大柳 貴

上智大学言語教育研究センター非常勤講師。フランス語教えてます。時々Liveで歌ってます。

大柳 貴

上智大学言語教育研究センター非常勤講師。フランス語教えてます。時々Liveで歌ってます。

最近の記事

フランス語由来の外来語

 新年度が始まり、各大学でも新1年生の授業が徐々に始まっています。私が担当する授業でも、既に1回目の授業を行いました。大学に入って初めて学ぶいわゆる「第2外国語」の授業なので、例年私の授業の1回目は「初めて学ぶフランス語」という導入の為の自作プリントを配布し、フランス語がどういう言葉なのか、その特徴やアウトラインを概説することに努めます。  私たちの周囲にある外来語、いわゆるカタカナ言葉の中に意外にもフランス語由来のものが多いと説明をすると、学生は一様に驚きます。外来語と

    • 「世界のオザワ」逝く

        世界的指揮者である小澤征爾さんの訃報が齎された。この10数年は体調を崩されることが多く、もうあのエネルギッシュな指揮ぶりを見ることは叶わないのかと危惧していた。事実入院、手術の報に続き、指揮のキャンセル・休演のニュースにも慣れてしまっていたし、松本のフェスティバルで同世代のシャルル・デュトワに代役を依頼して、そのデュトワが大曲を振り切ったのを見て、何とも言えない寂しさを感じてしまった。年齢的にも90に手が届くような歳を迎え、そうなる日が近いことは何となく覚悟はしていたが、

      • 「英語=国際化」?

         大阪府の吉村知事が、大阪公立大学の完全秋入学制と、授業での英語第1言語化を公表して物議を醸している。  第1の問題は、地方の1首長が公教育の内容に介入しようとしていることであろう。もし仮に吉村知事が、自分で私立大学を所有していて理事長などの地位にあるのであれば、いかなる教育内容に関する提言も自由に行えると思うのだが、いかんせん大阪公立大学は市立大学と府立大学を無理くり合併させて出来た公立大学である。各々その成立に歴史のあった別々の大学が、強引に合併させられ校名さえも奪われ

        • セラミックヒーター顛末記

           私が住んでいるのは賃貸マンションで、暖房器具は専ら備え付けのエアコンである。ただエアコンは部屋全体が温かくなるのに時間がかかるし、何より電気代が高額になる。そこでまでは電気ストーブを併用し、暖冬の時は電気ストーブだけでひと冬を乗り切ったこともあった。  使い続けた電気ストーブだが、4本あった石英管が使用開始から10年を超えた辺りから1本、また1本と切れて点かなくなり、ついに最後の1本を残すのみとなってしまった。これでは250w程度で、足元さえ十分に暖かくならない。

        フランス語由来の外来語

          1年の終わりに

            2023年を振り返って一番に思うことは、未曽有のパンデミックと思われた新型コロナウイルスによる所謂「コロナ禍」が、感染症第5類に分類されたことで一応の収束を見たことでした。   このコロナ禍によって抑制されたこと、目や耳を塞がれたこと、新たにしなければならなくなったこと、諦めなければならなかったこと、考えざるを得なくなったこと、気にしなければいけなくなったこと、口に出してはいけなくなったこと、耳を貸さなければならなくなったこと、、、そうした全てのことはおそらく多くの人に

          1年の終わりに

          追憶の洋食屋

           今から約半世紀前、新宿3丁目の要通りの片隅に「キッチンいこい」という洋食屋さんがあった。その店を見つけたのは本当に偶々のことだったのだが、カウンターとカウンター横のテーブル席から調理の行程が丸見えのオープンキッチンの明るい店内からは、洋食屋独特の美味しそうなソースの香りが店外にまで漂っていた。食品サンプルを見るとどれも旨そうな料理ばかりが並び、しかも値段も安い。何度かこの店の横を通る日を過ごした後、或る日ついに意を決して店のドアを押した。  入店して「さて何を頼もうか」

          追憶の洋食屋

          備忘録としての『シェルブールの雨傘』解題

           社会人講座で教材として取り上げたフランス映画『シェルブールの雨傘』(Les Parapluies de Cherbourg, 1964)には、監督であるジャック・ドゥミ(Jacques Demy)の様々な仕掛けがあり、一度見ただけでは気付かなかったこれらのギミックやオマージュに映画を見る度に気付き、初見から約半世紀を経た今日でもなお新たに気付かされることが多々ある。この項ではそれらの備忘録として、思いつくままに気付いた点を書き留めておこうと思う。 1) Jean C

          備忘録としての『シェルブールの雨傘』解題

          映画で学ぶフランス語

           今年度の日本獣医生命科学大学での社会人講座(2023.6/20~8/29)は、数年ぶりの「映画で学ぶフランス語」をやることにして、久々に『シェルブールの雨傘』(Les Parapluies de Cherbourg、1964)を取り上げた。この作品は私のフランス語学習の原点ともいえる作品で、映画館のみならず、ビデオ、DVDでの鑑賞回数をトータルしたら一体何回になるのか見当もつかないほど繰り返し見ては、見るたびに新たな発見をしてきた。音源だけに限っても、サウンドトラックで何度

