうが、本当は好き。 でも大人だから。大人になってしまったから。 大人というのは常識と体裁が全てで。自ら支配される道を選んで生きている。 それが私。 だから。 振り返ると、真正

        『宝や。』より。まあるくてあっつあっつな宝もの。

          中之島備忘録 令和4年3月30日水曜日

          ヘーゼルブラウンのよく磨かれた艶やかな革靴をはいた男が、私の横をすり抜けて、二段飛ばしで階段を駆け上がっていった。 地下鉄の入り口には、切り取られた青空。 薔薇の生まれたての葉は、めいっぱいに広がって柔らかな表面を朝陽に反射させていた。一枚一枚、丁寧に。 信号機の「カッコー」が遠くで鳴いていて、いつまでも終わらない。 どんなに手入れを丹念にしていても、雑草は次から次へとにょきにょき伸びる。本格的な春を告げるために。 マスクをつけていない男が、気まずそうにして私を見た

          中之島備忘録 令和4年3月30日水曜日

          中之島備忘録 令和4年3月29日火曜日

          薄暗い風が、やや強く斜めに吹いていた。 川の流れに逆らって、カラスの声が反響する。金属が擦れ合うような、耳を劈く声。 寂しく冷たい風景。目を凝らさないと、細部まで見ることはできない。 見えない光の糸に繋がれた関係は、誰しもが願う関係性。 私たちはだって寂しいから。 赤いトラックが橋の下のトンネルをゆっくりと越えて、こちらの世界へと足を踏み入れてきた。側面に描かれたお馴染みのぐねぐねした白いロゴが、安心させる。 安心させるためにそこに描かれているわけじゃないのに。 不本意

          中之島備忘録 令和4年3月29日火曜日

          中之島備忘録 令和4年3月28日火曜日

          花びらは透けて、太陽を集める。何も隠さない潔さに敬意を払おう。 反射したピンク色が肌の表面に落ちてきた。 冷たいけれど柔らかい風が心地よくて、まっすぐに立つ。遠くで聴こえる様々な音は混ざり合い、私をゆっくりと包み込んでいく。 そのひとつひとつはもう決して分裂することはないのだろうと思った。 ここには桜の樹は一本もないはずなのに、なぜか探してしまう。 自転車はタイミングよく私の目の前で交差した。

          中之島備忘録 令和4年3月28日火曜日

          中之島備忘録 令和4年3月24日木曜日

          雀が木の枝で激しく鳴いていた。誰かを呼んでいるような必死の鳴き声だった。 その声に呼応するように大きな鳥が川から、ふえーと鳴いた。姿は見えなかったので、それが本当に鳥で本当に大きかったのかどうかは想像するしかない。 鉄板を規則正しく叩く音がする。ひどく荒々しい。大きな決心をしたような裏切りのないしっかりした音だった。その音は決してこの日常に馴染んではいないけれど、誰も気がつかない。私のように気がつかないふりなのかもしれないけれど。 暖かい太陽の光はじっと受けていると暑い

          中之島備忘録 令和4年3月24日木曜日

          中之島備忘録 令和4年3月23日水曜日

          私が近づくと、鳩がふいに鳴きはじめた。喉の奥で押さえつけたような、くぐもった声。怯えているのか怒っているのか、そんな風に見える。 わざと足音を派手にたてる。鳩は鳴くのをやめてくるりと回り、太陽の方に向かって飛んでいった。悪いことをしたような気分になった。 紅い薔薇の芽は、開いて緑色に変容し、いつか見たいじらしい姿はもうどこにもない。 冷たい風が何度も何度も吹きつけて私の身体から体温を奪っていくが、春は裏切ることなく必ずここにやってくるのだと思った。

          中之島備忘録 令和4年3月23日水曜日

          中之島備忘録 令和4年3月23日火曜日

          雨は春の川の表面を細かく打ち続けていた。 それはとても思わせぶりで、なにかを伝えようとしているように見える。じっと見つめていたらそのうち何かが現れてくるかもしれないと、しばらく見ていたが、身体が冷え切ってしまっても、遂に何の変化も現れることはなかった。 よくよく考えてみたらそれが当たり前なのに、なぜかここに立っているといつも、想像の波間に流されている自分がいる。 雨に濡れた街は、しっとりと濃く、区画がさらに浮き上がって見えた。

