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【歴史本の山を崩せ#019】『田中角栄』早野透

《田中角栄を間近で見続けた番記者による評伝》

戦後日本を代表する政治家の名を挙げろと言われれば田中角栄を挙げる人は少なくないのではないでしょうか。
数年前も石原慎太郎による評伝『天才』をはじめ、出版業界ではちょっとした「角栄ブーム」が起こっていました。
こういうブームに便乗した本は、粗製乱造されたものも少なくなく玉石混交となりがちですが、この本はブーム以前に書かれたもの。
中公新書ということもあり、手堅く比較的手軽に読める評伝に仕上がっています。
角栄の番記者だった著者が直接見聞きしたエピソードも豊富です。

高等教育を受けず、才覚と努力でついには総理大臣にまで登り詰めた異才。
首相就任時は「今太閤」「コンピューター付ブルドーザー」などと持て囃され、金脈問題で失脚後も政界に隠然たる影響力を行使しつづけ、「闇将軍」と称される。
政治家として毀誉褒貶の激しい人物です。

「政治とは生活である」。
この本で触れられる、彼と地元の関係…まるで「御恩と奉公」のようなシステムは、単純な利益誘導とは言い切れない感覚を覚えました。
彼の作り上げた「構造」は、いわば日本的な政治土壌に適合したが故に、角栄亡き後も生き続けたのでしょう。
それに挑戦したのが小泉純一郎で、いくらかの打撃は与えたものの、「構造」自体はいまだに確固として残っていると感じます。

本書の副題は「戦後日本の悲しき自画像」。
悲しいかどうかはわかりませんが、自画像というのは言い得て妙です。
それだけ田中角栄という政治家は日本に根を下ろし、ことあるごとに「ブーム」を起こし、これからも時代の節目で改めて注目を集めていくことでしょう。

今年は角栄が首相として成し遂げた日中国交正常化からちょうど半世紀となる年です。

『田中角栄』
著者:早野透
出版:中央公論新社(中公新書)
初版:2012年
定価:940円

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