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祈り岩のこと

「狩猟採集時代には人類は森に住んでいた。森に住んでいた人類が、一番初めに感じたことは自然の力の偉大さです。そういう自然を神とした。太陽も神であり、地球も神である。山も川も植物も動物も、みな神である。そういう神に祈りを捧げて、そして神々が自分たちの生活を護ってくれることを願った。」

梅原猛『[森の思想]が人類を救う』小学館 p.227 l.14 ~ p.228. l.5


博物館がある長者の里キャンプ場には、「祈り岩」と呼ばれる高さ2m、幅2mあまりの大きな岩がある。

その場所は「ドクジ」「ロクジ」と呼ばれ、古くは「立ち入ってはいけない場所」として認識されていた。
また、「独自ババ」という昔話が残っている。

この大岩を「これは磐座ですね。ちょうど割れ目が南北です。人為的ですね。」と仰る方もいれば
「土石流で流れてきた”ただの”大きな岩ですよ。自然に割れますよ」と仰る方もみえる。


初めてこの岩の存在を知った時、
私は血眼になって、この岩が”ただの”岩ではなく、”祈りの岩だったという証拠を見つけようとした。可笑しなくらい必死になって。
三年前の自分がちょっと懐かしい。

でも、今は違う気持ちである。

どちらの意見が正しいかは問題ではないのだ。

この岩を祈るべき岩だと感じた方は祈ってもいいだろうし、
ただの岩だと感じた方は無機物としての岩として観察すればいい。


ただ、一つだけ。

この岩がある場所が古くから「ドクジ」「ロクジ」と呼ばれており、「独自ババ」という伝承が残っているということ。

それだけは、紛れもない事実であることを、私は伝えていけばいいのだ。

それがきっと、名ばかりではあるが学芸員としての大事な仕事の一つではないだろうか。
今、私はそんなふうに思っている。

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