確かこの作品は、あまりの内容に日本公開が中止になった記憶がある。そんなひどい内容なのかと思って観ていなかったが、Netflixで鑑賞。ホラー演出を抑えたサタニスト映画になっていた。

ある日、夫婦の住む屋敷に見知らぬ男がやって来る。作家である夫のファンだという男は、妻や子供まで家に引き込み騒動を起こす。困惑する妻だが事態はエスカレートし続けていく。夫に怒りをぶつけた後の性行為によって念願の妊娠をした妻だったが、更なるカオスの幕開けに過ぎなかった…

カオスの原因は、出ました、悪魔崇拝サタニスト！！サタニストのせいだからって全く受け入れ難い結末だが、この人、サタニストだから！しかもハビエルバルデムだから！！と言われれば納得できてしまうのも、ホラーファンの悪いところだ！！！

とにかくアメリカは悪魔崇拝ネタが大好き。トランプ支持派が熱狂的に支持した物語も、悪魔崇拝に絡んでいる。

アメリカ映画の中での悪魔崇拝的なものへの嗜好はありありと分かる。『エクソシスト』は、やっちゃあいけないけど見たい！やってほしい！ほらやったぁ！！というご近所ゴシップネタを極限まで保守層に受け入れやすく変えて作った作品であろう。したがって、悪魔のせいだけではないのでは？というスキが怖いしえげつない。

『エンゼルハート』のロバートデニーロが過去最高にエッチぃということにあらわれているが、悪魔は人気者だ！しかもゲイ向け！！！！爪は切った方がいいぞ！！！！！

『ジャッカルズ』のように悪魔崇拝教団の暴力に強そうなスティーブンドーフが呆気なくやられる作品もある一方、アレハンドロアメナバル監督の『リグレッション』のように、アメリカにおけるサタニストパニックの虚構性を突く作品も興味深い。

また、『ウィッチ』『ヘレディタリー』への評価の高さを見るにつけ、アメリカは、キリスト教的な敬虔さの中に、悪魔崇拝的な衝動を内包しているのではないかという自己疑念を感じているように思う。敬虔さを突き詰めていた宗教的意識高い系のはずなのに、知らぬ間に悪魔の計略に乗ってしまってた！というのが『ウィッチ』の怖さである。また、ええい、乗っかって最後までやっちまえーと暴走する快感を予感する『ヘレディタリー』。ヘイル、ペイモン！と叫んだ人は多いだろう。

写真　我が家のペイモン

また、90年代に10代だったゲイやレズビアンをワクワクさせた『ザ・クラフト』にはっきり出ているように、キリスト教保守の明確な社会の中で居場所のない子供にとって、悪魔崇拝は案外居場所を提供している可能性がある。アメリカの面白さは、全くもって相入れないはずのものを同居させて争わせ、より強いモノ、アメリカの国益にかなう方を残していくという蠱毒生成法みたいな放置主義にある。保守性と自由の主張は、表面上衝突しているが、彼らの間では多分、宗教的意識高い系同士の戦いなのだ。聖戦！！！！

さて『マザー！』では、生殖に絡んで母親の周りから湧いてくる他人の欲望を不快に描いている。何でこんなに私の赤ちゃんのこと知りたがるの？見たがるの？おかしくない？？私の子よ！！！？それとお前精子出しただけのくせに自分のものだとか言うなよ！！！！！！うぉーーー！！！！！！！！

母親に祭り上げられた挙句子供産んだら用済みという一連の儀式の顛末を描いているという意味で、本作は確かにやな気分になる映画だ。儀式を内心ワクワクで進めていく父親の方は、若干、矢部嵩『紗央里ちゃんの家』的な発達障害者なのかなとも思う。詩人な父親＝夫は、最初から最後まで全く妻の話を聞いていない。儀式だから。妻もそこを見抜いて『あんたは自分のことしか愛してないじゃないの！』とキレるのだ。そのあと妻と子に起きた悲惨すぎることを前に夫が『皆を許さなければ…』と泣いて妻に言うのもはっきり言って頭おかしい。しかし、何かこういうこと言いそうな人っているのよね…何らかの発達障害と宗教的敬虔さや職業的忠誠心は紙一重だと教えている作品だ。

確かに本作、猿渡由紀さんが書く通り、インディーズ映画でやるべき内容では？というのも分かる。

まあそれはつまり…グモモモ…とか変なキャプションと、ベビィ食っちまったダ！とか安い邦題つけられてDVDスルーされ、一部ファンに喜ばれるべき作品だって意味かしらね。ホラー映画を低く見たい人の意見なんじゃないの。社会の中で価値があるものとされることの本質は何なのかって考えることは、大変知的な態度だし、ホラー描写を抑えた上でこのクラスの作品として描かれるべきだとも思う。ドラッグや芸術に自我を乗っ取られる人々を描いてきた監督だから、宗教と生殖に取り憑かれた人々が気持ち悪いよと描けてしまうのね。そして、下手すると、うん、宗教的敬虔さはこうあるべきだ、と思う人もいそうな気がして落ち着かない！！