見出し画像

中之島備忘録 令和4年3月30日水曜日

ヘーゼルブラウンのよく磨かれた艶やかな革靴をはいた男が、私の横をすり抜けて、二段飛ばしで階段を駆け上がっていった。

地下鉄の入り口には、切り取られた青空。

薔薇の生まれたての葉は、めいっぱいに広がって柔らかな表面を朝陽に反射させていた。一枚一枚、丁寧に。

信号機の「カッコー」が遠くで鳴いていて、いつまでも終わらない。

どんなに手入れを丹念にしていても、雑草は次から次へとにょきにょき伸びる。本格的な春を告げるために。

マスクをつけていない男が、気まずそうにして私を見た。そんなに気まずいのなら、潔くマスクをすればその窮屈さからすぐに解放されるのに、と思った。

歩くたびに、薄緑色した芝生に間から小さな光の粒が明滅していた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?