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あなたが待ってくれるから 3

担当の刑事さんから、被害者のおばさんが亡くなった事を聞いた。

自分のしてしまった事が重大な事だと、馬鹿な僕は今さら気がついた。

留置場に来て10日目。

僕には共犯がいないため、接見禁止が解除され、両親が面会に来てくれた。面会室のドアを開けると、久しぶりに会った両親は、少しやつれて見えた。

「瑠偉、お前なんて事してくれたんだ。お前の事件のお陰で、家にマスコミまで来て、もうあの街には、俺達も住めない。家を売って引っ越しを、しなきゃいけないんだぞ」

親父が今にも、殴りかかりそうなぐらい怒り、僕から目線を外さなかった。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

するとお母さんが、泣きながら僕に話をした。

「瑠偉、ごめんなさいじゃ済まない事をしたのが分かる?1人の無関係な人間の命を、あなたが奪ったのよ。毎日被害者の方の事をしっかり考えて、手を合わせて反省しなさい。あなたが今しなきゃいけない事は、私達に謝る事ではないわよ」

僕は号泣しながら何度も謝った。あっという間に面会時間が過ぎ、それでも僕は顔を上げれず泣いていた。

その時だった。

「瑠偉の職場の由真さんって方が家にいらしたわよ。事件の事、新聞やニュースで見たらしく、心配してたわよ。あなたにずっと待ってるからと、伝えてほしいって」

僕は捕まってから、自分の事でいっぱいで由真の事は忘れようと思っていた。だからそんな言葉を聞いてまた号泣した。由真が待っててくれると聞いて、僕の中でも罪を償って行こうと言う気持ちが、心の底から思えるようになった。10年しっかり務めて反省して行こうと。



逮捕されてから10年後。

今日は、僕が夢にまで見た出所の日。この10年間僕は、自分の今まで生きてきた人生を、反省する毎日だった。借金してまでパチンコをしてた事や、両親に対しての気持ちや、由真に対しての気持ちを。

刑務所に入ってる間に手紙が2通だけきた。

1通は同僚の小林から、2通目は由真から。

刑が確定してから五年ぐらい経った頃だった。手紙を開けると、小林と由真は同じ事を書いていて、僕に謝罪していた。

「瑠偉久しぶりだな。お前の誕生日を祝った以来かもしれないな。体調はどうだ?お前の事件はニュースや新聞で知ったよ。本当にビックリした。刑期も残り半分くらいかな?今日は瑠偉に大切なお知らせがあります。実はお前が逮捕されたあと、由真から瑠偉の相談を受けてて、俺も由真の優しい所が好きになり、この度結婚する事になりました。瑠偉悪く思わないでくれ、ごめん」

由真からの手紙も読んでみた。

「瑠偉君へ。いつも優しくて真面目な瑠偉君が好きでした。でもこの事件のお陰で、私も家族や周りの人達に、凄く反対されました。それでも私は関係ないと、ずっと待ってる気でいましたが、月日が流れるのは、待ってると遅いもので、五年間が限界でした。寂しくて辛くて……。私、小林さんと結婚します。いつか瑠偉君が出所したら、またみんなで会いたいです。本当に大好きでした、ごめんなさい」

由真の手紙の最後には、僕と由真のお揃いの小銭入れの絵が、書いてありました。

僕の右目から、一粒の涙が流れた。それはけして、悲しいからではない。この10年間反省を重ねて、由真の本当の幸せも、考えれるようになったからだ。僕みたいな犯罪者と一緒にいて、由真の人生を壊したくないし、できれば好きな人が、出来てくれたらいいなと、刑期の途中から思うようになっていた。

僕がこの10年間頑張れたのは、由真が待っててくれると、初めに言ってくれたからだし、結果的にこうなってしまったが、それでも僕は、あなたに感謝しています。僕を好きになってくれてありがとう、由真と沖縄に行く事を、10年間夢見てました。支えになってくれてありがとうごさいました。小林と幸せになって下さい。

刑務所にお迎えに来てくれたのは両親だった。

「瑠偉お帰りなさい、お家帰ろう!あなたの好きな肉じゃが作ってあるわよ」

僕は白髪頭になった、親父とお母さんを見て、涙が溢れてきた。僕のせいでこんなに、老けさせてしまったんだな。親父もお母さんも今年で75歳になる。僕が刑務所にいる間に、不幸を聞かなくて、それだけは、本当に良かったと思っている。

そうじゃなくても、犯罪者の親、殺人者の親として10年間社会で両親は、苦しんだんだな。

これからは僕が、両親を守らなきゃいけない。

「瑠偉、家に帰る前に被害者の方のお墓に行くからね。私達がずっとあなたの代わりに謝罪してきたけど、あなたがちゃんとお墓の前で、手を合わせないと意味がないからね」

「分かってる。今まで俺のために何年も、お墓に手を合わせてくれてありがとう」

僕は被害者の方のお墓に着くと、真っ先にお墓の前で土下座した。

「僕の身勝手な理由で、命を奪ってしまって、本当に申し訳ありませんでした」

僕が泣きじゃくってると、親父が僕の肩を寄せて、抱きしめてくれた。

「やってしまった事は戻らないぞ。でもお前だけじゃなく、まだ俺達もいるから、家族3人で一生償っていこうな」

「親父今まで迷惑かけてすいませんでした。僕のせいで肩身の狭い思いさせてしまって、家まで売る事になって本当にごめんなさい……」

「ばか!お前は俺達の可愛い息子だからな!他人がなんて言おうが、俺達はお前の味方だ」

僕達家族は、10年ぶりに3人で、食卓を囲んだ。3人ともご飯を食べながら、笑ってるのか泣いてるのか分からないぐらい、顔がクシャクシャになっていた。

「瑠偉ケーキもあるわよ、ずっと誕生日も祝えなかったからね」

お母さんがケーキにロウソクをつけて、持ってきてくれた。

「お母さんありがとう。また涙が出てくるよ」

僕は10年ぶりに誕生日を祝ってもらい。泣きながらロウソクの火を吹いて、消しました。

もし、あの時少しずつでも借金を返済して、パチンコもやめてれば、こんな事にはならなかったのかな。

パチンコがしたい、でも彼女も欲しい。

僕が事件を起こした理由は、こんなくだらない事だったんだな。

(終わり)

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