          中之島備忘録 令和4年3月23日火曜日

          中之島備忘録 令和4年3月17日木曜日

          川に、波紋が生まれた。 波紋は、内側から次々と生まれては広がる。そのどれも消えることなく広がって大きくなって、そして、河岸にぶつかって形を変えた。 新しく生まれた波紋は諦めない。 波紋はまあるく、きれいな円を描いて光を集める。 規則正しく。 ぶつかった波は、はずんで音をたてる。 はじき出された泡は、きらきらと放物線を描きながら、また川へと戻っていった。 私はその終わりと始まりを見ていた。 そして、またその続きを知りたいがために、たちどまって橋の上からのぞく。 深い緑

          中之島備忘録 令和4年3月17日木曜日

          中之島備忘録 令和4年3月16日水曜日

          階段を登ることのできない小さな犬を、男が抱きかかえた。小さな犬は安心したように舌をぺろりと出して、自分の鼻を舐める。 ハクモクレンの木は、いつの間にか満開だった。白い大きな花びらは、朝陽に照らされ、しっとりとした肌触りの向こうに物語を隠す。背伸びをして中を覗いてみたけれど、何も見つけることはできなかった。 ハクモクレンを被写体にして、必死になって写真を撮っている女がいたので、邪魔をしないように、遠くから眺めた。 波が激しく揺れて、河岸を打ち付けていた。その耳障りな音によ

          中之島備忘録 令和4年3月16日水曜日

          中之島備忘録 令和4年3月15日火曜日

          ピカピカ光るよく磨かれた金属板をすり合わせた音のような、鋭く透明な空。 私たちなんて到底届かない場所だと思い込んでいた。あまりにも当たり前で疑いもしなかったのに。 異分子が誕生した。 作為的な、なにかによって。 オメラスから来たことを忘れていただけだということを。 いつしか思い出すのだ。 眠りから覚めた私たちは、そして、何をすべきかを考える。 今、一番必要なこと。 それがなにかを考えるために。

          中之島備忘録 令和4年3月15日火曜日

          中之島備忘録 令和4年3月10日木曜日

          もう一度空を見上げると、さっきまで確かにはっきりと一直線を描いていた、ひこうき雲がぼんやり広がって背景に溶けようとしているところだった。 そう、今まさに。 私はリラックスして、あーあ、と声に出して大きなあくびをした。前を歩いていた男が驚いたように慌てて振り向いたが、じきに無関心な顔をして、早足で去っていった。 追いかけてみようかと考えたが、その行為は別段、面白くともなんともないことに気付いたのでやめた。 警笛が鳴った。 意思とは無関係に、私はまた歩きはじめる。日常にもど

          中之島備忘録 令和4年3月10日木曜日

          中之島備忘録 令和4年3月9日火曜日

          知らず知らずのうちに、大気は汚されていて、私たちに降り注いでいる。払っても払っても汚れは落ちず、マスクをしてすっかり安心しきっている人々の小さな皮膚の穴から滑り込んでは、次第に内側から穢してゆく。そして蓄積していく。灰が積もるように、静かに、静かに。 そんなことを考えていたら、堪らなく気持ち悪くなってきた。 安全で平和な世の中にいて、なぜわざわざこんなに怯える必要があるのだろう。 バラ園のバラの木は枝だけになっても、ちゃんと生きている。いつも誰かが見守って育み続けているか

          中之島備忘録 令和4年3月9日火曜日

          中之島備忘録 令和4年3月8日火曜日

          工事の音が響く。 大気はいつになく透明で、古い歴史的建築物が、すこしずつ近づいてくるように見える。 足元の煉瓦のタイルの色の違いをぼんやり眺めていると、気持ちが落ち着いてきた。ここでよく見かける犬が、興味なさそうに一瞥。大きな鳥が変な鳴き声を発しながらゆったりと低く飛んでいった。霞んでいて見えないけれど、鳥が目指しているのはきっと、ずっと向こうにあるはずの、あの笑っている山だろうと思った。 可もなく不可もなく、答えも意見も批評も必要ない。ただここには流れる時間だけがあり、

          中之島備忘録 令和4年3月8日火曜日