武田若千

小説らしきものを書いています。ちょっと変な世界を好みます。ジャンルやシリーズごとにマガ…

武田若千

小説らしきものを書いています。ちょっと変な世界を好みます。ジャンルやシリーズごとにマガジンにまとめています。クレジットのない写真はすべて自分で撮影したものです。たまに豆本を作ります。

マガジン

  • 静かな日々 8月

    『静かな日々 6月』の『サカエダさん(6月16日)』から順に日付を追うと、主人公のちょっと奇妙な日常が浮き上がってくる、つれづれ日記式連作小説です。 曜日、祝祭日は今年とは合致しません。 2008年頃から趣味で書いていた実験小説をほどほどにリライトしつつ、追いついたら続きを書こうと始めました。

  • こぼれ話または蛇足

    雑談です。

  • 超短編

    超短編です。500文字から800文字程度の短い物語。

  • 静かな日々 7月

    『静かな日々 6月』の『サカエダさん(6月16日)』から順に日付を追うと、主人公のちょっと奇妙な日常が浮き上がってくる、つれづれ日記式連作小説です。 曜日、祝祭日は今年とは合致しません。 2008年頃から趣味で書いていた実験小説をほどほどにリライトしつつ、追いついたら続きを書こうと始めました。

  • 静かな日々 6月

    『サカエダさん(6月16日)』から順に日付を追うと、主人公のちょっと奇妙な日常が浮き上がってくる、つれづれ日記式連作小説です。 曜日、祝祭日は今年とは合致しません。 2008年頃から趣味で書いていた実験小説をほどほどにリライトしつつ、追いついたら続きを書こうと始めました。

最近の記事

つれづれ雑記 思考スケッチ①

 言葉というのはどんなに細心の注意を払って放ってもあるいは綴っても、自分の考えにぴったり添うのは難しく、ましてや他人にそれを正確に読み解いてもらうのはさらに難しい。  物語であれば、その読み解き方(あそび)が多い方が楽しめる人が多くなるだろうと思うけれど、自分の考えを述べて、なるべく正しく解釈してくれる人に届けたい場合は、なかなかうまくいかないかもしれない。  何かを伝えようとするのは、同じような考えの人(時に異なる考えの人)と意見を交換したい、ひいては自分が(相手を含めて)

    • キスミと家の話をした事

      8月26日  朝起きると、キスミが既に起きていて、縁側に腰掛けて庭を眺めていた。  僕の顔を見るなり、好かれないと住めない家というのがあるんだと、独り言のように言った。並んで腰掛けながら、誰に好かれないと住めないのかと問うと、家に決まっているだろうと答える。  前に来てからそんなに経っていないのに、池には金魚が泳いでいるし、庭先には鳥の餌台があるし、おまけにメジロが庭番をしているしと、呆れたような感心したような表情でつらつらと家の変化を挙げ連ねている。  犬を飼ったり、池を掘

      • 最近noteを始めた人の呟き

         しばらくきちんと物語を書いていなかった。  書いていなかったし、書いている友人知人が文学フリマなどに参加している時にも足を運べなかった。  それは転職をして、平日は朝決まった時間に会社に行ってだいたい夜になる頃に帰宅するという、単純に拘束時間の変化の問題が一番大きかったと思う。  まったく未経験の仕事に取り組むことになったというのも大きな理由だし、さらに取り立てて名前の出ない、あたりさわりのないように見える文章を大量に書いていたのも大きな理由で、大きな理由を要約すれば現実

        • 武田若千プロフィール

          武田若千 Takeda Jyakusen 主に超短編、掌編、短編小説を執筆。 豆本、ミニチュアやその他造形物などを制作、屋号「蓮月堂」で活動。 豆本制作グループ「まめほんchor.」所属。 創作小説サークル「温泉卵と黙黙大根」は休止中。 掲載ポプラ社(ポプラ文庫) 『てのひら怪談』 『てのひら怪談 己丑』 『てのひら怪談 庚寅』 『てのひら怪談 辛卯』 『てのひら怪談 壬辰』 MF文庫ダ・ヴィンチ 『てのひら怪談 癸巳』 創英社 『超短編の世界』 『超短編の世界 2』

