新型コロナウイルス感染症関連書籍読書、番組視聴、および、ホームページ閲覧記録:日本医学会総会2023東京 博覧会 “コロナ”から考える感染症の話06-04

本記事は以下の記事の続編である。

31.学校法人 慶応義塾大学 理工学部・理工学研究科.“新型コロナウイルスは変異株でもニューロンには感染せずに効率良く脳内の免疫担当細胞であるミクログリアに感染することを発見”.慶応義塾大学 ホームページ.プレスリリース一覧.プレスリリース.2023年04月03日.https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2023/4/3/28-136737/,(参照2023年12月12日).

加瀬義高 慶應義塾大学医学部生理学教室 特任講師(藤田医科大学医学部臨床再生医学講座講師)と岡野栄之教授らは、はヒトiPS細胞から脳の主要構成細胞であるニューロン、アストロサイト、ミクログリア、さらに脳オルガノイドを作成してウイルスの感染性を調べた。その結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が認められた当初のアルファ株から変異株であるデルタ株、オミクロン株に至るまで、ミクログリアに効率的に感染することがわかり、一方でニューロンや神経幹細胞には感染しないことが分かった。また、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は細胞の受容体を介して感染するが、このミクログリアへの感染では、一般にSARS-CoV-2の受容体とされているACE2ではなく、DPP4が有力であることがわかった。


32.国立大学法人 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA).“新型コロナウイルス感染症(COVID-19)研究のための肝臓チップの開発 ~肝障害の病態解明と治療薬の評価~”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2023年.研究活動.2023年03月08日.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/230308-000000.html,(参照2023年12月12日).

出口清香 大学院生(CiRA増殖分化機構研究部門、医学研究科)と高山和雄 講師(CiRA同部門)らの研究グループは、胆管および血管の構造をもつ肝臓チップ(肝内胆管チップおよび肝内血管チップ)を開発し、COVID-19患者の肝臓における病態の解明と創薬への応用を試みた。

その結果、SARS-CoV-2感染は血管周囲での肝細胞障害を引き起こすことが分かった。また、SARS-CoV-2感染後の肝臓で認められる後遺症を肝内血管チップで再現することにも成功した。さらに、肝内血管チップで再現した肝障害はレムデシビルとバリシチニブを使用することで治療できることが確認された。

ヒト肝臓の三次元構造と肝機能をより正確に模倣する肝臓チップ技術をCOVID-19研究に活用することで、COVID-19患者の病態の理解と治療薬の開発が進むことが期待される。


33.国立大学法人 京都大学 CiRA.“COVID-19治療薬開発のためのオート ファジー関連化合物スクリーニング”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2023年.研究活動.2023年03月24日.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/230324-090000.html,(参照2023年12月12日).

橋本里菜 研究員(CiRA増殖分化機構研究部門)、渡邉幸夫 研究員(CiRA同部門)、および、高山和雄 講師(CiRA同部門)らの研究チームは、ヒト気道オルガノイドを用いたオート ファジー関連化合物スクリーニングを実施し、SARS-CoV-2に対してシクロヘキシミドとタプシガルギンが強い抗ウイルス効果を示すことを見出した。また、シクロヘキシミドは、6種類のSARS-CoV-2変異株と他のヒトコロナウイルスにも効果があることを確認した。

本研究では、まず、ヒト気道オルガノイドとオート ファジー関連化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを実施し、SARS-CoV-2の感染を制御できる化合物の同定を試みた。80化合物のうち、シクロヘキシミドとタプシガルギンは用量依存的に感染効率を低下させた。シクロヘキシミドは6種類の SARS-CoV-2変異株だけでなく、ヒトコロナウイルスであるHCoV-229EおよびHCoV-OC43の感染効率も低下させた。残念ながら、シクロヘキシミドはヒトに使用すると毒性を示す恐れがあるため、COVID-19治療薬としての応用は見込めない。しかし、今回の結果から、気道オルガノイドと化合物ライブラリーを用いた創薬スクリーニングは有用な手段であることが分かった。今後は大規模なスクリーニングを行うことで、有望な薬の開発が期待される。

 

34.国立大学法人 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(iFReC).“COVID-19重症化における自然免疫細胞の関わりを明らかに”.iFReC ホームページ.News & Topics.2023年04月25日.http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/20230425-0300.htm,(参照2023年12月12日).

