見出し画像

〔寄稿─“26kgの私に見せたかったもの”開催にあたって〕


「死」の間際を経て、今、撮影モデルとして強く「生」きているmayaさんへ


(※展示会で配布される解説を転載、再編集してます)

摂食障害(拒食症)で死の間際まで行った経験があり、現在も治療中の撮影モデルがいる!?━私がInstagramでmayaさんのことを知り、フォローをしたのが2021年6月。そこから「撮影モデル/摂食障害の患者」と「週末&アフター5フォトグラファー/心の専門家」の不思議な交流が始まりました。その後mayaさんは、全国のプロ・アマから依頼が来る人気撮影モデルになり、さらに写真集の制作、そして今回の展示会開催----mayaさんの行動力には驚かされることばかりです。

ところで、現在、科学や医学の発展により治療法が進化し、身体については「死に至る病」というのはかなり少なくなっています。しかし一方で、うつ病などの心の不調・病気は死に至る可能性について注意をする必要があり、軽視するのは適切ではありません。例えば、うつ病患者の自死リスクはそうでない人の100倍あります。さらに拒食症は、栄養失調による衰弱・不整脈・感染症、自死などにより患者の6~20%が亡くなっているという、心の不調・病気の中でも「死に至る」可能性がかなり高いものです。展示会のタイトルにも入っている26kg----一時期体重が26kgまで落ちたmayaさんが生きているのは奇跡的と言えるでしょう。

拒食症の背景としては、遺伝的要因、養育環境、心的外傷体験、対人関係、性格傾向、ストレス、ボディ・イメージの歪み、文化・社会的要因(「細い女性の方が魅力的」とする風潮など。日本では1980年代以降拒食症の患者が急増)、他の心の不調・病気や発達障害との併存など様々なものがあり、ケースバイケースです(詳しくは知りませんが、mayaさんにも色々あったのだと思います)。そのため治療法としても、投薬治療だけでなく心理・社会的アプローチ(カウンセリング、環境調整、生活支援、心理教育・家族教育など)が行われますし、状態が悪い場合は入院治療による栄養療法も行われます。ただ、体重が増えることを恐れ、患者が治療・支援に対し拒否的になることもある点で、対応が難しい病気と言えます。

さて、mayaさんが撮影モデルをすることに対しては、精神科医や心理職といった専門家の中でも賛否が分かれると思います。再発リスクを懸念して反対する方が多いかもしれません。一方で、mayaさんは撮影モデルをする中で拒食症に陥ったのではなく、拒食症からの回復の過程で「前からやってみたい」と思っていた撮影モデルを始めたというレアなケースで、おまけにその結果少しずつ食事量・回数が増えている----私も含め、興味関心を持つ専門家も少なからずいると思います。もちろん、他の患者に撮影モデルをすることをオススメはできません。厳密に言えば、mayaさんはモデル活動をしたことではなく、食べることや治療以外のことに目を向け、自分の楽しみを見つけ、やりたいことをやって、生活や人生を取り戻して豊かにしていったことが回復にプラスに働いた、ということになります。その点で、私としてはmayaさんのモデル活動を肯定的に捉えています。

展示会のサブタイトルにもある「摂食障害と共に生きる私がつかんだ幸せ」は、撮影モデルをきっかけにして得たものであり、それゆえにmayaさんの撮影にかける情熱は凄まじいものがあります。「撮影モデルをすることは生きること」ぐらいの勢いを感じます。今回展示される作品らには様々なmayaさんが描かれていますが、いずれにしても彼女の生きざまや情念を感じ取れるものになっていると思います。

この展示を機会に、摂食障害、心の不調・病気についても興味や理解を深めてもらえれば幸いです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?