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vol.9『人間のオスはなぜ育児に参加するようにプログラムされているのか?』

■今週の課題図書

『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』/ジャレド・ダイヤモンド著

■『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』を読んでの学び、感想

人間は、子育てを両親が力を合わせて行う動物。ただ、著者によれば、それは生物全般でみると実はマイノリティだという。中には、子どもを産んだ瞬間にメスがオスを食べてしまう虫なんてのも聞いたことがあります。人間もいち生物であって、基本的な性質はインストールされているのかと思うと、自分自身も悩んだりすることはなんだかどうでもよくなる気がする。ただ、どんな生物にも、特有の性質を持つに至った理由があって、とても興味深く読めました。

課題図書を読んでの学び・感想

■はじめに

近年、日本政府は、両立支援とかパパ育休とか、男性が育児参加することに躍起になっています。かなり男性育休率はだいぶ上がってきましたが、長期で取得できている人はまだまだ少ない現状。

今回は、人間を生物のオスとメスという視点で見たときの、生物学的な観点の「育児」をテーマにしていきます。

■ 今回の問い

『人間のオスはなぜ育児に参加するようにプログラムされているのか?』

今回の問い

男性の育児参加は素晴らしいと思うが、本来の「生物」という観点でみると、実はそういう構造になっていない可能性はないかと思い、今回の問いとしようと思います。

■人間社会における「オス」の育児

近年、先進国国諸国では父親の育児参加が推奨されており、育休の取得率というのが指標として重要視されています。世界で男性育休がもっとも進んでいると言われるスウェーデンでは約80%もの男性が育休を取得するらしいですね。しかも、この数字はスウェーデンの女性と同等の取得率と言うから驚き。

日本も2025年には男性育休取得率30%を目指すと言うことで、制度の拡充と社会全体の理解度の進みからみて達成できそうな気配は出てきましたね。労働力人口の減少が重要課題の日本においては、男女同権という観点はもちろん、女性に労働参加してもらうという意味でも、男性の育児活動への参加は非常に大切になります。

■ 動物社会における「オス」の育児参加

いきなりですが、動物社会でみると男性の育児参加はどのようになっているのでしょう。

実は動物社会では、オスが育児参加しないのが普通。その中でも、哺乳動物の中でみると、オスが育児に参加するなんてことはレア中のレアで、ほとんどは交尾が済むと、子どもはおろかメス(母親)にさえ関わりを持たないし、もっと言うと、哺乳動物に限らず、動物全般はオスが子育てに参加すること自体がかなりマイノリティなのです。

ただ、中には例外もいて、シギという鳥は、オスが卵を温め雛を育てたり、タツノオトシゴなんかもオスが卵を育てるらしいです。こういった「役割分業」は当然のことながら、意識的に行われているわけではなく、自然淘汰的な結果としてそうなっているのです。

■子育ての担い手の押し付け合い

著者によると、生物すべての究極的な目標は「遺伝子を後世に残す」ことであり、変な話、生まれた子や受精卵が親の手助けなく勝手に育つなら、どちらも育てず、その期間両親は別々の新しいパートナーと違う遺伝子の種まきを始めるのが種の保存的な観点から見ると最適解となるようです。
しかし、そのようなケースは珍しく、やはりどちらかが面倒を見ないと子は育たず、結果として共通目標は達成されなくなってしまいます。そうして、オスとメスの間で押し付け合いの対立が始まるのだそう(2人で仲良くやろうとはならないんですかね。。)。

■動物のメスが主に育児をする理由

そして、その対立の結果として、多くの場合がメスが子育てを請け負うのですが、なぜ主に育児をするのがメスということになるのでしょうか。

それには3つの要因があると著者は言います。

①子供への投資量
②子育てをすることで失う繁殖のチャンス
③自分が親であることを確信できるか

課題図書より引用

上記3つの要因が絡みあって、オスとメスのどちらかが育児をするのかが決まるという。

まずは、①子育てへの投資量。
例えば、人間の場合、女性の体内で受精し、約10ヶ月の時間と労力を費やすのだから、女性の方が圧倒的に投資量は多いということになる。これが体外受精の場合はまた結果が違ってくる。ニシキヘビなんかはオスが単独で子育てをするケースもあるそう。

次に、②の子育てをすることで失う繁殖のチャンス。
体内受精の場合、メスは妊娠の間は拘束されることになり、哺乳動物であればさらに授乳期間まで拘束されることになり、新たな繁殖チャンスはない。言い換えれば、メスの場合、おなかの中に子供がいる場合、いずれにしても新しい子供を育てられないので、子育てに専念しても損はないのです。ただ、オスはわけが違います。オスが子育てを請け負った場合、別の新たな繁殖機会を逃すことになるのです。

最後は③自分が親であることを確信できるか。
これは言わずもがな、メスは自分から生まれているかぎり、自分の子供であることを確信できますが、オスは生まれてきても、確信する術はないに等しいのです。(人間はDNA鑑定がありますが。)

以上の3つの理由から、結果的に多くの動物はメスのみが子育てをするのだといいます。

■人間のオスが育児に参加する理由

とはいえ、古くから人間社会では、ほとんどの男性が何の疑問を持たず、子供と妻の面倒を見てきました。食料を調達したり、部外者から子供や妻を守ったり、土地を手に入れたり、家を建てたり、仕事をしたりすることも含めて、母親とは少し違う役割かもしれないが、しっかりと子育ての一役を担ってきたのです。

このように、人間のオスの育児参加もやはり他の動物同様、何か計算してそいしているわけではなく、自然淘汰の結果として、遺伝子的にプログラムされてきたものなのです。そうしたほうが、種を後世に繋げることができると遺伝子的に判断したのでしょう。

■これからの男性育児に期待されること

このように、人間社会では当たり前に行われてきた男性の育児参加。
しかし、昨今世界で期待される男性の育児参加で求められるは、これまでの食料調達や労働だけでなく、家事や料理、子供をお風呂に入れるなど、ママが担ってきた役割の一部を担うというようなことでしょう。つまり、育児における男性に求められる役割と、男女平等の意識の向上が、これまでとは少しずつ変わってきていることが感じますね。

■まとめ

このように、人間のオスは、動物界では珍しく、子育てに参加する生き物です。多くの動物たちは、メスのみが育児を行いますが、それは、メスの方が子育てをしたほうが、「遺伝子を残す」という種族全体の利益最大化の結果として遺伝子に組み込まれたのです。

人間の場合は、オスが子を育てるために餌を取ってきたり、家を建てたりと、古来から守る役割を担ってきました。そして、現代では、女性の社会進出が進むにつれて、ごはんを取ってきたりするような間接的な子育てだけでなく、子どもにご飯をあげたり、お風呂に入れたり、オムツを替えたり、これまで母親が担っていた役割を担うことも一部期待されるようになりつつあります。これも遺伝子プログラムに組み込まれた進化なのかもしれないですね。

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