真琴vsゆづき #10〜うつくしい世界〜 終
14分32秒
ゆづき選手はとうとうマットに沈んだ
しばらく大の字で天井を見上げていた
そしてこの時間だけは無を感じていた様に見えた
一方、真琴選手は一度猫の様に体を丸めてからサッと立ち上がり勝ち名乗りを受けていたのが対象的で勝者と敗者の明暗を浮き彫りにしていた
這うように青コーナーのコーナポスト前に座り込む
歩み寄る真琴選手
二人の目が合った
そして道場で毎回行われているであろう
座礼で真琴選手に敬意を表した
この時のゆづき選手の気持ちは自分なんかにわかるはずなどない
ただ感謝の気持ちや尊敬・畏怖の念だけだったのだろうか?
三田さん対決と言われたこの試合
もう一つの裏テーマをゆづき選手自身で発信しているのは#5で書き記している
そう「元カノ」
プロレスに出会う前からインフルエンサーとしても有名であったゆづき選手
自身の著書やSNS、様々なメディアで「元カノ」の事は語られている
恋愛模様というのは十人十色いや億人億色だと思う
他人が興味本位でとやかく言うことではないのだが「元カノには未練はない」と発言してる時点である程度は昇華されていて花言葉が指す「悲しい思い出」ではないと思われる
が、未練はなくとも同じ名前で似た容姿の人間が目の前に現れた時にどうしても「思い出」と対峙してしまう
そういうモノではないだろうか
真琴選手との対戦は恋していた時の自分との「再会」だったかもしれない
だがその時の思いが完全に昇華されたとすればゆづき選手は更に強くなれたのだと思う
その座礼に応え健闘を讃えて握手をし肩をポンッと叩き、、、
と、書きたいところだが!!
一度周りを見渡し「フンッ」と首を振ってそのまま踵を返しリングを降りていった
プロレス界の常識に囚われず不可能を可能に近づけてきた
一度受けた仕事は完遂する
そんな自身のプライドを鼻にかかるように見えるやり方ではなく
気まぐれな猫の様などこか憎めない
最高にキュートな方法で魅せてくれた
そして一人残され少し唖然とした表情のゆづき選手の方を振り向き
真っ直ぐ指を指した
凄まじくクールでチャーミングな仕草でネクストをゆづき選手そして観客に提示してくれた
よくやったという拍手の中ゆづき選手もゆっくりリングを降り退場していく
その背中が遠くなるにつれ
ふわふわとした白昼夢の世界から現実に引き戻される感覚になっていった
真琴vsゆづきは現実に行われ
プロレス史に刻まれた
そして自分は余韻に浸りながらタバコを咥えた
試合は終わった
だが、ゆづき選手が言う
「うつくしい世界」とは?
それは本人が語る通り
「私が私でいること」であり
それが「私の世界」なのだと思う
有名になればなるほど最初に提示してしまった世界をいつまでも求められてしまい自分自身が知らぬ間に雁字搦めにされてしまう
だがプロレスは何でもありだ
喜怒哀楽全てを許容し
喜怒哀楽全てを解放してくれる
幻の都の住人の様な彼女もきっと私であり
コロコロ笑うゆづきちゃんも私なはず
そして汗水流しメイクがボロボロになって顔が腫れ上がっても立ち向かっていくゆづき選手も私だ
私が私でいれる場所
それが
「うつくしい私の世界」
そしてそこには旗揚げ戦の様な会場全ての人が感じ取れる多幸感も存在するのだろう
そう解釈させていただいた
彼女の胸に咲く
燃え盛るような真っ赤で美しい花弁
そしてその根には毒を有する
「彼岸花」
耽美でキュート、力強くてちょっぴり悪い
真夏に咲いた
「ゆづき」
という花
花言葉は「情熱」「私が私でいる」
そして「うつくしい」
うつくしい私の世界へ
ようこそ
END
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