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「次世代スマート ホスピタル202X 治療」 生殖医療編:日本医学会総会2023東京 博覧会 次世代スマート ホスピタル202X 02-05

スマート ホスピタルの解説は既に、「展示物から「次世代スマート ホスピタル202X 診察」を振り返る:日本医学会総会2023東京 博覧会 次世代スマート ホスピタル202X 01」で実施済みである。

生殖(補助)医療(assisted reproductive technology:ART)は、「妊娠を成立させるためにヒト卵子と精子、あるいは胚を取り扱うことを含むすべての治療あるいは方法」である。一般的には体外受精・胚移植(In Vitro Fertilization - Embryo Transfer:IVF-ET)、卵細胞質内精子注入・胚移植(IntraGytoplasmic Sperm Injection - Embryo Transfer:ICSI-ET)、および、凍結・融解胚移植等の不妊症治療法の総称である。

体外受精の適応については、日本産婦人科学会のガイドラインに「本法はこれ以外の治療によって妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの、および本法を実施することが、被実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とする」と規定されている([1],[2])。

本記事では、日本医学会総会 2023 東京 博覧会([3])の「次世代スマート ホスピタル202X 治療」における生殖医療を紹介する(図02-05.01)。

図02-05.01.生殖医療。

2016年11月01日~2018年03月31日、池内真志(以下敬称略) 東京大学 大学院情報理工学系研究科 講師らは、体外受精での着床率を改善するとともに、子宮外妊娠や、前置胎盤など母子の生命に関わるリスクを自然妊娠以下に抑えることを目指し、マイクロロボティクス技術を用いて、子宮内の至適位置へ胚を搬送し、着床するまでの一定期間、所定の位置に胚を留置する、胚移植マイクロロボットを開発してきた。これまでブラックボックスであった着床プロセスを、人工的に制御するというコンセプト自体、新規性が高く、研究開発は容易ではなかったが、実用モデルに近い試作機を完成させることができた。また、マウス実験により、材料レベルでの安全性については確認できた([4])。

2018年11月01日~2021年03月31日、池内らは、体外受精での着床率を改善するとともに、子宮外妊娠や、前置胎盤など母子の生命に関わるリスクを自然妊娠以下に抑えることを目指し、マイクロロボティクス技術を用いて、子宮内の至適位置へ胚を搬送し、着床するまでの一定期間、所定の位置に胚を留置する、胚移植マイクロロボットを開発してきた。セットアップスキーム事業で開発したプロトタイプを発展させ、量産仕様の治療機器一式を完成させた。また、in vitroやin vivoでの安全試験を実施し、新規治療の安全性を示すという最大の目標はおおむね達成した。さらに、ヒトとサイズは異なるものの、同形状の単一子宮を持つサルで、経腟的にマイクロロボットの導入・可視化・回収ができることを実証した([5])。

2023年07月現在、池内は東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 精密医工学分野(旧バイオデザイン分野)教授として、マイクロロボット、カテーテル、および、誘導磁石からなる新しい体外受精システムを提案している。なお、マイクロロボットは胚を搬送し、胚の着床位置を制御するものである([6])。

私は生殖(補助)医療の最前線を知ることができた。

2022年04月から、人工授精等の「一般不妊治療」、ならびに、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」について、保険適用されることとなった([7])。

余談だが、個人的には、一般不妊治療や生殖補助医療だけでなく、正常分娩に関しても健康保険が適用されれば、飛び込み出産や内密出産が多少は減るのかなと考えている([8],[9],[10])。

なお、生殖(補助)医療が普及するに連れて、生殖(補助)医療の法制化、非侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal genetic testing:NIPT)関連問題、出生前検査の市場化、および、子宮移植の臨床研究関連問題が付随するだろうが、この問題を詳しく知るためには、とりあえず『生殖技術と親になること:不妊治療と出生前検査がもたらす葛藤』に目を通すことをお勧めする([11])。

ここで生殖(補助)医療に関連する、既読書籍、既視聴番組、および、既閲覧ホームページを順次紹介する。

01.森本義晴 監修.はじめての不妊治療:体外受精と検査.第1刷,株式会社 主婦の友社,2021年11月20日,176 p.(実用No.1シリーズ).

本著は、体外受精・顕微授精、着床障害・不育症・先進検査、納得して治療を受けるために知っておきたいこと、生活習慣の見直し、ならびに、特別養子縁組に関して、詳細かつ分かりやすく記載している。

生殖(補助)医療の初学者はとりあえず、本著を読むようお勧めする。


02.河野美香 著.まだ産める? もう産めない? 「卵子の老化」と「高齢妊娠」の真実.第1刷,株式会社 講談社,2018年01月17日,178 p.(健康ライブラリー スペシャル).

