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契約書の基礎固め #9 有利な契約書のつくりかた

契約書の「基礎」を確認するための記事です。契約書についてこれから詳しくなりたい方はぜひ読んでください。重要なポイントが「一気に」学べます。

契約書の基礎を短時間で身につけたい人のために

「どこから学べばよいかわからない」「契約書がチェックできるようになりたいけど、読んで何が分かればいいのかもわからない」

といった疑問にこたえます。

本記事の内容

・契約書が有利になるときはどんなときか解説します

有利な契約書とは?

契約書は有利な方がいいと思いますか? 当然自社に有利な契約書の方がメリットがありそうな気がします。でもどんな契約書が有利なのかというと、実は難しい問題です。有利かどうかは相手との関係性によっても異なるからです。

関係性とは「既存の信頼できる顧客と契約する場合と、まったく初めての相手方と契約する場合」あるいは「こちらがぜひともその契約を締結したい、締結することに自社のメリットが大きい場合と、それほど契約したいわけでもない場合、むしろ見送ってもよいくらいの余裕がある場合」などがあります。つまりそもそも強気のスタンスでいいのか、そうではないのか。そんな要素によっても契約書が有利かどうかは変わってきます。

こちらにとってメリットの多い契約書をつくっても、相手がそれを嫌がってサインしてくれなかったら、それは果たして有利だったのか? ということです。

一般的にはどうか?

とはいえ一般的にどのような規定が有利になるのかも、知っておくべきです。知ったうえでそのカードを切るかどうかは、状況に合わせて判断すればよいからです。有利不利を決定するのはどんな条文なのか、いくつか例を挙げます。

①支払
・支払期日を長くする
・遅延損害金を高率にする
②解除
 ・一方的に解除できる
・いつでも解除できる
③損害賠償
 ・賠償額を多くするか少なくする
・賠償範囲を広くするか狭くする
・請求期間を長くするか短くする
④知的財産権
 ・自社に帰属させる
⑤裁判管轄
・自社の住所地の管轄にする

これらのポイントが一般的に契約書の有利性に影響する条項です。ひとつだけ取り上げて、たとえば「損害賠償条項」の有利性について考えてみましょう。

損害賠償条項とは?

ほとんどのビジネス契約書で重要なチェック項目となるのが、損害賠償条項です。損害賠償条項は、文字通り「損害の賠償」について定めるものです。つまり賠償する側は損害賠償の金額を「少なく制限しよう」と考えます。

はんたいに賠償を受ける側はこれを「金額をなるべく多く」しようとするのです。このように、方向性が対立しやすく、どう規定するかによって有利、不利の差がでやすい部分なのです。

賠償額を多くするか少なくするか

賠償額を多くするか少なくするか、そこがコントロールできれば自社に有利になります。あるいは中立にしたい場合、特になんの制限もせず、単に互いの賠償義務を原則的に確認するだけのものもあります。

(損害賠償)
第〇〇条 甲及び乙は、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償を請求することができる。

損害賠償を少なくするには?

「損害賠償の額に上限をつける」「賠償の範囲を限定する」といったパターンがあります。たとえば賠償金額の上限を決める場合、例文は以下です。

損害賠償の累計総額は、請求原因の如何にかかわらず、帰責事由の原因となった契約に定める契約金の金額を限度とする。(「〇〇円を限度とする。」)

他にも請求可能期間を短縮する、通常の損害に限る、などいろいろなテクニックがありますが、結局のところいかに金額を少なくするか、あるいは賠償の範囲を狭めるかです。範囲が狭いほど一般的には売主(受託者)に有利であり、範囲が広いほど買主(委託者)に有利です。

まとめ

契約書が有利かどうかは一概には言えないですが、理屈上は一種のパターンがあります。たとえば損害賠償なら、より賠償額が多くなるように規定したり、逆に賠償額が少額になるように制限をつけておいたりできます。どちらが自社にとって有利かを考えて、条文を工夫できるでしょう。そしてくれぐれも、視野を契約書の文章だけにしぼらず、相手方との関係性をよく調べておいて、実際に契約書を受け取ったときの印象までイメージして作成すべきことを忘れないでください。

クイズ

次の条文は売主と買主どちらに有利だと考えられますか?

(損害賠償)
第〇〇条 損害賠償の累計総額は、請求原因の如何にかかわらず、帰責事由の原因となった業務に係る委託料を限度とする。

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