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教#042|ピカソの作品が解らないと云うお題目のような通説~ブルーピリオドを読んで⑬~(たかやんnote)

 八虎は、ピカソの絵は解らないと言ってました。中学校の教科書にキュビズムのデビュー作の「アヴィニョンの娘たち」が、掲載されていて、あと美術室に「ゲルニカ」のレプリカが、飾ってあって、ピカソの作品を、この二つしか知らなかったら、取り敢えず、ピカソは、解らないってことになるのかもしれません。

 私も、「アヴィニョンの娘たち」は、どこがいいのか、解りません。この絵が、好きか嫌いかと言えば、嫌いってことは別にないんですが、特に好きではありません。「ゲルニカ」は、解ります。何が描かれているのかも、まあ普通に見れば、誰でも解ると思います。中空に描かれている牛と馬の首が、ファシズムの象徴だろうと云う想像もつきます。モノトーンの暗い色調も、戦争の悲惨を伝えています。ジョンレノンの「Imagine」が平和の曲であることが、all over the worldの方に解るように、「ゲルニカ」が戦争の絵であることは、大人でも小さな子供でも、誰でも解ります。ピカソが解らないと云う世の中の通念に乗っかってしまって、つい解らないと言ってしまうんだろうと思います。

 ゲルニカ同様、誰でも解るピカソの作品は、沢山あります。ピカソが、息子のポールを描いた絵があります。ポールは、アルルカン(イタリアの道化師?)に扮しています。ポールは、尊敬しているポールセザンヌの名前から取りました。この絵は、とびっきり可愛い男の子の絵です。この絵の可愛さが解らない人はいません。高校生くらいの男子ですと、小学生くらいの生意気なガキんちょが大嫌いと云う人も、結構、いると思います。私も、小さな子供は、嫌いでした。ですが、高校時代に、ピカソのポールの絵を見て、素直に可愛いと思いました。子供って、やっぱり可愛いんです。その普遍的な可愛さが、表現されています。

 この作品が描かれたのは1924年で、いわゆるピカソの「新古典主義」の時代です。ピカソは、とんでもなく絵の上手な画家です。14、5歳くらいのピカソの絵は、超絶上手く、まさに天才でした。絵は、上手さで勝負するものではないと、天才だけに早々と悟っていたんだと思います。自分らしい作品を目指して、出した答えのひとつが「アヴィニョンの娘たち」なんです。

 ブリジストン美術館(あっ、今は名前が変わっています)に新古典主義時代の作品があります。サルタンバンクが、腕を組んで座っている絵です。古代ギリシアの青年が、現代に甦ったようなイケメンです。道化を演じる旅芸人とは思えない理知的な奥深さが、表情にあふれています。この絵も、普通に解る作品です。

 ブリジストンには、もう一枚、新古典主義時代の作品があります。恋人のオルガを描いたやはり、ギリシアの石膏像のような肖像画です。古代彫刻のような存在感を追求しようとして、ピカソは、絵の具に砂を混ぜて描いています。左頬とか首筋の陰のつけ方も、リアルです。今はどうなのか解りませんが、ブリジストンは、ギャラリーが明るくて、絵が見易い美術館でした。

 美術館で本物を見ると、絵は二次元ではなく三次元だと納得できます。画集も私に言わせると、三次元です。完全な二次元は、パソコンの画面です。私は紙ベースじゃないと本は読めませんが、それは、完全な二次元には、適応できてないからです。

 日本人が大好きなブルーピリオド、青の時代の作品も解り易いと思います。青の時代の一番著名な作品は、クリーヴランド美術館にある「La Vie(人生)」です。この作品は、失恋して自殺騒ぎを起こした、バルセロナ時代の親友のカサヘマスを描いています。カサヘマスの恋が成就していれば、こんな風になっていただろうと、想像して描いた反実仮想的な寓意画です。男女の愛、母性愛、家族愛。この頃、まだ20代の前半だったピカソは、そういう普通の幸せは、寓意画でしか表現できなかったのかもしれません。

 私が個人的に好きな「青の時代」の作品は、ギターを弾いている(指の形状から判断すると弾いてませんが)爺さんの絵と、盲人が食事をしている絵です。どちらも好きです。青の色調は、ギターの爺さんの方は、背後に窓があるだけに、多少、暗さがやわらいでいる感じもします。テーマとしては、盲人の絵の方が好きです。私は、耳はいい方ですが(65歳にしては聞こえている方だと思います)目は昔から悪くて、少し離れると、人の顔はぼやけてしまいます。教室で、顔がはっきり認識できるのは、2列目までの生徒だけです。一番後ろの席の生徒が、机にうずくまっていると、バッグなのか頭なのか判別できません。どっちが先に劣化するかと云うと、多分、目の方です(目が悪くなったのは、中1から通っているライブハウスの照明が、一番の原因だろうと推測しています。パソコンが原因ではありません)。

 ですから、盲人の食事の方が、リアリティがあります。感情移入もできます。この盲人はベレー帽を被って、首にブルーのネッカチーフを巻いています。で、右手は水差しをつかもうとしています。水差しにはワインが入っていると解説書には書かれていますが、水でも別に構わないと云う気はします(多分、ワインの方が水より安いんです)。左手にはパンを持っています。私は、昔から粗食でした。子供の頃は、一汁一菜でした。母親は、焼き魚とか煮魚と云った魚料理を作ってくれたので、本当は一汁二菜だったんですが、私が魚料理を食べないので、一汁一菜になってしまったんです。ですから、野菜の煮物とご飯と味噌汁です。今も、子供時代と、さして変わってません。みそ汁は、飲まなくなったので、野菜の煮物とおかゆです。たまに生野菜を食べます。パンは、基本、食べませんが、そういう状況に置かれたら、普通に食べます。パンと水だけの粗食で過ごす。自分自身の老後を照らし合わせても、リアルです。青の色調は暗いんですが、顔にはハイライトが当たっています。左手のパンもちょっと明るい感じです。全体の基調が暗くても、どっか一部分が明るければ、万事OKかなと云う気もします。

 青の時代の次に、ばら色の時代が来ます。アルルカンやサーカスの人達を、オークルルージュの主調色で描いています。ばら色の時代の絵も、誰が見ても普通に解ります。1906年にガートルードスタインの肖像を描いています。この著名なアメリカ人女流作家の作品を、一作も読んでなくても、ピカソの肖像画を見れば、ガートルードスタインの人間性については、directに解ります。

 ピカソの作品が解らないと云うお題目のような通説を、さておいて、虚心坦懐に絵を見れば、半分以上は、普通に解ると思います。



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