本著は、「卵子の老化」、卵巣の働きと不妊、不妊治療でできること、ならびに、高齢妊娠・出産で気をつけたいことに関して、詳細かつ分かりやすく記載している。

卵子だけでなく、「精子もまた老化する」ことを全男性は頭に入れておくべきである。

また、不妊治療には限界があること、かつ、特別養子縁組で子供を設ける選択もあることは知っておくほうがよい。


03.一般社団法人 日本受精着床学会.“生殖補助医療技術 ARTって何?”.日本受精着床学会 ホームページ.http://www.jsfi.jp/citizen/,(参照2023年10月23日).

生殖補助医療技術に関して、詳細かつ分かりやすく記載している。

生殖補助医療技術の初学者はとりあえず、本サイトに目を通すようお勧めする。


04.内閣府.“Q10 日本ではどの程度に不妊治療(生殖補助医療等)が普及していますか。”.内閣府 ホームページ.内閣府の政策.経済財政政策.経済財政諮問会議.専門調査会情報等.「選択する未来」委員会.選択する未来.https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_1_10.html,(参照2023年10月23日).

日本や他国における不妊治療(生殖補助医療等)の現状が簡潔に記載されている。



参考文献

[1] 公益社団法人 日本産婦人科医会.“11.生殖補助医療(ART)”.日本産婦人科医会 ホームページ.産婦人科ゼミナール.栗林先生・杉山先生の開業医のための不妊ワンポイントレッスン.https://www.jaog.or.jp/lecture/11-%E7%94%9F%E6%AE%96%E8%A3%9C%E5%8A%A9%E5%8C%BB%E7%99%82%EF%BC%88art%EF%BC%89/,(参照2023年10月23日).

[2] 一般社団法人 日本生殖医学会.“Q11.生殖補助医療にはどんな種類があり、どこに行くと受けられますか?”.日本生殖医学会 ホームページ.一般のみなさまへ:生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A).http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa11.html,(参照2023年10月23日).

[3] 第31回日本医学会総会2023東京 展示事務局.“第31回日本医学会総会 博覧会 ホームページ”.https://tsunagu-iryo.jp/minna-expo/,(参照2023年10月23日).

[4] 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED).“日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業 産学連携医療イノベーション創出プログラム セットアップスキーム(ACT-MS) 事後評価報告書 マイクロロボティクスによる生殖補助医療の革新”.AMED トップページ.事業紹介.実用化推進部.研究成果展開推進課.産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M/MS)(医療分野研究成果展開事業)事後評価について.平成29年度終了課題.マイクロロボティクスによる生殖補助医療の革新.https://www.amed.go.jp/content/000070833.pdf,(参照2023年10月23日).

[5] 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED).“日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業 産学連携医療イノベーション創出プログラム 基本スキーム(ACT-M) 事後評価報告書 着床改善に資する胚移植マイクロロボット”.AMED トップページ.事業紹介.実用化推進部.研究成果展開推進課.産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M/MS)(医療分野研究成果展開事業)令和2年度終了課題の事後評価について.着床改善に資する胚移植マイクロロボット.2021年09月09日.https://www.amed.go.jp/content/000087147.pdf,(参照2023年10月23日).

[6] 国立大学法人 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 精密医工学分野(旧バイオデザイン分野) 池内真志 研究室.“生殖医療”.池内真志 研究室 ホームページ.https://ikeuchi-lab.tech/REPRODUCTIVE_MEDICINE.html,(参照2023年10月23日).

[7] 厚生労働省.“不妊治療に関する取組”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.子ども・子育て.子ども・子育て支援.母子保健、不妊症・不育症.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/funin-01.html,(参照2023年10月23日).

[8] 一般社団法人 全国銀行協会.“Q. 貯蓄がなく、出産費用が足りるかどうか不安です”.全国銀行協会 ホームページ.教えて!くらしと銀行.ライフステージ別.出産と育児.https://www.zenginkyo.or.jp/article/life/child/4370/,(参照2023年10月23日).

[9] 一般社団法人 全国妊娠SOSネットワーク.“お金がなくて病院にかかれない!”.全国妊娠SOSネットワーク ホームページ.妊娠?どうしよう お悩み別情報.https://zenninnet-sos.org/trouble-info/trouble-info_01,(参照2023年10月23日).

[10] 熊本朝日放送株式会社.“テレメンタリー 内密である理由 ひとつだけの命の現場から”.熊本朝日放送 ホームページ.番組.https://www.kab.co.jp/naimitsu/,(参照2023年07月03日).

[11] 柘植あづみ 著.生殖技術と親になること:不妊治療と出生前検査がもたらす葛藤.第1刷,株式会社 みすず書房,2022年02月10日,352 p.

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