大阪大学大学院医学系研究科の熊ノ郷淳 教授(呼吸器・免疫内科学/IFReC 感染病態)、岡田随象 教授と(遺伝統計学/IFReC 統計免疫学/東京大学医学系研究科/理化学研究所生命医科学研究センター)らの研究グループは、末梢血単核細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cell:PBMC) のシングル セル情報と宿主ゲノム情報との統合解析を実施することにより、COVID-19重症化における自然免疫細胞の役割を明らかにした。

今回、研究グループは、大阪大学が収集した日本人集団の COVID-19 患者 73 名と健常者 75 名のPBMC のシングル セル解析を実施するとともに、宿主ゲノム情報との統合解析を行った。その結果、単球の中の希少細胞種である CD14+CD16++単球が COVID-19 患者で顕著に減少しており、その一因がCD14+CD16++単球への細胞分化不全であることが分かった。また、遺伝子発現変動解析と細胞間相互作用解析により、CD14+CD16++単球の機能不全が重症化に関与していることも分かった。さらに、ゲノムワイド関連解析で同定された COVID-19 重症化関連遺伝子は、単球および樹状細胞で特異的に発現していること、COVID-19 に関連する遺伝子多型が SARS-CoV-2 感染状況下かつ細胞種特異的な eQTL(expression quantitative trait loci)効果を有することが分かった。

本研究成果によって、COVID-19 重症化に関与する細胞種を明らかにするとともに、重症化の宿主遺伝的リスクは自然免疫細胞に集約されていることを見出した。

 

35.国立大学法人 東京大学 医科学研究所.“発熱がウイルス性肺炎の重症化を抑制するメカニズムを解明 ――重症化の抑制には38℃以上の体温で活性化した腸内細菌叢が必要だった――”.東京大学 医科学研究所 ホームページ.医科研について.広報・出版物.プレスリリース.2023年07月07日.https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00249.html,(参照2023年12月12日).

東京大学医科学研究所の一戸猛志准教授と、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授、順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学の内藤俊夫教授らによる研究グループは、38℃以上に上昇した体温(発熱)が腸内細菌叢の活性化を介して二次胆汁酸量を増加させ、ウイルス性肺炎の重症化を抑制することを分子レベルで明らかにすることに成功した。

これまで外気温や体温がウイルスに感染した場合の重症度に与える影響についてはほとんど分かっていなかった。外気温や体温がウイルス感染後の重症度に与える影響を解析するため、さまざまな温度条件で飼育したマウスにインフルエンザウイルスを感染させた場合の重症度を解析した。すると36℃条件下で飼育したマウスでは体温が38℃を超えるようになり、インフルエンザウイルスのみならずSARS-CoV-2の感染に対しても高い抵抗力を獲得することが分かった。

22℃で飼育したマウス(体温は37℃前後)と36℃条件下で飼育して体温が38℃を越えたマウスの血清と盲腸内容物のメタボローム解析を行ったところ、体温が38℃を越えたマウスの体内では胆汁酸レベルが有意に増加しており、特に盲腸内容物中では二次胆汁酸量が有意に増加していることを見出しました。

また22℃で飼育したマウスやハムスターにデオキシコール酸(DCA)やウルソデオキシコール酸(UDCA)などの二次胆汁酸を与えると、インフルエンザウイルスやSARS-CoV-2感染後の生存率が有意に改善することを明らかにしました。さらにCOVID-19患者から採取した血液サンプルを解析したところ、胆汁酸レベルが軽症患者グループと比較して中等症I/II患者グループで有意に低下していることが明らかとなりました。このことはヒトにおいてもCOVID-19の重症度と胆汁酸レベルに逆相関関係があることを示している。

本研究成果は、体温が38℃以上に上昇することにより腸内細菌叢が活性化し、二次胆汁酸産生を介してウイルス感染後の重症化予防に役立っていることを分子レベルで明らかにした世界初の成果であり、高齢者がインフルエンザやCOVID-19で重症化しやすくなるメカニズムの解明や、宿主とウイルスの共生メカニズムの解明、胆汁酸受容体を標的としたウイルス性肺炎の重症化を抑える新しい治療薬の開発などに繋がることが期待される。


36.国立大学法人 東京大学 医科学研究所.“SARS-CoV-2 XBBブレイクスルー感染者血清の、 EG.5を含むオミクロン変異株への抗ウイルス作用の解析”.東京大学 医科学研究所 ホームページ.医科研について.広報・出版物.プレスリリース.2023年09月12日.https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00258.html,(参照2023年12月12日).

東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤佳教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」は、新型コロナウイルスの「注目すべき変異株(VOI:variants of interest)」に分類されるオミクロンXBB系統株の一種「オミクロンEG.5.1株」のウイルス学的特性を、流行動態、感染性、免疫抵抗性等の観点から明らかにした。

まず、統計モデリング解析により、オミクロンEG.5.1株の実効再生産数は、現在の流行の主流株であるオミクロンXBB.1.5株に比べて1.2倍程度高いことを明らかにした。また、オミクロンEG.5.1株の培養細胞における感染力が、オミクロンXBB.1.5株よりも低下していることを示した。そして、オミクロンEG.5.1株はXBB株のブレイクスルー感染によって誘導される中和抗体に対してオミクロンXBB.1.5株の1.4倍高い抵抗性を示すことを明らかにした。


37.国立大学法人 京都大学 高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi).“AI 技術で新型コロナウイルスの進化メカニズムを分析~ウイルスの進化予測を踏まえた感染症対策の第一歩~”.ASHBi ホームページ.ニュース&イベント.ニュース.2023年11月22日.https://ashbi.kyoto-u.ac.jp/ja/news/20231122_research-result_shingo-iwami/,(参照2023年12月12日).

