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マッパマンのこだわりある人生

「……待ちなさい!!洋二!!服を着なさい!!危ないでしょ?!」
「へへー!!やーだーよ!きゃー!!!」

田舎の大きな屋敷の、縁側。
エプロン姿のお母さんが、洗濯物の入った籠を抱えながら廊下で声を荒げている。

飛び石、砂利、小さな池、植木鉢に少々伸びすぎた芝生…おぼつかない足取りで駆け抜ける、真っ裸の、幼児。むちむちとした健康優良児が、はだしで庭を縦横無尽に…、盛大に、飛び石の段差のところで、転んだ。

「…あっ、う、うぇええええん!!!」
「ほら!!言わんこっちゃない!!ちょっとー!お姉ちゃん!赤チンもって来てー!!!」

「はーい!」

幼児はすりむいた膝小僧を、フルチンのまま手当てをしてもらって、ニッコリ微笑んだ。


「……ちょっと!!洋二!!服着てよ!!恥ずかしいと思わないの?!」
「へへー!!全身日光浴だよ!!これ、俺の健康の秘訣!」

田舎の大きな屋敷の、縁側。
セーラー服姿のお姉ちゃんが、学生かばんを持ったまま縁側横で声を荒げている。

田舎の家は、玄関からではなく、庭を抜けて縁側から入るものだ。南側にある縁側で、真っ裸で日差しを浴びる男児の姿を目にして、思春期の女子は怒りをあらわにした。それをまるで気にとめることなく、大きく開脚をしておどける弟。

「玉袋の裏側もしっかり焼いておかないとな!!」
「ちょっと!!おかあさーん!!洋二がね?!もー、ホントヤダ!!!」

「洋二!!!あんた三年生にもなってなにやってんの!!」

少年は母親にげんこつを貰って、しぶしぶ真っ白なブリーフをはいた。


「今日は母ちゃんも姉ちゃんもいないんだよね~!」

田舎の大きな屋敷の、縁側横の和室。
汗にまみれた学生服の青年が、庭を見ながら着ているものを脱ぎ捨て、真っ裸になった。

風呂場に行ってシャワーを浴び、水分を拭うことなく縁側に来た青年は、扇風機をまわして大の字になった。庭の木々に止まったセミが、けたたましく雄叫びを上げている。夏の日差しはあっという間に濡れた表面を乾かし、皮膚を焦がし、体内の水分を奪っていく。のどが渇いた青年が、水でも飲もうかと起き上がった、その瞬間。

「すみませーん!!速達…うわっ!!」
「わあ!!ええとー!!ゆ、郵便?!は、はははんこ要ります?」

青年は慌てて股間を手で隠し、奥の部屋にかけていった。


「ぱぱー!ぷーる、つくって!!」
「よーし!!いいぞ!!じゃあ、水着もってこい!」

田舎の大きな屋敷の、庭。
麦わら帽子をかぶり、汗をふきふきビニールプールを膨らませる、お父さん。

時折水を浴びながら、さりげなく一枚、一枚と着ているものを脱いでいく。

パンツ一丁になったお父さんの、おもちゃがたくさん浮くプールに恐る恐る足を入れた少女を見る目は、ずいぶん優しい。

「パパ!!ちゃんと水着着てよ!!近所の人が見たら恥ずかしいでしょ!!」
「ここらの人はみんな俺が露出狂だって知ってるから大丈夫!」

「ぱぱー!ろしゅつきょうってなーにー?」

水着を持ってきたお母さんにげんこつをもらったお父さんは、水着をはくために娘の前で勢いよくパンツを脱ぎ捨てた。


「ちょっとパパ!!もうすぐ彼が挨拶に来るのに裸で行水とかやめてよ!!」
「いいだろう!一緒に裸の付き合いをすれば!!それができんようでは、婿失格だな!!」

田舎の大きな屋敷の、縁側前の庭。
大きなたらいに水を張り、素っ裸で腰を下ろしてジャブジャブと体を流しているおっさんがいる。

やたらと顔をジャブジャブやっているのは、暑いからなのか、それとも。

「おとうさん、僕は…お背中、流させていただきますっ!!」
「おう、もっと腰を入れて流せや!!」
「パパ!!」

「アナタなにやってんのよ、もう……!ごめんね?!」

おっさんは、やたらと大きな声を張り上げて、やや細身の青年の肩を叩くと、上機嫌な様子で笑った。


「洋二さん、また、プールですか?」
「おう、ケンタも入るかい?」

田舎の大きな屋敷の、庭。
大きなたらいに水を張り、素っ裸で腰を下ろしているじいさんがいる。

時折空を見ながら、木を見ながら、庭の雑草を見ながら、流しっぱなしの水を体にかけることも、タオルで体をこすることもなく、ぼんやりとしている。

「…僕はいいですよ、…体が冷たくなってますね、さ、そろそろ上がって、おやつを食べましょう?」
「そうかい?」

「じいちゃん、俺が作っただんご、食おうぜ?」
「そうかい?」

じいさんは、丸裸のまま無表情で返事をしたが、その場を動こうとはしなかった。


「洋二さん、服を着ましょうか!オムツはこうね!」
「はーい、右足あげますよー!」

とある老人ホームの、一室。
ベッドの上で、素っ裸のまま座って、窓の外を見ている、老人。

何度職員が服を着せても、すぐに脱いでしまう。
何度職員がオムツをはかせても、すぐに脱いでしまう。

いつ、どんな時も、朝も、昼も、夜も、夜中も、素っ裸でどこかを見ている、老人。

「俺はいいよ、はだかが、いちばん、いい。」
「ごめんね、服を着ようね?」
「オムツしないと、汚れちゃうからね?」

老人は、返事を、しなかった。


「パパ、やっぱりなにも着てなかったねぇ…。」
「ある意味じいちゃんも本望だったんじゃない?裸でしめる事ができたんだし。」
「硬直で服が着せられないとか、ある意味スゴい。」
「計画してたのかな?」
「ふふ、真っ裸で生まれてきて、真っ裸で旅立つとか…パパらしいっていうか!」
「ホント、お義父さんはマッパマンを貫いていたなあ…。」
「今ごろ、雲の上でも真っ裸になってそうですね。」
「お義母さんにげんこつもらってると思いますよ。ずいぶん怒られていたのを見ましたし。」
「おばあちゃんやお姉さんにも怒られてると思うよ?めちゃめちゃそういう話聞いたし。」
「大往生だって、誉められてるかもしれませんよ?」
「100才ですもんね、ピンピンコロリだったし!」
「裸が健康の秘訣だったんでしょうかね?」
「そうかも!ふふ…!」

露出癖のある男は、賑やかな声に包まれながら…、その人生の幕を、下ろしたのだった。

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