020-BIN_KANルージュ

020 太田貴子「BIN・KANルージュ」(1983年)

作詞:岩里祐穂 作曲:亀井登志夫 編曲:岩本正樹

飯島真理が「マクロス」でリン・ミンメイの声優として成功して以降、アイドルが歌手と声優を兼ねるというデビュー戦略が生まれます。ほかには、宮里久美(「メガゾーン23: 時祭イヴ役)、小幡洋子(「魔法のスター マジカルエミ: 香月舞=エミ役)、志賀真理子(「魔法のアイドル パステルユーミ: 花園ユーミ役)などがよく知られていますが、太田貴子もそういった戦略でデビューしました。

スタジオぴえろの魔法少女シリーズの第1作目として放映された「魔法の天使 クリーミーマミ」は、キャラクターデザインを高田明美が担当し、今でも非常に高い人気を誇るアニメです。太田は、主人公、森沢優=マミの声優と、アイドル歌手であったマミが歌った歌を実際に歌い、オープニングテーマ曲であった「デリケートに好きして」でデビューします。活動初期のシングルは「マミ」関連の曲が多く、この「BIN・KANルージュ」も「マミ」の挿入歌(劇中で、マミがステージで歌う歌)でした。こういった曲は、普通ならサントラ盤に収録されて終わりなのですが、シングルA面になっているというのはなかなか珍しいかもしれません。

亀井登志夫が書いた楽曲は、まさにアイドルポップスの王道。アッパーな8ビートのリズムと適度なロック感のギターをフィーチャーした、エアプレイの変種的なもの。作詞家としてのキャリアをスタートさせたばかりの岩里祐穂(いわさきゆうこ)の歌詞も素晴らしく、これまたアイドルポップスの王道なキラキラしたワードを頻繁しながらも、
"2000年愛せるの"という岩里が得意とする超時空的なフレーズが既に登場している点は注目です。また、"デジタルの波サーフィンして"という(本人にはそのつもりはなかったでしょうが)インターネット時代を予見するかのようなフレーズは、あのウィリアム・ギブソンの名作「ニューロマンサー」(「攻殻機動隊」の発想元になったといわれるSF小説の名作)に1年先駆けているのは驚きです。

また、太田自身も、アイドルとはいいつつも、しっかり歌える素養を持った人なのですが、ここではアニメのキャラの延長として、いかにもアイドル風な甘ったれた歌い方に徹しており、この歌い分けも歌手としての技量を推し量る基準になるでしょう。

しょこたんこと中川翔子が「しょこたん☆かばー ~アニソンに恋をして。~」でこの曲を採り上げているのですが、"この曲に元気をもらったから生きてこれた"と岩里に告げたらしく(と岩里本人が言っていた)、しょこたんらしいオーバーな言い方のようでいて、実感がこもっているように感じられるのは、この曲にはアニメとアイドルという、しょこたんにとって理想的なエッセンスが詰まっているからなのかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?