竹美映画評68 機械仕掛けのビッチはアメリカをぶった切るか?『M3GAN』(2023年、アメリカ)

ブラムハウス・プロダクション社は、『ゲット・アウト』に代表される所謂ソーシャルスリラー作品群により頭一つ飛び抜けたホラー製作会社として浮上した。同社は人気のホラークリエイターとコラボし、コントロールを利かせながら、一方では彼らの好きにさせる作品群、もう一方ではブラムハウス印のマーケティング戦略のための作品群を作らせているように思われる。

ポリティカルコレクト時代のホラーは、意外…とももはや言えないのだが、古典的ホラーの図式に則って物語が展開する。モンスターは必ず排除されなければならないし、ロビン・ウッド言うところの「ノーマリティ」が最後に回復される。ノーマリティとそれに対置されるモンスターの中身は時代に応じて更新されていくものの、図式は意外と不変である。

長くなってしまったけど、『ミーガン』!ジェームズ・ワン節とブラムハウス調がミックスされた傑作ブラックコメディ作品である。

岡田あーみんの漫画を読んで育ち、清水ミチ子のネタを延々とYouTubeで再生しちゃう、心が薄暗い人にお勧めです。

監督:ジェラルド・ジョンストン(ニュージーランド出身ですって。知らない名前)
出演:バイオレット・マッグロウ(マイク・フラナガンもの『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』に出た子ね)、アリソン・ウィリアムズ(『ゲット・アウト』のアンチ・ヒロイン)等

お話

両親を交通事故で亡くした姪ケイティ(バイオレット・マッグロウ)を引き取ったジェマ(アリソン・ウィリアムズ)は、勤め先のおもちゃ会社で試作した、少女の姿をしたAI搭載のお友達ロボット、ミーガンのテストのためにケイティと一緒に過ごさせてみる。たちまちミーガンとケイティは親密になっていくのだが、ミーガンは(もちろん)ただ従順なロボットではなかった…。

シリアル・ママの再来、ミーガン

ストーリーとしては何も引っかかりが無い(私にはね)のだが、本作の魅力の源泉は90%がミーガン。ミーガン観てるだけで楽しめる。予告編で出て来たくねくねダンス、もっと長時間観ていたかった。あの造形を作り出しただけでもブラムハウスは偉いよ。後にも先にももうあれは「ミーガン」になっちゃう。

ミーガンの面白さは、その幼い顔面を突き破って海千山千の経験豊富なビッチ感があふれ出している点にある。人の言うこと聞かない上自分の運命は自分で決めちゃう暴走ビッチだよ!!!!しかも若干頭がイカレているビッチだ。普段からうだつの上がらない薄暗い人生でやさぐれ気味のゲイは、本作の不謹慎の風に懐かしいものを感じるかもしれない。最近そういうのなかったもんね!!!倫理的なのばっかりだもん。そして、ブラムハウス社がいかに我々の観たいものを次々に繰り出しているか、ということの見事な証明でもある。米国ではヒットしているそうな。分かるわー、みんなでミーガンダンスしたいじゃん。『ターミネーター』と比較されているけど、私はねえ、これは『シリアル・ママ』の快楽だと思うんだな。

隣のマナー知らずのおばはんと飼い犬が出て来た瞬間に、我々は何が起こるかを予測できる。また、ミーガンのグルーミング(と言わせていただく)によりくそわがままになったケイティが、仕方なく林間学校に行けば、当然のように年上の乱暴な男子に意地悪をされるわけよ。するとさー、こっちはミーガン召喚!!!スイッチオン!!!!となるわけよ。毎晩毎晩YouTubeで「クソ夫/妻/姑に復讐してやった」系の動画を観てる私とあんたの下衆なセンスに寄り添った作品なのよ、分かった? 倫理というものは一切考えなくてよろしい。徹底して意地悪い気持ちになって鑑賞したもの勝ち。ジェマの描写があまりに空虚で気の毒になっちゃうこととか、ジェマに対して将来「私は搾取された」と訴訟を起こすに違いないケイティとの絆などどうでもよくなってくる。それが狙いなのかもしれない。だってミーガン以外に興味無くなって来るんだもの。

えげつない大人と将来が心配な子供

何つっても、ジェマは自分の姪の心の傷をはっきりと自分の出世のために利用しているのである。えげつない人物だ。作中ケイティが流す涙は、そんな空気を読んだ演技なのか、それともジェマの意図を超えたほんものなのか、全く分からない。そこのシーンは作中の人物たちも動揺している。子供をダシに使うなんて…という1ミリ程度の倫理観で胸が痛むわけである。そこでそういう罪悪感を隠ぺいする行為は何か?その子の涙に感動して見せることだ。それで許されるのだ。あのシーンは、自己演出過剰なアメリカ的空気に対する客観視なのかもしれないね。監督さんニュージーランド人だし、ジェームズ・ワンは豪州人。

作品としては一応、「ノーマリティ」に対するモンスターの攻撃として描かれてはいる。しかしながらモンスターの方が面白過ぎてそっちに気を取られてしまうという意地悪作品。何かこういうの、今必要なんじゃないかね。ジェームズ・ワンはいいね。『マリグナント』も痛快だったし。クリストファー・ランドン辺りがなかなか出し切れない「意地悪さ」がいい。

ミーガンはアメリカではゲイ受けしていると聞いたんだけど、ちょっとどころじゃなく分かるなあ。上品な服を着て(白タイツにおリボンwww)、すました顔して明るい声で恐ろしいことを言いだしたり、とんでもねえ攻撃をしかけてくるミーガンは、完全に女のパロディである。ドラァグクイーン的なのだ。ロボットである設定が効いているのかもしれないが。もっともっとビッチなミーガンを観ていたい。

というわけですっかりブラムハウスの戦略に乗ってしまった私なのだったゴゴゴゴゴ

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