084 まとめることについて
東京へ向かう新幹線は前日の予想通り、積雪によって徐行運転をしている。
さきほど到着時間が1時間の遅れる予定だと社内アナウンスがあったが、1時間早い電車に振り替えていたので、僕に焦る気持ちはない。
ただ、電波の悪い新幹線では1時間がいつも以上に長く感じる。
あぁ、お弁当を買って乗ればよかったな。
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今日のことなんて、記憶の中では「あの日の新幹線は遅く東京が遠かった」程度にしか残らないのだろうし、こうして記録していなければ忘れてしまう日常だろう。
記憶なんてそんなもんだ。
どれだけ心が動いても、すべての記憶が残せるわけじゃないんだから。
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僕たちは、有り余る種々雑多な感情を、ありきたりな言葉でまとめる癖がある。
「あの映画どうだった?」
「むっちゃ泣けた」
「あの人ってどういう人?」
「自分勝手な自由人」
実際は、あの映画の中にはクスッと笑えるシーンが散りばめられていたし、
自分勝手なあの人なんて、普段は介護士として他人の為にがんばっているのに。
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僕は今、1時間遅れの電車の中で、忘れゆく記憶を綴っている。
旅行者の大きなスーツケースを棚にあげて感謝されたことへの嬉しさ。
豪雪の中,雪かきをする人の美しさ。
雪が降り続く中、ランニングシャツで歩くおじさんを見た驚き。
名古屋駅で雪おろしをするというアナウンスを聞いて、次の乗り換えに間に合わないかもという不安。
不安を駆り立てたくせに、雪おろしが1分で終わったことへの安堵感。
お腹が減っているのに、後の予定を考えるとランチを食べる時間すらない物悲しさ。
雪から一転、いつも以上に澄んだ空気の中に聳える富士山の山容。
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僕たちの気持ちの複雑さからすれば、記憶を端的にまとめようとすること自体が勿体無いのかもしれない。
誰かに向けた「好き」という感情も、仕事に対する「やりがい」も、ありきたりな言葉の定型句にするから自分の物語が小さくなる。
まとまらない気持ちが僕だし、あなたなんだから。
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-もの-
LAMY safari 万年筆
字が汚いくせに、学生時代に「万年筆ってかっこいい」と憧れて、見た目だけで選んだ黄色いLAMY。かれこれ20年は使っているけど、今でもLAMYを見るとかっこいいって素直に思える。
日記帳にその日のあれこれを綴ることをやめて5-6年が経つ。
代わりにSNSのストーリーが日記のようにアーカイブされているけど
そこにある僕は楽しそうなだけで、揺れ動いく気持ちは残っていない。
いや、素直な気持ちを残すこと自体、今の僕にはちょっと怖いかも。
まぁええか、まとめたら毎日楽しいだけやし、それでもええか。
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