乳がんを知る:健康未来EXPO 2019から学んだこと その03 第02版

詳細は、PDFファイル「乳がんを知る 第02版」を参照してください。

2019年04月05日、私は一般客として健康未来EXPO 2019(以下EXPO 2019)に参加し、ブース「臨床検査技師コーナー」(以下同ブース)を見学した(1)。

同ブースで、愛知県臨床検査技師会(以下同技師会)と臨床検査振興協議会は体験プログラム「乳がんに触れてみよう」(以下同プログラム)を通じて、乳がん検診の重要性を啓発した(2)。 

同ブースで、がん細胞と細胞診断するための基準が紹介された(図01)。
こうした基準には、核の異常(核/細胞質比の増大、核形不整、クロマチンの増量、核小体肥大)と細胞集塊の異常(不整重積、核間距離不均一、細胞配列の乱れ、細胞集塊のほつれ)がある。
また、子宮頸部の正常扁平上皮細胞と扁平上皮癌の写真、ならびに、乳腺の正常乳管上皮細胞と乳管がんの写真も紹介された。

01.がん細胞

図01.がん細胞と細胞診断するための基準。

同ブースで、乳がん細胞が展示された(図02)。

02.乳がん細胞 400倍

図02.乳がん細胞 400倍。

同ブースで、乳がん触診モデルが展示され、かつ、その中のしこりが図示された(図03)。

03a.乳がん触診モデル

a.乳がん触診モデル。 

03b.乳腺内のしこり

b.乳腺内のしこりが解りますか?。
図03.乳がん触診モデル。

ここで、乳がんに関する正確な情報を提供する文献・サイトも以下に紹介する。

1.乳がん全般
1. 岩田広治 総監修.乳がん:納得のいく治療を選ぶために.第1刷,株式会社NHK出版,2013年10月25日,96 p,(別冊NHKきょうの健康).
乳がんの基礎知識、検査と診断、治療、ならびに、治療の不安や悩みの対処法、並びに、乳房再建が詳細かつ簡潔に記載されている。また、公的医療保険の制度と医療費控除に関しても同様である。
2. 国立研究開発法人 国立がん研究センター.“乳がん(にゅうがん)”.がん情報サービス ホームページ.病名から探す.2021年07月01日.https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/index.html,(参照2021年09月25日).
乳がんの基礎知識、診療の流れ、治療、ならびに、生活と療養等が記載されている。乳がんを知るためには、最初にこのサイトを閲覧する価値がある。
3. 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センター.“患者さん向け 乳がんの治療(成人)(PDQ®)”.がん情報サイト PDQ®日本語版 ホームページ.PDQ®最新がん情報.治療(成人).2021年04月19日.https://cancerinfo.tri-kobe.org/summary/detail_view?pdqID=CDR0000062955&lang=ja,(参照2021年09月25日).
乳がんに関する一般的な情報、病期、炎症性乳がん、再発乳がん、治療選択肢などが詳細に記載されている。なお、この記事は米国国立がん研究所(NCI)が配信するものの日本語版である。
4. 一般社団法人 日本乳癌学会.“市民のみなさまへ”.日本乳癌学会 ホームページ.2021年08月26日.https://www.jbcs.gr.jp/modules/citizens/index.php?content_id=1,(参照2021年09月25日).
リンク先には、患者向け冊子が紹介されている。いずれの冊子も目を通す価値がある。
5. ファイザー株式会社.“乳がんを学ぶ ホームページ”.ファイザー株式会社 ホームページ.がんを学ぶ ホームページ.http://ganclass.jp/kind/breast/,(参照2021年09月25日).
乳がんの早期発見、検査と診断、ならびに、原発・進行・再発・転移がんの治療が記載されている。このサイトも最初に閲覧する価値がある。また、乳がんの60%以上がセルフチェック(自己検診)によって発見されていることから、その重要性も記載されている。
6. 山内英子.乳がん.第1刷,株式会社主婦の友社,2012年12月20日,192p,(よくわかる最新医学).
乳がんの基礎知識、検査、治療法、乳がん患者の生活の送り方、および、再発時の対処法が記載されている。特に、高額療養費制度の利用、保険金給付の手続き、乳がん患者用の補正下着・補正具、ならびに、乳がん患者用の美容ケアが詳細かつ簡潔に記載されている。
また、炎症性乳がんに関して簡潔に記載されている。
7. ラン・フォー・ザ・キュア・ファンデーション(RFTC:乳がん早期発見啓発活動推進協議会).“RFTC ファンデーション ホームページ”.https://rftcjapan.org/,(参照2021年09月25日).
RFTCは発足以来、日本全国において乳がん早期発見の教育・啓発活動、乳がんサバイバーの生活の質向上を目的としたプログラム、マンモグラフィ機器の寄贈、またマンモグラフィ検診料の助成などを行っている。また、RFTCは日英バイリンガルの無料季刊誌『PiNK』を発行している。