        つれづれ雑記 思考スケッチ①

        マガジン

        • 静かな日々 8月
          26本
        • こぼれ話または蛇足
          4本
        • 超短編
          2本
        • 静かな日々 7月
          32本
        • 静かな日々 6月
          15本
        • 怪談
          5本

        記事

          海辺の食堂

           ヤヌさんと海へ行くことになり、気乗りはしなかったがだましだまし海へ行く。  海へついたら曇っていて、空も海も鉛みたいな色だった。  ヤヌさんがクラゲを捕まえて、それを両手に持って踊っている。大海原を渡って来た風が、野暮ったい風体のヤヌさんを劇的に煽り、得体の知れない迫力をヤヌさんに与えている。帰ろうと言っても聞かない。  仕方なく待っている間、空腹だったので閉店していた海辺の食堂の厨房を勝手に借りて料理をしていたら、通り掛かった人が勘違いして店に入って来て料理を注文する。

          海辺の食堂

           病であろう、これは。わたしは。  あかく、あたたかい、いのちを飲み込んでわたしは生きている。否、生きてはいまい。  死ぬということが無に帰することであるならば、わたしは死んではいない。  生きるということが、陽の光の下で大地を踏みしめることであるならば、わたしは生きてはいない。  わたしは、死んでも生きてもいない。  幸か不幸か、時間だけはたくさんあった。残酷にして優しい、動かなくなった時計のような時間が。  喉がはりついて潰れてしまうのではないかと思うほどの乾きを覚えると

          キスミとリンの話

          8月25日  朝、リンの散歩から戻ると、妹がそろそろ帰らないといけないと言い出した。リンが可愛くて離れ難く、長々と居座っていたらしい。今日の夜、僕が帰ってきてから帰ることにしたようだ。  実家もそう離れているわけではないので、昼間たまに帰っていたのは知っている。そんなにリンと遊びたいなら、母に預けてある合鍵もあるから好きな時に来ればいい。リンも嬉しいだろうと言ったら、すかさずリンがクウと鼻を鳴らした。  サカエダさんは僕らのやり取りを、窓際に座って相変わらずにこにこしながら眺

          キスミとリンの話

          くしゃみの事

          8月24日  夕方近く、珍しくタカハシさんから連絡があって、突然ですが飲みに行きませんかと誘われた。  秋の気配も微かに漂い始めたので、行く夏を惜しみつつビアガーデンに行こうということになった。僕が好きそうないい所があると案内してもらったのは、信濃町駅を降りてすぐの、森に囲まれた場所にあるビアガーデンだ。  木立は影になり、夜の空を背景にしてさながら絵のように見える。時折吹く風に、さらさらと葉擦れの音がする。それでいて人の楽しげな熱気が満ちていた。確かに僕の好きな雰囲気だ。

          くしゃみの事

          達磨の笑った話

          8月23日  明け方に物音で目が覚めた。物音は玄関の方から聞こえるようだった。何の音だか聞き覚えのない音なので、気になって起き上がる。まだ外は薄暗い。  玄関まで来てみると、音はどうやら玄関より向こう、門の辺りから聞こえるようだった。何か大きな葉の束を振り回すような音にも聞こえる。無視しようかとも思ったが、どうにも気になって玄関の引き戸を僅かに開けてみた。  閉めた門扉の向こうに、確かに何かがいるようだ。外の様子を伺っていると、足に何かがぶつかった。下を見ると下足入れの上に置

          達磨の笑った話

          メロンと洋菓子の事

          8月22日  会社でヨネヤにまた紙袋を渡された。実家からメロンが送られてきたという。重くて悪いが貰ってくれと言うので、ありがたく受け取る。これと同じ大きさのメロンが家にあと四個あるそうだ。  前にモチヅキにプリンなどを貰ったお礼に、メロンを持って行きがてら、何か買って行きたいと言うので、会社帰りに一緒に寄ることにした。  普段降りない駅で電車を降りる。夏休みの学生らしい若者で賑わう大通りを抜けて、高級ブランドの路面店を横目にしばらく歩いた。そこから一本脇道に入った住宅街の入り

