見出し画像

渡米34日目 それはツールであってルールではない!?

怒涛の1週間が過ぎていった。毎回何かにつけて”怒涛”という表現を使っている節もあるが、今週はまさにブログの更新ができないほどの怒涛だった。1週間が過ぎるのがあまりに早い。日々次の課題に向けての〆切があり、加えて大事にしたい家族の時間や映画を見るための時間があり、気がつけばあっとゆう間に次の週末を迎えている。事実、この月曜日の記録は5日後の土曜日に書いている。この忙しさはまだまだこれから速度を増していくことだろう。

今日は朝からやはり冷たい雨が降っている。今週に入って気温が一気に下がり朝は10度前後と肌寒い。毎週月曜日の脚本クラスも今日で第三週目だ。

「 Tools, not Rules」

現役の脚本家、小説家、映画監督でもあるオーエンは様々な知識や経験を貴重な4時間の講義を通じて与えてくれるが、口が酸っぱくなるほど彼が口にするフレーズがこれだ。

「私が教えているのは、ツールであって、ルールではない」

相反する二つの言葉が韻を踏んでいてとても耳に残る。今日の講義では、映画の脚本を描くうえでエンディングがいかに大切か、その重要性を様々な映画の名シーンを紹介しながら話してくれた。その中で彼が何度も口にするのは、「私があなたたちに授けようとしているのは、作家として生きてしていく上での武器であって、法則ではない」という格言だ。

「Unthinkable Third」(想像も及ばない第三のエンディング)

いかなる映画でも主人公は映画のエンディングに向かう中で、勝つか負けるか、生きるか死ぬか、結ばれるか別れるか、究極の選択を迫られる。その中で、その二者択一ではない、第三のエンディングを考えられるか。「実際に話のエンディングを考えてみて欲しい」と次のような課題が出た。

「あるお婆さんがどうしても道路の向かい側にあるクッキー屋さんのクッキーを食べたくて、大通りを横断し始めたところ、車に跳ね飛ばされそうになったり、はたまた動物園から脱走してきた象やキリン、ライオンに襲われそうになり、墜落した飛行機の事故さえも掻い潜りながら、ようやく道路の向かい側にあるクッキー屋さんに辿り着きます。その後、あなたは作家としてどのようなエンディングを思い描きますか?」

5分の時間が与えられた。僕が発表したのは、次のようなエンディングだった。

「おばあさんがクッキーを食べると、おばあさんに羽が生えて天国へと向かい始める。彼女はすでに最初に道路を横断し始めた時点で、猛スピードで走ってきたクルマに撥ねられて死んでいたのですが、それでもクッキーが食べたくて魂だけが生き延び、猛獣の突進をすり抜け、飛行機事故まで掻い潜り、クッキーに辿り着きます。そしてクッキーを食べた瞬間に、魂は解放され、天国に向かい始めます。眼下には、車に撥ねられて倒れている自分の姿が見え、人だかりができたその場所からまるで風船が空に向かうように、遠ざかっていきます。」

この課題に正解や不正解はなく、誰もがクリエイティブなアイデアをそれぞれに口にする。僕たちが育んでいるものはまさに想像力であり、それをいかに作家として武器にしていくか、そのものだ。そしてそこに、成功法則に近いセオリーはあったとしても、それはあくまで僕たちのツールであり、縛られるべきルールは存在しない。

そして、オーエン教授は、限られた時間の中でもできるだけ多くの映画を見せようと、知られざる短編映画の名作(あるいは僕が知らずにいただけかもしれないが・・・)や今日の講義を象徴する映画のワンシーンを見せてくれる。今日クラスで紹介された「No Bikini」「Are You Still There?」はともに15分以下の作品だが、後者はイラン人の女性監督として初めてオスカーを受賞したRayka Zehtabchiが手がけた短編映画の名作だ。米国では、短編映画で評価を得た後に、長編映画の作品を手がけるチャンスを獲得するという流れが根強くあり、僕たちのようにフィルムスクールで学ぶ学生は、プロへの登竜門として短編映画で評価を得ることを狙う。このクラスのゴールの一つはそこにあると言っても過言ではないかもしれない。

そして最後は、コーエン兄弟の処女作「ブラッド・シンプル」の名場面を鑑賞する機会を与えてくれた。僕にはまだまだ観ていない映画がたくさんあることに気付かされる。、もっと映画を見なければと思う。インプットとアウトプットのための時間をいかに確保するか・・・、

気がつけばこちらにきて初めて、今日は一枚も写真を撮っていなかったことに気がついた。それはもはや見るもの全てが新しく見えた時期を通り過ぎて、今ここにある時間が日常そのものになってしまったことを表している一つの象徴的な出来事のようにも思えた。

Day20230925月+5D1655-1948-2024

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?