2.乳がんの治療
1. 国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 乳腺外科、乳腺・腫瘍内科、他 編著.最先端治療 乳がん.第1刷,株式会社 法研,2017年01月27日,160p,(国がん中央病院がん攻略シリーズ).
同著は2016年12月時点の乳がんの検査と診断、ならびに、標準治療が詳しく記載されている。
また、臨床試験中の検査と診断、並びに、治療法も紹介されている。一般の人は臨床試験中の検査と診断、並びに、治療法を知らないので、同著は極めて有用である。
なお、同著には、治療の価値の考え方、受付から治療にいたる流れ、及び、見た目の変化へのケアが記載されているが、これだけでも目を通す価値がある。
2. 冨永健 著.「乳がん死ゼロの日」を目指して:乳がん診療の歴史を生きた専門医の記録.初版第1刷,株式会社星の環会,2017年07月01日,208p.
著者の冨永氏は乳がんの専門医として、第一線で活躍してきた。同著は乳がん治療の歴史書や症例集としても有用である。
また、冨永氏は同著でK医師やA新聞を批判している(わかる人にはわかる)。その一方で、介護老人保健施設の問題点も指摘している。
3. 福田護 監修.最新 乳がん治療:“納得して自分で決める”ための完全ガイド.第1刷,株式会社 主婦と生活社,2017年07月10日,159p,(「あなたが選ぶ治療法」シリーズ).
乳がんの治療法、術後の症状・副作用の緩和、乳房再建、補整具・下着、並びに、退院後の安心を伴う生活の送り方が詳しく記載されている。退院後により良い生活を送るためには、家族の協力が必要であることを思い知らされる。
4. 夢野かつき 著.乳癌日記.鬼次元インチキ社,2016年12月31日,68p.
同著は同人誌で、浸潤性乳がん患者である夢野氏が執筆。同病と診断された夢野氏から見た治療の記録が描写されている。また、アブラキサン点滴静注用100mg(アルブミン懸濁型パクリタキセル注射剤)の術前投与の臨床試験や医療用ウィッグについても言及されている。
5. 夢野かつき 著,榊原淳太 監修.乳癌日記:胸の小さな痛みから始まった乳癌闘病記.第1版第1刷,株式会社 廣済堂出版,2020年09月25日,280p.
4の商業誌版で、乳がんに関してより詳しく描写している。同著が示すとおり、生命保険とがん保険をかけ、かつ、限度額適用認定証を申請するほうが良い。
また、ウィッグ、胸パッド、および、リンパ浮腫外来に関しても、患者視点で詳しく描写している。