          メロンと洋菓子の事

          妹の料理の事

          8月21日  朝、オレンジを庭の餌台に乗せてからリンと散歩に行く。公園でカンダさんに会ったので少し雑談をする。リンが少し大きくなったと喜んでいた。  家の前の道で、和服姿の男女とすれ違った。背の高い男性と小柄な女性の二人で、仲睦まじそうに寄り添って歩いている。見覚えがあるような気がして振り返ってみたが、ちょうど角を曲がって行くところだった。  玄関の下足入れの上の達磨の向きが何故か変わっていて、入るなり目が合った。出がけにぶつかったのかも知れない。達磨の向きを直してからリン

          妹の料理の事

          夢の達磨の話

          8月20日  朝から随分と暗い日だった。雲が低く、湿っぽい風が吹いている。座敷の襖が半分ほど開いていて、庭に面した窓が開いているのか廊下に風が吹き込んで来る。襖がガタガタと音を立てるので閉めようと手を掛けたら、中から何かが転がり出て来た。  拾い上げると達磨だった。手のひらに収まるほど小さいから、箪笥の上から飛ばされたのだろう。風で飛ばされてしまうなら別の場所に置いた方がいいだろうかと思っていると、達磨が小さな声で何か言っている。耳を寄せると、こう言っていた。  枇杷の坊主

          夢の達磨の話

          二羽のメジロと笑わない達磨の話

          8月19日  庭の餌台にオレンジを乗せる。  毎朝来ているメジロは、一羽だとばかり思っていたら二羽いた。たまに大きさが違うような感じがしたので、もしかしたらとは思っていたけれど、今朝は梅の木に二羽で並んで止まっていた。向こうも僕を見慣れてきたのか、あまり遠くまで逃げなくなったように思う。  梅の花を手土産に、引っ越しの挨拶をしに来た二人を思い出す。古風で礼儀正しかったなと考えて、あれは夢だったと思い直す。  座敷の縁側に腰掛けて餌台をしばらく眺めていると、今朝も早く起き出し

          二羽のメジロと笑わない達磨の話

          『静かな日々』にまつわる蛇足2

           キリが良いところでまた蛇足。  このnoteを立ち上げて10日ほどで、8月17日の「夏休み最後の日の事」で、過去に停止していた日まで追いついた。  当時書いていたもののうち、辻褄が合わなそうだったり、お前犬にそんなもの食べさせるなよだったり、いやこの人気持ち悪いだろう、みたいなものは可能な範囲で書き直した。  この日から飛び飛びであと2、3日分書いていたものがあるけれど、ここからようやく新しく書き進められる。リライトのようにすいすい書けるわけではないので、更新ペースは落ち

          『静かな日々』にまつわる蛇足2

          休み明けの話

          8月18日  休み明けといっても起きる時間はいつもとそう変わらない。リンと散歩に行き、朝飯を食べて出掛ける支度をする。  今朝は妹も朝飯の頃には起きてきて、焼鮭と玉子焼きと納豆とお味噌汁、ほうれん草のおひたしと焼き海苔と梅干しもある。うちの朝ご飯よりちゃんとしてる……と言いながら食べていた。玉子焼きは祖父が作り置きしてくれたものだ。後片付けはやっておきますと言うので、後片付けとリンを任せて出掛ける。  朝の電車はあまり混んでいなかった。  座席に座って窓からの景色を眺めてい

          休み明けの話

          夏休み最後の日の事

          8月17日  夏休みらしいといえば夏休みらしい連休だったけれど、蔵の虫干しには手をつけないまま気が付くと最後の日だった。  リンと朝の散歩に行き、戻って来ると座敷では妹がごろごろしている。布団は畳んであるが、起きているとは言い難い。  そう思って眺めていると、リンが妹に飛びついて、遊んでほしいと要求しているので笑ってしまった。  いつの間にか、寝室から桃色のボールを持って来ている。妹も観念して起き上がり、縁側でリンの相手をしていた。  犬は色の判断ができないという話だが、家の

          夏休み最後の日の事