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科のパク ヒョンギ 特任助教、岩見 真吾 教授らの研究グループは、北海道大学大学院先端生命科学研究院の山口 諒 助教との共同研究でAI技術を活用することで、新型コロナウイルスの進化が潜伏期間や無症候率などの臨床的な症状やヒトの行動と複雑に関連していた可能性を明らかにした。武漢株、アルファ株、デルタ株、オミクロン株に感染した合計274人の臨床データを順番に解析していくと、変異株の出現に伴い、生体内におけるウイルス排出量のピークは増加し、早まる傾向(急性感染型)に進化する様子が見られた。さらに、AI技術を組み込んだシミュレータを開発し、詳細に分析した結果、この進化の傾向は、変異株の出現に応じてヒトが感染症から身を守るための行動(自宅待機、3密回避、感染者隔離など)を克服するウイルスの生存戦略として成立したものである可能性が示唆された。また、変異株の出現とともに短くなった潜伏期間や高くなった無症候率も、変異株を進化させる選択圧と密接に関連していることが判明した。

これまでの研究では、抗菌剤や抗ウイルス薬が病原体進化を駆動してきたことが知られていたが、本研究からは、ヒトの行動自体もウイルスの進化を理解する上で重要な原因であることが明らかになった。新たな変異株の出現が懸念される中、本研究の成果およびAI技術を組み込んだシミュレータは、将来のウイルス進化を予測し、ポストコロナ時代の感染症対策を確立する上で重要な一歩となることが期待される。


38.一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT).“『米国がん年次報告』 COVID-19パンデミック初期に新規がん診断数が急落”.海外がん医療情報リファレンス トップページ.がん記事一覧.がん.2023年10月16日.https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/gann/post-25613.html,(参照2023年12月12日).

私が翻訳した記事である。

最新の『がんの現状に関する米国年次報告書(Annual Report to the Nation on the Status of Cancer)』第2部によると、米国における6つの主要ながん種の新規診断は2020年初頭に急落し、これはCOVID-19流行の始まりと一致している。病理報告数も2020年初頭に急減しており、この時期にがん検診やその他のがん関連処置の実施件数が少なかったことを示唆している。これらの所見から、COVID-19パンデミックの初期に、恐らく医療が中断されたために多くのがんが適時に診断されなかったことが示唆される。

 

39.東京都保健医療局.“後遺症”.東京都保健医療局 トップページ.感染症対策.新型コロナ保健医療情報ポータル.関連リンク・その他.https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/corona_portal/link/kouisyou.html,(参照2023年12月12日).

新型コロナウイルス感染症から回復した後での罹患後症状(いわゆる「後遺症」)に関して、詳細に解説している。

なお、この記事は東京都民向けの記事なので、それ以外の地域の住民はこの記事を見た後、地元での同種の記事を読むことをお勧めする。


40.株式会社 NHKエデュケーショナル 制作.国産ワクチンの開発に挑め!小山肆成(しせい)」.先人たちの底力 知恵泉(ちえいず).2023年12月09日,46分.

話は横道に知れるが、この番組は小山肆成による天然痘との闘いの記録である([1][2])。

本番組で、「引痘新法全書」が紹介された([3])。



参考文献

[1] 特殊法人 日本放送協会.“「国産ワクチンの開発に挑め!小山肆成(しせい)」”.先人たちの底力 知恵泉(ちえいず) トップページ.過去のエピソード.初回放送日:2021年03月16日.https://www.nhk.jp/p/chieizu/ts/R6Z2J4WP1Z/episode/te/G6XGNVPPK3/,(参照2023年12月12日).

[2] 和歌山県教育委員会.“小山肆成と羽山大学”.ふるさと教育副読本 わかやま発見 トップページ.第2編 わかやまの歴史.第3章 紀州徳川家の時代.http://www.manabi.wakayama-c.ed.jp/wakayama_hakken/pdf/section/02/03/154.pdf,(参照2023年12月12日).

[3] 学校法人 早稲田大学図書館.“引痘新法全書/小山肆成 著”.早稲田大学図書館 古典籍総合データベース ホームページ.「引痘新法全書」で検索.https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ya09/ya09_00198/index.html,(参照2023年12月12日).

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