3.補整具・補整下着、ならびに、乳房再建
1. 岩平佳子 著.これからの乳房再建BOOK:乳房を失ってしまった人へ 失ってしまうかもしれない人へ.第1刷,株式会社 主婦の友インフォス,2015年05月31日,128 p.
同著には、乳房再建の種類とその手順等が詳しく記載されている。乳房再建に関心のある人は必読である。
2. NPO法人 エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC).“乳房再建手術ってどんなもの”.E-BeC ホームページ.https://www.e-bec.com/about/top,(参照2021年09月25日).
乳房再建手術に関して詳しく記載している。
3. 公益財団法人 がん研究会有明病院.“乳房再建のしおり”.がん研有明病院 ホームページ.診療科・部門紹介.診療科紹介.一般診療部門.形成外科.乳房再建をお考えの方へ.https://www.jfcr.or.jp/hospital/department/clinic/general/plastic_surgery/pdf/info_20210329_1.pdf,(参照2021年09月25日).
乳房再建、ならびに、その時期と方法に関して、詳しく記載している。
4. 順天堂大学医学部附属 順天堂医院.“乳房再建手術について”.順天堂大学医学部附属 順天堂医院 ホームページ.診療科・部門のご紹介.形成外科.診療科紹介.対象疾患.https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/keisei/about/disease/nyubo.html,(参照2021年09月25日).
乳房再建手術に関して、初学者向けに簡潔に記載している。
5. 田中ひろみ 著.おっぱいをつくる!:乳がん転じて美乳になる方法.初版第1刷,株式会社マガジンハウス,2012年06月14日,160p.
著者の田中氏は乳がん手術後に、乳房再建を受けた。同著は随筆漫画であるが、乳房再建の初歩的なガイドブックとしても有用である。また、予防的乳房切除術に関しても言及されている。
なお、同著で筆者が印象に残ったことは、女性(著者)は自分が乳がん治療の後遺症に悩んでいることを察してもらうことを望んでいるのに対し、男性(著者の夫)はそのことを言われて初めて理解できることであった。
6. 株式会社 ワコール.“ワコール リマンマ ホームページ”.ワコール ホームページ.ブランド一覧.http://www.wacoal.jp/remamma/?link=brand,(参照2021年09月25日).
乳がん手術を受けた人向けの下着類が紹介されている。

4.ピンクリボン運動
1. 1. ピンクリボンフェスティバル運営委員会事務局.“ピンクリボン フェスティバル ホームページ”.http://www.pinkribbonfestival.jp/,(参照2021年09月25日).
ピンクリボンフェスティバル、新コンセプト「MY PINK ACTION 知ろう、自分と乳がんのこと」、スマイルウオーク、シンポジウム・セミナー、ならびに、デザイン大賞を紹介している。サイトの内容だけでなくデザインも素晴らしい。
2. 認定NPO法人 J.POSH(日本乳がんピンクリボン運動).“J.POSH ホームページ”.http://www.j-posh.com/,(参照2021年09月25日).
J.POSHの活動を紹介している。特に、ページ「ピンクリボン温泉ネットワーク」は閲覧する価値がある。また、J.POSH ピンクリボン検定は受験する価値がある。

余談だが、私は一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)(3)海外がん医療情報リファレンス(4)で乳がんに関する記事を翻訳している。
ここで、これらの拙翻訳記事などを以下に示す。なお、原文はいずれもリンク先を参照。
1. “炎症性乳がん/NCI(米国国立がん研究所)ファクトシート”.2018年01月23日.https://www.cancerit.jp/58201.html,(参照2021年09月26日).
炎症性乳がんに関して詳しく記載している。
2. “乳がん治験薬エンドキシフェン、NCIの支援により研究室から臨床現場へ/NCIブログ~がん研究の動向~”.2017年10月17日.https://www.cancerit.jp/57283.html,(参照2021年09月26日).
タモキシフェンは4-水酸化-タモキシフェンとエンドキシフェンのプロドラッグである。前者の後者への変換は、CYP2D6と言う酵素の活性に依存する。CYP2D6遺伝子において高頻度で認められる遺伝子多型によりその活性が高い人もいれば、低い人もいる(5)。
こうした背景により、エンドキシフェン製剤が、CYP2D6の活性が低いエストロゲン受容体陽性乳がん患者用の治療薬として、ランダム化第2相試験で評価されているところである。
3. “遺伝子検査を受ける卵巣がんや乳がん患者は少ない/NCIブログ~がん研究の動向~”.2019年05月04日.http://www.cancerit.jp/62534.html,(参照2021年09月26日).
卵巣がん/乳がんと診断された女性にとって、遺伝子検査を受けることは、親族への影響を含め、二次がんに対する治療法の決定や長期間の検診の指針になりうる重要な情報が得られる。しかし、卵巣がん/乳がんの女性患者の多くはこうした遺伝子検査を受けていない。その理由は、乳がん患者で遺伝子検査受診率における著しい人種格差や社会経済的格差は認められなかった一方で、卵巣がん患者ではその受診率は黒人女性の方が白人女性よりも(21.6%対33.8%)、無保険女性の方が被保険女性よりも著しく低かった(20.8%対35.3%)ためである。

