日本料理の歴史~高須賀の美食入門~

 日本料理の歴史~概略図~

当たり前ですが日本料理は初めから今のような形をしていたわけではありません。現在の形に至るまでの間、様々な文化からの影響をうけており日本料理とは何なのかを一筋縄に理解するのは非常に難しい。なので今回は初めに概略図を付記する事にしました。上の図と下の文章を対比させつつ、ゆっくりと読んでいって下さい。

・日本最古の料理

日本最古の料理が何かご存じでしょうか?それは「なます」だと言われています(高橋氏文(789年)初出)

「なます」はもともと中国で生まれた料理で、細切りにした生肉や生魚の総称だったようです。中国の人々はこれを別皿に入った調味料につけて食べていたようです。始めの頃は日本でも「なます」は中国の方式にならって別皿に入れられた調味料で各人の好きなように味付けして食べていたようですが、そのうちあらかじめ酢や酒であえてから提供されるようになりました。

そして600年ほど時が経過した後、「なます」のスタイルに再び変化がみられるようになりました。まず形が「細切り」から「薄切り」になり、調味料も生姜酢や辛子酢などが使用されるようになりました。食べ方も、マリネのようにあえる方法から別皿に載せられた調味料をちょんちょんと付ける方式へと戻ることとなります。そして呼び名も「なます」から「刺身」へと変化します。(「刺身」の文献上の初出は鈴鹿家記(1399年))

「刺身」が現在のような形になるまでは醤油の登場を待たねばいけませんでした。醤油が日本の歴史上に姿を表したのは1600年頃だとされています。現在のような醤油に近いものが出てきたのは1640年頃で、その後大量生産の技術が確立してから一気に庶民の間にも出回るようになりました。ここにきてようやく醤油と生の魚介類との絶妙なる出会いの準備が整い、「刺身」に醤油が使われるようになりました。現在でもこの流れは続いています。

こうして「なます」から「刺身」に至るまでの流れを見ると、いっけん調味料が重要そうにみえますが、本当に大切にされてきたのは「切る技術」です。例えば同じ魚の身を使って「刺身」を作るにしても、厚く切るのか薄く切るのか、四角く切るのか細長く切るのか等、切り方一つで随分と食感に変化をつけることが可能であり、料理自体の味に随分と変化が生じます。

フランス料理では、肉と魚の火を入れる係とソースを作る係がレストランにおける花形職だと言われています。同じ素材が使われていても、誰が「火入れ」と「ソース」を行うかで劇的に味に変化が生じるからです。日本料理の世界では板前が花形職とされていますが、この事を理解すればその理由もわかるというものです。徳島・青柳の小山裕久氏は「切ることが調理である」という名言を残されていますが、まさに「切る」は日本料理の一つのアイデンティティと言えるでしょう。

このような歴史的背景もあいまって「刺身」は日本料理の献立上で非常に重要な位置づけをされており、日本料理のメインとして扱われています。日本料理はフレンチやイタリアンと違ってどの皿がメイン料理なのかイマイチわかりにくいですが、形式上では「刺身」がメインに相当します。普段何気なく食べている「刺身」ですが、ここまで奥深かい歴史があるのです。

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