見出し画像

心の傷は癒されなくてもいい

FacebookやTwitterなどのSNSを見ていると、苦労の克服話が多い。

うつから立ち直った!
貧乏だったけど今では年収1億円以上!


のような話が目立つ。私もうつから立ち直ったくちなので同類かもしれないけど。

そういう物語がテレビ・ネット上に氾濫しているので、苦労や悲しみ、心の傷などは克服するもの、しなければならないものだとかつては認識していましたが、その態度に疑問を持つに至った。


心の傷はいちいち癒される必要はない

先日、Amazon Primeビデオでこの映画を鑑賞。

明るく普通に幸せな家庭を襲った悲劇。自分がほんの少し外出をしていた隙に、暖炉にスクリーンをしていなかったことが原因で火が部屋に飛んでしまい、家が全焼。当時留守番をしていた二人の娘が犠牲に…という、ちょっとした不注意で起こってしまった事故により、心に決して癒えることのないトラウマを抱えることになった主人公。

そんな彼は以後、心を閉ざしながらも、ギリギリ社会との接点を保ちながらなんとか生活している日々。

そんな折、主人公の兄がなくなり、兄の息子である甥っ子の面倒を見なければならなくなった...そんな話。


頻繁に何の前触れもなく今と回想シーンが交錯するので、一回観ただけではなんだかよくわからず途中からようやく今と回想シーンの区別がつくようになる。

そんなわかりづらい撮り方をしたのは、主人公の混乱している精神を表現するためか。


この映画はありがちなハッピーエンドではないし、主人公の心の傷が癒えたわけでもないのだけど、物語の終盤で主人公が甥っ子に

「乗り越えられない...つらすぎる...」

と言った場面でふと気づかされた。


「(ああぁ そっか、傷はいちいち癒される必要はないんだ...)」


物事がなかなか前に進まないとき、何かと人は過去のせい、古傷が癒えていないせいにしがちなのだけど、ひどい身体の傷や障害がずっと残りの人生にもついて回るのと同じで

心の傷にだって癒えることなくずっと無くならないものだってたくさんある。

心の傷は全部向き合ってブロック外して乗り越えていけるなんてのは幻想でしかなく、そのまま抱えながら生きていくしかないのかもしれない。

辛いのは”癒されなければならない”と思うから

心の傷が辛いのは、癒えない辛さよりも、もしかしたら

「癒さなきゃいけない」
「癒されなければならない」

と思い込んでいる辛さかもしれないから


癒そうと頑張るよりも、この映画の主人公と同じように「乗り越えられない」と認めてしまって、


「もうこういう人生なんだろうなぁ」


と諦めることが何よりの癒しになることもあるかも。


むしろ癒されたいと思わなくなってからの方が逆に再生が進んでいく可能性もある。


かなり重いテーマの映画だけど、僕は癒しと再生を描いている良作として観ています。何回でも観れる。

オススメです。

生きていると悲しいことがたくさんある。

僕自身にも長い年月を経ても癒されていない心の傷がいくつかあるせいか、この映画は深く刺さった。この映画を見た後に心の古傷の一部にかさぶたが出来ていくような感覚を覚えた。

「乗り越える」という美談がメディアで多く取り上げられてきたせいか、本来の姿を見ることなく生きてきた結果、何でも頑張れば乗り越えられるという幻想が蔓延してしまったのが、現代人の苦しみなのかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?