また、他の翻訳者による乳がんに関する主な最近の記事も紹介する。
1. “乳がん女性の定期的な運動が生存期間を延長する可能性/NCIブログ~がん研究の動向~”.2020年06月04日.https://www.cancerit.jp/65901.html,(参照2021年09月26日).
がんの診断前と治療後に定期的に身体活動(要は運動)を行っていた女性は、活動を行っていなかった女性と比較して、がんの再発や死亡の可能性が低い。もっとも、身体状態が良い人の方が、具合の悪い人よりも身体活動ができる可能性が高いわけだが。
2. “残存腫瘍量により乳がん全タイプで転帰予測が可能/サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)”.2020年01月22日.https://www.cancerit.jp/64369.html,(参照2021年09月26日).
乳がん患者の大規模メタ解析によると、術前化学療法後の残存腫瘍量が、全ての乳がんの種類において正確な再発率と生存率の長期予測因子となる。
3. “早期乳がんの再発予防に乳房部分照射も有効か/SABCS”.2020年01月20日.https://www.cancerit.jp/64337.html,(参照2021年09月26日).
手術後に加速乳房部分照射(APBI)を受けた乳がん患者の10年間追跡試験の結果によると、APBIを受けた患者の再発率は全乳房照射(WBI)を受けた患者と同程度であった。
この試験結果によると、より低侵襲な乳房部分照射が、早期乳がん患者にとって選択肢の1つとなる可能性がある。
4. “スタチンがトリプルネガティブ乳がんの生存期間を延長する可能性”.2021年08月13日.https://www.cancerit.jp/69858.html,(参照2021年09月26日).
コレステロール降下薬であるスタチンとトリプルネガティブ乳がん患者の生存率に有意な関連があることが、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの主導による研究でわかった。スタチンは安価で、入手しやすく、副作用も軽微であることから、この高悪性度の疾患の転帰に重大な影響を与える可能性がある。
スタチンの使用により、乳がん特異的生存期間で58%、全生存期間で30%の相対的改善がみられることが分かった。追跡期間中央値は、乳がん特異的生存期間が3.3年、全生存期間が4.4年であった。

私は現在まで乳がんに関連する記事の翻訳に携わっている。また、同プログラムから乳がん検診の重要性を改めて思い知らされた。
そこで、乳がんに関するまとめとして、本記事を作成した。
本記事を作成するために、筆者は地元の図書館で、上記で紹介した書籍を借りた時、以下のことを思い知らされた。
1. 女性であれ男性であれ、乳房は様々な象徴になりうる。
2. 一般向けの乳がんに関する医学書や随筆漫画でも、基礎知識を学ぶことができる。
3. 一般向けの乳がんに関する医学書や随筆漫画から基礎知識を学ぶためには、それなりの費用を要する。図書館の運営に税金が使用されるわけで。
4. 単に医学書やインターネットで乳がんに関する知識を学ぶことより、リアルであれオンラインであれ、医療系のイベントやセミナーに参加することで、より詳しくかつ具体的に学ぶことができる。

この記事の作成は私にとって、乳がんの翻訳に関する復習兼予習になり、かつ、これからもそうなり続ける。また、記事が乳がん患者等の女性の役に立てれば幸いである。

参考文献
1 日本コンベンションサービス(JCS)株式会社.“4年に一度開催される「健康未来EXPO 2019」は、大盛況の中でフィナーレを迎えました”.JCS トップページ.ニュース.イベント&講演.2019年05月16日.https://www.convention.co.jp/news/detail/contents_type=15&id=541,(参照2021年09月25日).
2 公益社団法人 愛知県臨床検査技師会.“健康未来EXPO2019”.愛知県臨床検査技師会 ホームページ.行事カレンダー.2021年04月.2019年04月07日.https://www.aichi-amt.or.jp/archives/events/2059,(参照2021年09月25日).
3 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“一般社団法人日本癌医療翻訳アソシエイツ トップページ”.http://jamt-cancer.org/,(参照2021年09月25日).
4 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“海外がん医療情報リファレンス トップページ”.http://www.cancerit.jp/,(参照2021年09月25日).
5 大鵬薬品工業株式会社.“CYP2D6遺伝子多型解析とタモキシフェン治療効果”.nyugan.info 乳癌診療情報サイト(医療関係者向けである) トップページ.乳癌診療Tips&Traps.Topics.2011年12月.http://nyugan.info/medical/topics/2011/topics34.html, (参照2021年09月26日).

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