          映画で学ぶフランス語

          誤用されたフランス語

          外国語が英語だけだった時代は過去のもの、今や様々な外国語がカタカナ言葉となって、商品名やお店の名前などに使われています。フランス語もその例に漏れず、テレビや雑誌などのメディアを通じて色々な言葉が広く知られるようになってきました…が、そのカタカナ言葉に若干問題があるのです。今日はそうした例をいくつかご紹介したいと思います。 ① ミルフィーユ? 最初はご存じミルフィーユ。ミルフィーユと言えば薄いパイ生地が何層にもなったサクサク触感のお菓子ですが、これは勿論フランス菓子なの

          誤用されたフランス語

          板書

           私が担当する授業のアンケートで「この授業で良かった点を自由に書いて下さい」という項目に、意外にも「板書がキレイで見やすかった」という意見が毎年数件あります。別段字が特別上手でもないし、どちらかと言うと早書きなんですが、何故か意図せずお褒めの言葉を頂きます。理由を考えるに、恐らく自分が学生の時に、どんな風にノートを取っていたのかが今の板書の評価に繋がっているような気はします。  私が授業する側として心掛けているのは、説明の順番をできるだけ前後させない事です。それは自分が学

          映画「怪物」を見て

           是枝裕和監督の「怪物」を見てきました。見た上で感じたこと、思うところを書いていこうと思いますが、これから作品を見る方には、内容についてネタバレになる可能性がありますので、具体的な記述は出来るだけ避けたいと思います。またこれはあくまでも私の個人的な映画を観た断片的感想ですから、それ以上でも以下でもないと思って頂ければ幸いです。誰でも映画を自由に論評する権利がありますし、一方的な見解の押しつけをする気もありません。同時に私に発言をさせないような異なる見解の押しつけも私は拒否しま

          映画「怪物」を見て

          授業雑感②~片付けられない人たち

            授業雑感①(https://note.com/takashi_oyanagi/n/n451d2fbf2120)で書いた通り、現代の教室には教卓周りに色々な危機が設定されています。勿論高校までの教室と同じように、ただ教卓と黒板があるだけの大学もありますが、大学によってはPCや書画カメラなどがセットアップされ、教卓には音声や映像を授業時に使うためのコントロールパネルがビルドインされているところもあります。大教室のマイクも、有線とワイヤレスが複数設定され、教卓にはワイヤレスマイ

          授業雑感②~片付けられない人たち

          授業雑感①

            私は大学でフランス語を教えている者ですが、教員生活を始めた頃と比べて、授業そのものの実施環境は著しく変わってきました。嘗ては授業用の音声教材はせいぜいテープで、授業の度にかなり重いテープレコーダーを借りに行くような状況でした。それはCDになり、一時MDになり、今や音声ファイルを再生するために、個々がノートPCを持ち込んでHDMIケーブルで教室に設置された機器に接続するようになりました。   同時に語学の授業では、音声だけでなく映像教材も徐々に増えてきて、こちらも最初の頃

          授業雑感①

          青梅散策

            ゴールデンウイーク真っ只中!しかも快晴で汗ばむほどの陽気なので、友人と待ち合わせて青梅まで足を延ばそうということになった。何故青梅かというと、昔の映画の手描き絵看板が町中に飾られていて、昭和の雰囲気が残った街だという情報を得ていたので、昭和レトロ好きとしてはここを一度訪れたいと前から思っていたのだ。   中央線で立川から分岐する青梅線。此処から先はこの年齢にして初めて訪れる未知の領域。個人的には立川から乗客が減って、地方ローカル線のようにのんびりとした車内を想像してい

          青梅散策

          不思議なパン屋

            そのパン屋は、私がここ15年ほど授業を担当させてもらっている某大学と、その最寄り駅の中間位の場所にある。パン屋と言ったのは、そのお店に大手パン会社の名前の入った看板が掲げられているからであり、実際にはそのお店にはもう何年も前から売るべき商品が何も置かれていない。ガラスのショーケースも、壁側の棚もすっからかんで、もう何年も置かれているであろう市販品のお菓子がわずかにショーケースの上に無造作に置かれているだけである。もはや賞味期限がいつ切れたのか分からないようなその商品を求め

          不思議なパン屋

          フランス語の敬称

            私の本業はフランス語教師で、現在都内3校の大学で非常勤講師をしています。通常新年度を迎えると、どこの大学でも初級のクラスは初めてフランス語を学ぶ新入学生を対象に開講されます。   初めて外国語を学ぶ時、何から始めるかは教材や教員によって異なります。アルファベットの読み方や、文字と音の関係から始める場合もあるし、挨拶などの簡単な会話から始める場合もあります。それは大学の方針にもよりますし、選ぶ教材や学生の能力によっても異なるのです。一般論で言えば最近は会話重視の学校が多

          フランス語の敬称