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几帳面な猫

 実家の猫が、慣れない。

 毎日顔を合わせるようになって、まる三年。
 攻撃こそされないが、全くなつかない。

 掃除の際に近づけばそそくさと立ち去り。
 餌を食べている横に立てばそっと立ち去り。

 極力対面しないよう、絶対に同じ空間にいないよう、動き回る。
 限りなく堂々と、避けられている。

 私は熱心な猫愛好家ではないので、友好的ではない猫に媚を売るような事はしない。
 ばったり出くわした場合は仕方がないが、わざわざ姿を拝むために近づくような事はしない。

 基本、無関心を貫くようにしている。

 猫が目の端にいても、気にしない。
 猫が日向ぼっこをしていても、気にしない。
 猫が布団の中に潜り込んでいても、気にしない。

 猫がいてもフローリング掃除はする。
 猫がいても洗濯物を干すし取り込む。
 猫がいても新しい毛布をベッドの上に置く。

 猫は、たいがい私に近づくことはしないが。

 やけに母親のもとに行く。
 やたら父親のもとに行く。
 私が猫のそばを通るたびに、母親のもとに行く。
 私が猫を跨ぐたびに、父親のもとに行く。
 私が猫の前を横切るたびに、ぐるりと後ろを向いて母親のもとに行く。
 私が猫を追い抜くたびに、いきなり進行方向を変えて父親のもとに行く。

 私と接近するたび、几帳面に、母親と父親のもとに出向く猫。

 猫は時折にゃあと鳴き、母親と父親を見上げるのだ。
 私とは目を合わせようとすらしない猫は、真ん丸な目で母親と父親を見つめるのだ。

 これは……もしかして。

 あいつがわたしのちかくにきたんですよ!!
 あいつがわたしをまたいだんです!!
 あいつがわたしのまえをよこぎって!!
 あいつのくせにわたしをおいこしたんですよ?!
 あいつがいるならごはんなんかたべたくないです!!
 あいつわたしのうえにものをのせました!!
 あいつあしおとがうるさいんです!!
 あいつじゃまなんですよ!!
 あいつなんなんですか?!

 真っすぐに母親の目を見つめて、懸命に訴えているのではあるまいか。
 じっと父親の目を見つめて、切実に不満を申し立てているのではあるまいか。

 ……真実は、わからないが。

 猫の不愉快なオーラは、確実に実家の中に漂っている。
 猫の不機嫌なオーラは、確実に私に届いている。

 ……猫がどれほど訴えても、私は毎日実家に現れるというのに。

 君は家事ができないからね。
 君は送迎ができないからね。
 君は受け答えができないからね。

 猫が猫である限り、私は毎日、猫の前に現れなければならないのだ。

 猫は、相当ストレスがたまっているかもしれない。
 気に入らないやつが、毎日家に来るから。

 猫は、ストレスがたまっていないかもしれない。
 気に入らないやつの告げ口を、毎日しているから。

 猫の本心は、解らない。

 ただ、一つだけ、解っているのは。

 …ッ、しゃー!!!

 ……手を伸ばしただけで、この仕打ち。

 私には、実家の猫の頭をなでる事ができそうにない、という事である。


こちら動画もございます(*'ω'*)


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