なぜ「売れそうですね!」は危険ワードなのか?

 本ができあがって、営業のみんなやまわりの人に見せていると「売れそうですね」と言われることがある。

「売れそうですね」

 うれしい言葉だけれど、気をつけないといけない言葉でもあると思う。それは「売れそうですね」のあとに「自分は買わないけど」が潜んでいることがあるからだ。

 試しに「買いたいですか?」と聞いてみると、答えに窮するような反応を見せる人もわりといる。(「買いますよ!」もおべっかだったりするので注意。そりゃ編集者本人に「買いません」とは言いづらいよね……。)

「売れそうですね」の心理分析

「売れそうですね」発言の心理を分析してみると、2つの要因が考えられる。

1)自分がターゲットではないけど誰かが買いそう
「私は買わないけど、◯◯さんなら興味もってくれそう」「私は太ってないからいいけど、ダイエット本なら◯◯さんが買うはず」という、自分以外の誰かが買いそうだから「売れそうですね」と言うパターン。

2)すでに似たようなものが売れているから
『秒速で成功するためのお金の法則』『健康になるなら肉を食べなさい』などまさに「売れそう」「ありそう」なタイトルだった場合。もしくは、有名な著者の本だった場合。この場合の「売れそうですね」は「前例があるから」「予定調和な商品だから」というパターンだ。

 ちょっと性格の悪い分析になってしまったけれど、それくらい作り手側は「その商品が本当にお金を出してでも欲しいと思われるものなのか」を精査しないといけない時代なんだと思う。

「売れそうですね」は危険なワードだとすれば、どういうワードがいいのだろう? それは、

「俺、買います」「私、欲しいです」

 である。売れるかどうかはよくわからないけど、「自分は欲しい!」「いますぐにでもお金を出して買いたい!」という反応があった場合はヒットの脈アリだと思う。

「それ、売れなさそうですね」で終わってしまっては悲しいが「売れなさそうだけど、俺なら買いますよ」だとなかなかいい反応だし、作り手としてもうれしい。

「売れなさそう」と思われていた『嫌われる勇気』

 ぼくの知る限り、『嫌われる勇気』は当初ぜんぜん「売れそう」と思われていなかった。社内での前評判も特にいいわけではなかった。

「好かれたい人が多いのに、嫌われることを勧める本なんて……」という意見のほうが多かったように思うし、恥ずかしながらぼくもそう思っていた。タイトルも異質だし、カバーデザインも造本も普通じゃない!

 しかし、いざ書店に並ぶと口コミと評判でじわじわと売れていき、ついに100万部を超えたのはご存知のとおりだ。誰も「売れそう」と思っていなくても、書店に並ぶと「買おう!」と思った人がこんなにもいた、というのは衝撃だった。

 著者である岸見先生、古賀さんのコンテンツが素晴らしかったのは言うまでもないことだが、『嫌われる勇気』というタイトルを選んだ編集者の柿内さん、異質だけれど本質を突いたデザイナーの吉岡さん。「売れそう」ではなく「これを必要としている」「必要とされるはずだ」というチーム全員の確信と覚悟が、あれだけのヒットを生んだのだろう。

「自分が買わない本」を作らないように

「売れそうですね」と聞いてぬか喜びしないこと。できれば「俺、買います」を引き出したいこと。

 そして、なにより大前提として、

「売れそうなものをつくりました。自分は買わないけど」

 をやらないことが大切なのだと思う。

「ところで、あなたは、それを買うんですか? 買ってでも読みたいですか?」は常に自分に問いかけておきたい。

 モノが売れないと言われてずいぶん経つ。これまで以上に「本音」のものづくりが問われているんだと思う。あたりまえだが、消費者はいつだって「本音」だ。「建て前」でお金を払ってくれるような人は一人もいない。

 出版社の編集者の多くは、資料として本を「経費」で買うことができる。ぼくは最近、本を経費で買うのをやめている。すると、とたんに買う本の量が減った。「本当に自分がお金を出してでも欲しい本」は、こんなにも少なかったのかと驚いた。

「本気で自分が欲しいと思う本」「本気で欲しいと思ってもらえる本」をつくりたい。「売れそうですね」じゃなくて「ああ!それ欲しかったです!!!」と言われるような本を。

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