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つかれている

ずいぶん、疲れている。
このところ、頭の使いすぎなのだ。

ずいぶん、疲れている。
このところ、気の使いすぎなのだ。

……ああ、疲れた。
これは風呂に浸かって、体を癒さねば。

……ああ、疲れた。
ざぶりと熱い湯に浸かり、ぼんやり蛇口のしずくを見送る。

疲れが、取れてゆく…?

ざぶりと熱い湯に浸かり、ぼんやり洗面器のふちを見つめる。
今日も頭、使ったなあ…。

ざぶりと熱い湯に浸かり、ぼんやり湯をすくい…顔に叩きつける。
今日も、気を使ったなあ…。

僕は、今、疲れを落としている。

今、この熱い湯の中は、僕の疲れでいっぱいだ。

180リットルの、39度のお湯の中に、僕の疲れがわんさか浮かんでいる。
180リットルの、39度のお湯の中に、僕の疲れがわんさか沈んでいる。

疲れを落とした僕は、爽やかな気持ちで風呂を出た。

疲れの落ちた体を、やわらかいタオルで包み込む。

明日は疲れませんように。
明日は変なところで突かれませんように。
明日はおかしな人になつかれませんように。
明日は落ちこぼれ認定の鐘が撞かれませんように。

願いを思い浮かべながら、疲れていた体から水分をふき取ってゆく。

全身さっぱりとした体には、疲れなど…微塵も残っていない。

疲れは取れた、しかし。

……この、えもいわれぬ様な、脱力感は何だ、疲れているとしか思えない。
……この、えもいわれぬ様な、圧し掛かる様な重さは何だ、疲れているとしか思えない。

ため息をひとつ、つきながら…ドライヤーを使って、髪を乾かす。

……おかしいな、疲れは取れたはずなのに。

つかの間の入浴では…疲労感は落としきれないとでも、言うのか?

髪が乾いたので、使い終わったドライヤーを定位置に戻し…ふと、洗面台の鏡を見た。

……湯上りの、疲れた顔をした…素っ裸のおっさんが、一人、二人、三人…。

「…つか、人、多くね?」

…僕は、ずいぶん派手に、憑かれて、いる。

疲れは取れたのに、憑かれたままだ。

僕は背後の肉体を持たない人々を引っさげて、裸のままつかつかとキッチンに向かい、冷えた牛乳をごくりと飲んだ。

開きっぱなしの冷蔵庫の棚に見えるのは、…うん、朝方漬け込んだキュウリと白菜が、いい感じに漬かってるな。

粗塩と出汁醤油をふんだんに使った、僕特製の漬物。
疲れた日の湯上りには、旨いつまみで晩酌、それが結局、一番なのさ。

疲れは取れた、あとは後ろの奴らを酒の力を借りて吹き飛ばすだけ。

疲労感に負けて憑かれてはいるけれど、本来僕はこんなの付く筈もないくらい漲ってる筈なのさ。

…とっておきの日本酒を棚から出して、とっておきの徳利とお猪口を使って飲んでやろう。

・・・ツッカツッカツッカツッカ、ツツツツ♪

僕のスマホがいつの間にか鳴っている…いつから鳴ってたんだ、着信音が聴いたことのない旋律を奏でている。

「やあ、大塚君、久しぶり。」

気を使わずともよい友人との会話を楽しみながら…酒飲みの夜は、更けていった。


翌朝、僕は気分爽快で目が覚めた。

「疲れ」も「憑かれ」も取れた僕は、ずいぶんすっきりとしている。

今日も一日、がんばれそうだ、いや、がんばろう、がんばるのだ!!

・・・「つか」に付かれた僕は、いないのさ!!

さ、顔洗ってこよ!!

僕はどかどかと洗面所に向かい…下の階の人から天井アタック(僕にとっては床攻撃)を受けてしまったので、あった。

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なお、下の階から…つつかれた訳ですよ(。>д<)

疲れを取りたい時、温泉の元に頼るタイプです、はい。
登別カルルスの癒し効果ときたら最高通り過ぎて極楽浄土なんですよ、ええ。


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