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記事一覧
【小説】 イワシごっこ 〈「六十度」#10〉
これでいいや うおうおうおうお
あそぼ~よ 魚ごっこ
(ボ・ガンボス「魚ごっこ」)
ユッコと待ち合わせをしている。
ユッコは大学の友人。映画サークルだった僕たちは「修行」と称して映画を観ては居酒屋で議論をするというのを二十年近く続けている。サークルは十人くらい所属していたのに僕とユッコだけこんなこと続けてる。ちなみにみなさんが期待するような事はありませんよ。
「十分遅れる
【小説】踏切のせいだから」 〈「六十度」#6〉
踏切のせいだから
竹田 克也
今日は本当についていない。彼女と喧嘩をしてLINEを送っても返事が返ってこないわ、仕事が終わらずこんな時間になってしまうわ、贔屓の野球チームは負けるわで、散々だった。それに昨日から口内炎が口の中にある。舌で舐めると痛い。ふと子供の頃に読んだ絵本を思い出した。小児癌で死んだ子供の事を書いた物語で口内炎から癌が発見された、というもの。あれは一種のトラウマだ。この口内
【小説】「。」を打ちに、 〈「六十度」#14〉
短編小説サークルの締め切りが近づいているのに書ける気配がない。趣味なので金になる訳でも罰則がある訳でもない。だけど締切は守るというのを最低限のルールにしているので焦っている。今回の作品は「鬱屈した男が破壊から人生を進める」というもの。何でそんなもの書くのかと言えば、そういう素質が僕の中に存在するからだ。私小説性を乗り越えられない事自体が僕の限界なのは十分知っている。だけど書くのだ。
とはいえ諦
【小説】光の形に装うように〈六十度#12〉
私は中年の音楽家である。生業というには心もとない。月に一度のライブと少しの作曲仕事。それでは食えないのでラブホテル清掃を食い扶持にしていた。妻がいた事もあったが今は一人だ。夢に囚われた男の末路そのものであった。
その日も誰かの逢瀬の後始末をこなして、夕方からは地元のカフェ・オンブラで読書をしていた。「佐野智也さんですよね」と知らない男に声をかけられたのは読書の小休止でしおりを挟んだ時だった。た
【小説】刻々と〈「六十度」#13〉
目覚めるとそこは一人暮らしの部屋だった。見慣れた天井を認識するまでに数秒かかった。スマホの時計を見ると十一時を回ったところだった。アパートの外から人の声や車の排気音が聞こえてきて一日が始まっている事が分かった。体が濡れていて気持ちが悪かった。羽化する時の虫のように布団から這い出てシャワールームへ向かった。
女と交わる夢を見た。相手は百子かもしれないが誰だかは分からない。体を触られる感覚、感情が
【小説】二一二〇〈「六十度」#11〉
唇が切れた。ティッシュで押さえたら裂傷の形で赤く染まった。たったこれだけの傷口なのにピリピリ痛い。こんな傷、数日したら忘れるのは分かっている。だけど今は仕事の集中力を削ぐのには充分すぎる。空気が乾燥しているのだろう。ここは高度なAIで環境管理されているため空調について考える事は普段はない。でも稀にこういう小さなエラーは起こる。エラーが出た時はマザーコンピューターにトラブル報告を行う義務がある。こ
もっとみる【小説】キズハ🔒@ha×××ki 〈「六十度」#9〉
クレオールコーヒースタンドの小説サークル「六十度」九号に掲載した作品です。
公開にしました。このアカウントはわたしの日記として、フォロワー0の鍵垢でメモのように使ってきました。読み返してみるとこれはわたしの告白そのものでした。
いずれ鍵を開けてこの日記が読まれることを想像しながら、読まれないことを前提に書いていました。無意味なことを長く続けることを目標にしていましたが、こんなに早く結末をむ
ウーマン・スナイパー《一章》(2)
ウーマン・スナイパー 《一章》(1) [期間限定 1/30 本文無料]|竹田克也(やきとり王子)/katsuya Takeda
夕方に仕事を終えた一旦家に帰るとすぐに来ていた服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びました。はじめてスイさんと二人で向き合うというのに仕事の穢れを持っていけません。着替えを済まして一本タバコに火をつけたところでしばらく使っていなかったカメラが視界に入りました。もしかしたら今
ウーマン・スナイパー 《一章》(1) [期間限定 1/30 本文無料]
ここに一枚の写真があります。これは写ルンです(使い切りのカメラ)で撮影して、写真屋さんでプリントしてもらったものです。あたしはプリント写真の光沢紙そのものが好きです。光沢紙の表面ってエロいと思いませんか?でもそれについては今は横に置いておきます。本題はこの写真に写るこの男です。この男、水倉新造という名前をお持ちの方でして、行きつけのBARの常連でした。仲間内では「スイさん」とか「スイゾウ」と
【小説】不確かな何処かに向かひて 〈「六十度」#4〉 [本文無料]
クレオールコーヒースタンドの小説サークル「六十度」四号に掲載した作品です。
川べりの道は延々と続いていた。僕はただ砂利の音を頼りに歩き続けていた。空は曇っていてジメジメとした体感が纏わり付いていた。川の流れに沿って歩いているのか、逆らっているのか、僕が歩いている道からは川自体は見えることなく、ただ時折水流の音が聞こえてくるから川べりなのだろうと何となく思っていた。
どれ程歩いたか時間の感覚